Eveがアリーナライヴ”虎狼来”で示したライヴ・アーティストとしての多面的な魅力と実力

 この感動をフレッシュなうちに大事にパックしておきたかった。

 私は2023年8月26日・27日にぴあアリーナmmで開催されたEveさんのライヴ”虎狼来”に両日参加する予定だったのだが、体調不良により断念し、泣く泣くチケットをリセールに出した。何ヶ月も前からずっと楽しみにしていたライヴだった。体調も回復してきたなか、どうしても諦めきれなかった私は、ファイナル公演前日の夜にリセールのサイトを見てみた。すると、サイトを開いた瞬間にアリーナ21列中央寄りの席が奇跡的にリセールに出されていた。夢中でボタンを押し進めると、すんなりチケットが取れてしまった。ありがとうございますありがとうございます、と私は神様に感謝した。体調不良で辛かった1週間が報われた気がした。私は念願のEve”虎狼来”の最終日に参加できたのだ。座席はブロックの中では1番前、ステージの中央寄りで遮るものがなく、花道先端から6〜7mという奇跡的に良い席で、本当にありがとうございます、と心から思いました。

 今回のライヴで、Eveさんのライヴ・アーティスト、ライヴ・パフォーマーとしての実存性、身体性、肉体性を強く感じることができた。そして何より、Eveさんの人間性に、今までのライヴよりもより触れることができた。過去のライヴにあったような紗幕はなく、Eveさんの存在感がダイレクトにオーディエンスに伝わってきた。Eveさんは顔を隠すこともなく、ライトに照らされたなか、ナチュラルな姿で私たちの前に現れた。それは紛れもなく、Eveさんという1人の人間、1人のアーティストの姿だった。

 雑誌『NYLON』2021年2月号では、「5次元を奏でる超意識体アーティストEve」と形容されていた。雑誌『SWITCH』2022年4月号では、依田伸隆さんがインタビューで「「Eve」という概念」に触れられ、川村元気さんはインタビューでEveさんの”分人”性に言及されていたのがとても興味深かった。どれも言い得て妙だ。でも、今回のライヴでのEveさんは、とても人間味があって、ライヴでしか見ることのできないEveさんであり、ちゃんと存在感があった。ライヴとは、多面的なEveさんのもう一つの重要な側面である気がした。

 ライヴでのEveさんは、身体表現がとても豊かだった。ダンスではないのだけれど、身体の動きで、グルーヴ感やエモーションを表現していて、視覚的にも訴えかけてくるものがあった。それはEveさんの歌声そのものにも言える。Eveさんの、ボーカリストとしての魅力が際立っていた。まず、生で聴くと、声量が凄い。ライヴでは終始ぶち上がる曲を沢山やってくれてめちゃくちゃ盛り上がったのだが、私にとって特に印象的だったのは、バラードの曲たちだ。ライヴの序盤、Eveさんは花道の先端まで来て、”杪夏”と”蒼のワルツ”を歌ってくれた。Eveさんの繊細で美しい歌声が澄み渡っていた。楽器はほぼピアノ伴奏のみのなか、Eveさんは歌声をあれだけ綺麗に響かせ、歌声で聴かせる、ボーカリストとしての技術も兼ね備えている。スポットライトの中、目を閉じて、とても大切に、身体全体を使いながら心を込めて歌うEveさんの姿に胸が打たれた。

 バンド・メンバーズの皆さんもめちゃくちゃかっこよかった。guitarのNumaさん、bassのMasahito Nakamuraさん、drumsの堀正輝さん、keyboardsのSUNNYさん。ロックからディスコ調のダンサブルな曲やバラードまで、多彩な楽曲に対応するサウンドを繰り広げる抜群の安定感と技が、Eveさんの音楽とライヴの根幹を支えていた。腹の底に響いてくる低音の迫力とグルーヴ感、疾走感や壮大なスケール感。要所要所で挟まれるバンドメンバーズによるインストゥルメンタルが、ロックでアグレッシブかつプログレッシブで、本当にかっこよく、それだけでもものすごく価値のある素晴らしいパフォーマンスを観せて頂いて、大充実だった。

 今回のライヴでの数あるハイライトの中でも特に忘れられないのは、ゲストにヨルシカsuisさんを迎えての、”平行線”と”僕らまだアンダーグラウンド”のパフォーマンスだ。私は3年ほど前に一度、東京国際フォーラムでのヨルシカのライヴに行ったことがある。その時のsuisさんの歌声の美しさ、力強さ、表現力、歌のうまさに圧倒されたのを覚えている。Eveさんとsuisさんの歌声の掛け合い、2人それぞれの高音の響きが美しく重なり、男女のボーカリストたちによるデュエットにしか出せない魅力、良さがあるのだと実感させられた。suisさんが、”僕らまだアンダーグラウンド”を初めて聴いたとき、運命を感じて、今回この曲を選んだ、という趣旨のことを話してくれたのがとても印象的だった。

 Eveさんの音楽は、すごくポップなんだけれどオルタナティブでエッジが効いている。例えば、最近の”退屈を再演しないで”や”虎狼来”、最新曲の”冒険録”に、私はDAFT PUNK的なニュアンスや、最新の海外のポップミュージックの文脈を感じている。Eveさんの音楽における新たな領域への飽くなき探究心を感じる。実はすごくクセの強いことやマニアックなことをやっているのに、老若男女に受け入れられ、多くの人々に届く音楽。それこそがポップであるということだろう。EveさんのMVのアニメーションやアートワークや、グッズのイラストに出てくるキャラクターたちも、みんななかなかクセが強い気がする。かわいいキャラもいっぱいいるけれど、一見すると不気味でちょっと恐い、奇妙なキャラもいっぱいいる。でも、みんなどこかファニーで憎めず、独特の世界観を持っていて、ファンからも愛されている。Eveさんは音楽でも視覚的表現でも、そういうギリギリの絶妙なラインを攻めてくるのが本当にすごいと思う。

 曲ごとにスクリーンに映し出されるアニメーション映像のクオリティも、半端なかった。ひとつひとつが映画のようなレベルで手が込んでいて、時に美しく幻想的で、時におしゃれ可愛く、時にエッジが効いていて目が離せなかった。Eveさんの楽曲とアニメーションの物語性がとても合っていて、視覚的にもとても印象的だった。

 Eveさんは、毎月1回か2〜3回、ツイキャスをしてくれる。そこでのEveさんとリスナーとのやりとりが面白くて、いつもクスッと笑ってしまう。ゆるい雰囲気で、別にウケを狙っている感じでもないのに、なんか面白いのだ。なんか笑っちゃうのだ。私は毎回聴きながら、「Eveさんって面白いなあ。」とついひとりごとを言ってしまう。ツイキャス、ウォッチパーティー、クリスマスイヴの配信…Eveさんはいつも、ファンのみんなを喜ばせるために様々な楽しいことを考えて実行してくれている。そして、Eveさん自身が、ファンとの交流を楽しんでくれているのがとても伝わってきて、ファンも嬉しいのだ。Eveさんは、そういった近さや繋がりをちゃんとリスナーたちに感じさせてくれるアーティストなのだ。ファン思いなEveさんのゆるくて面白いversionがツイキャスだとしたら、ライヴは、ファン思いなEveさんのめちゃくちゃかっこいいversionだな、と思う。

 開場BGMもめちゃくちゃ良かった。プレイリストも公開されている。有名すぎない、売れすぎてない洋楽が含まれていて、絶妙なチョイスだと思った。私は個人的に、LANYの”13”と”Good Girls”、Fly By Midnightの”In the Night”に、夏の甘酸っぱい思い出的なものと、90年代的な懐かしさを感じてツボだった。お気に入りで毎日聴いている。他にも、お腹がぺこぺこで、ライヴの前にみなとみらいのショッピングモールで食べたハラスと牛肉のどんぶりが美味しかったこと。ご飯屋さんで、乳母車に乗った赤ちゃんが自分へ向かって笑ってくれたこと。不思議なもので、周辺的、副次的なものにこそ、記憶のスイッチが宿る。この先も、私の中で、何度も、何度でも、この楽しかったライヴの記憶が蘇っていくだろう。

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