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雑記

ちょっと暗い気持ちなので頑張って詩人になる
汚い表現ばっかだよ

冬が突然、機嫌を損ねた。
大雪でもないが風は強く、ちらちらと雪が降っていた。

脱衣所で衣を脱ぎ捨てるのも億劫で
人間の体はこうも不自由なのかと不快な気持ちになった。

人間が生殖を人間としての存在価値だとするのなら、それすらも出来ない、不能たる私は人間であると堂々街を闊歩するのは正しいことなのだろうか?
不能なのに、下着を汚し、手間をかけてくるこの体は、果たして正しいのだろうか?

もしかしたら先週、親が病院に行くのを忘れなければこうはならなかったのかも知らない。
下着を水を溜めた手桶の中に沈めつつ考える。

きっと私が、忘れてることを言ったら
「お前が言わなければ行かなくて済んだのに」
等々言われていたことだろう。
幾ら福祉が充実していても行けないのは、生まれのせいなのだろうか。
汚れが浮いて、濁った水を流しまた手桶に水を汲み、沈める。

いい加減汚れが浮いてこなくなった下着を透けた椅子の上に乗せ、髪を洗う。
かなり伸びた髪は切りたかったが、訴えれば
「幾らかかかると思っているの?妹たちは掛からないのに!」
と返されるのが分かっているので諦めた。
もう直ぐ教師に髪を結べと指導されるのだろう。

風呂場の鏡が曇り始める前にふと自分の身体を見た。
同級生にまな板をあてがわれ、
「(本名)と同じやね」
と言われた事を思い出した。
私はなんと返したのかまでは思い出せなかった。

冬場はリンスが綺麗に落ちきらない気がして、つい避けてしまう。
どうせ綺麗だろうと誰も見やしない。

泡を立てるみかんのネットを束ねた様な物にボディーソープを押し付ける。
無理矢理揉むようにすると次第に泡が立ち、足元に、ぼとぼとと落ちた。

思わず踏みつけた。
踏みつけた泡の固まりは足の指の隙間から顔を覗かせ、
「お前がそんなことして、許されるとおもうのか?」
叫びを漏らした、そんな気がした。

二枚に分かれた蓋を開けると、最後に入るためか白く濁っていた。
私はさっきの手桶を思い出しつつ、そろそろと浸かる。
私の前に入った父親は金銭的な事を何も考えない為か、追い焚きを何度もする。
そのせいで上がった湯温に足先が何故か冷えた。

水面には擦りとった様な垢が浮いていて、自分の体に寄って欲しくなかった。
腕を宛らワイパーの様にして、垢を奥へ奥へと押しやる。
二枚重なった蓋から水滴が垂れ、水紋を作るのを鬱陶しく思い、腕の動きを強めて大きな水紋を作る。
それでも蓋からは垂れてくる。
私は蓋の端を掴み、垢の浮く奥へ向けた。

水面に目を向けると、また垢が迫っていた。
もう面倒くさくなり、そのままにした。

昔、母親に言われた事を思い出した。
「(本名)が風呂に入った後お湯が汚れてるから最後に入ってね」
母親はこの湯を見てもまだ私のせいだと言うのだろうか。

母親が毛嫌いする母方の祖母について思い出した。
夏休みに帰省すると、風呂に一緒に入ることがよくあった。
祖母の体は服薬、度重なる手術の影響で決して綺麗ではなかった。

祖母があるとき、私の体に触れた事があった。
私は今だったらペドフェリアであるとか何とか騒ぎ立てた事だろうが、何も知らない子どもだった。

嫌がったのだろう、きっと。
それ以来祖母と風呂に入った記憶は無い。

ふと、時計を見ると良い時間だった。
しかし、上がれば誰かしらの干渉が入る世界に戻ることになる。
私はまだ浸かることにした。

今日は日曜日だから(推し)の定期配信がある事も、(推しのいるグループ)が忘年会をする事も知っていた。
どうやっても惨めになるのが目に見えていた。

傾斜のついた湯船に背中を滑らせ、頭部を水面に浮かべる。
昔、不登校になりかけた事があった。
その時期は風呂でこうして浮いていると何も考えずに済んで、
その時間がなければ今、不登校だったのかも知れない。

流石にもう上がろう、そう思い湯船から這い出てスプレータイプの洗剤を手に取る。
風呂に最後に入った人が掃除をするルールの為、一分間待つ必要がでた。
昔はスポンジで掃除をしていたのでかなりの高待遇と言えるだろう。
未だに、店先で顔つきのスポンジを見ると当時使っていたスポンジを思い出して嫌な気持ちになる。

その間に体をもう一度洗い、心理的な嫌悪感を軽くした。
鏡にシャワーを向けると、低身長の冴えない、頭も中途半端、性格も良く無い最悪が姿を現す。
当時好意を寄せていた同級生が言っていた
「(本名)?ああ、臭いし、デブだし気持ち悪いから喋った事ない」
陰の言葉を反芻する。

その言葉を聞いてから何度も制服を洗濯にかけ、
香水を何度も頭にかけ、制汗剤で身体が濡れるまでしてしまう癖が付いた。
前々から家族に気を遣い減らしていた食事を、さらに減らした。
他人と喋る時は、幾つかの内容を考えてしゃべった。
一人称も語尾も統一出来なくて頭の中には沢山の人が騒ぎ立てるようになった。

そうしたらいつの間にか最悪が出来ていた。
鏡を直視したくなくて、台に並んだ石鹸類を整列させる。

その内の一つが私に向けて怒鳴る。
「お前が触ったせいで汚れた!」
また一つが私に向けて何か言う。
聞きたくなくて、シャワーで水を掛けて窒息させた。

水の抜けた湯船を洗い流し、蓋を壁に掛ける。
週末の洗濯のために下着から水が残らない様に
「(本名)の手って小さい」と言われた手で絞る。

週末に一人分のみの選択を強いられてさえいなければ、そのまま脱衣所に置かれた洗濯機に放り込むだけで済むのに。
前に入れた時に酷く叱られた事を思い出す。
「あんたが母親に喧嘩を売ったんでしょう!?」

二年ほど前にも同じ事があった。
その時は父親が私に向かって怒鳴り、私が謝りに行く事で許された。
父親は知っているのだろうか。

鬱屈とした日々にまた戻る為、脱衣所の珪藻土を踏みつけた。

好きにしたまえ 恨み等はしないことを宣言しておく