青空の下、富裕層の健康について考える

我が家の裏にはテニスクラブがある。いや、テニスクラブの裏に我が家があるのだが、屋内○面、屋外○○面、駐車場完備、レストラン併設のそれはそれは広大な敷地を誇る、富裕層向けの会員制クラブだ。
ただし、富裕層向けは想像である。
出入りする車が高級車ばかりなので勝手に僻んでいるだけである。
平日の昼間にテニスを楽しめるのはお金にも健康にも余裕のある人たちで間違いはないとも思うが、それでも富裕層向けは想像である。

ベランダから覗くと屋外コートの一部が見える。窓を開ければ、ポコンポコンとボールを打つ音と「ごめんなさーい!」という自身のノーコンを相手に謝罪する声が聞こえてくるが、気になるほどではないし窓を閉めていれば聞こえない。

雲ひとつない青空。
風はあるが気温は30度を軽く超えている。
日射しは強く、外に出れば暑さにめっぽう弱い私には「無理」と言う言葉しか発せられない。
そんな日に限ってテニスクラブに植えられた木の葉っぱがベランダに大量に溜まり、窓には鳥のフンが付いている。
正直に言おう。葉っぱも鳥フンも数日前から気にはなっていたので今日起こった事件ではない。
それでも今日に限って掃除をするやる気が起きてしまったのだ。

ベランダを掃き掃除し窓を拭く。
5分で終了である。
何故もっと早くやらなかったのかと自分を責めた。
が、炎天下の午前11時20分にやることではなかったかも知れない。
全身から汗が吹き出し後悔に苛まれている私の耳に「ごめんなさーい!」と爽やかな声が入ってきた。
テニスをしている。
もう一度言うが、雲がないため日射しが強く風はあるが30度を超える真夏日なのだ。
11時20分といえば、完全夜型ヴァンパイア体質の私は朝の涼しい時間帯のように錯覚するが、実は立派に昼間なのだ。

水分・塩分・適度な休憩は言われなくても取っているとは思うが、私だったら5分掃除をしただけで限界を迎える暑さなのだ。当然疑問が湧く。
この人たちは健康なのか?
テニスを許される程には健康なのだろうし、そもそも健康のためにテニスをしているのかも知れないが、元気すぎやしないか?
富裕層だからといって熱中症にならないわけではないだろう。
そこまでしてテニスがしたいのか?とも思うが、富裕層とはいえテニスをするためにお金を払って通っているのだ。まあ、したいのだろう。

5分で限界に達した私だが困ったことにやる気は終了しておらずシーツやらを洗濯し、意を決して再度ベランダに出る。
ふとテニスコートを見ると誰もいない。
ボールを打つ音も声も聞こえず、とうとう暑さに負けて諦めたか、と納得し部屋に戻った。

13時、風が強いのでシーツの具合を見るため窓を開けると、突然「ごめんなさーい!」と声をかけられ、声がした方を見ると多くの富裕層がテニスを楽しんでいた。
そう。シーツを干したのは12時過ぎ。
お昼休憩だったのである。

健康かよっ!と、脳内のさま~ず三村氏が叫ぶが、その声は風にかき消された。

すっかり乾いたシーツを取りこみ部屋に入ろうとするが、この炎天下にテニスをするという命知らずな富裕層をもう一度目に焼き付けておこうとコートに目を向けると「ごめんなさーい!」と元気な声が聞こえた。何度も聞いたので分かっている。声の主はずっと同じ人物だ。

三村氏が叫ぶ。
ノーコンかよ!
その声もまた風にかき消された。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?