見出し画像

惨めな気持が追いかけて来る

今すっごい気分が下がってるから詩的な文書きますわ〜
頑張りますわ

雨粒が地面へと特攻をしている。
その音を窓際の廊下で耳に押し込まれる。
許されるなら聞きたくもない、幾らイヤホンから聞こえる音を上げようとも天は加減しないらしい。
私の肩幅より多少広い程度の机に広げた人類のダイジェストは一向に進まない。
きっと、雨音が煩い所為だ。

雷の轟音まで轟出した廊下は春先だと言うのに酷く冷えて寒々しい。
愚かな私はブランケットを洗濯してしまった為薄手の長袖一枚で凍えるしかない。
嗚呼、でも地球の真反対ではブランケットすら与えられない子供だっているのだから文句は云うべきではないのかも知れない。
イヤホンから流れ出るララバイはゆったりと、私を責め立てる。

何故こんな深夜まで起きなければならないのか
お前が傍観者に過ぎないことは判っているだろう
わざわざラジオを引き摺り出して 
恥ずかしくないのか
彼等はお前の事なんて顔も名前も何一つ知らないのだから
早く理解したらどうだ
お前は愚かで何も出来ない何もしない努力も怠る周りを妬み嫉み足を引っ張り不快にさせる汚らしい塵だと

ララバイは巻き戻しに入り、オルゴールの巻き戻し音が流れる。
私は 私はきっと将来有望で、
これ以降の言葉が何も見つけられなかった。
何度もララバイを巻き戻していつまでも子供でいたい、そんな考えを轟音が切り裂く。

お前は駄目だ
お前は塵だ
お前は消えろ 
お前は
お前は
お前は

ララバイに織り込まれた
親の子供を慮る気持
親の無償の愛
親の将来への期待
私にはララバイを聞く資格があるのだろうか

もう一時間もすればラジオの初回放送が始まる。
四月以内に入会すれば特典がつく、そのラジオはきっと盲目的な信者を楽しませ 更なる寵愛を受けるためのラジオなのだろう。
私には特典が喉から手が出るほど魅力的で手に入れたかった。
しかし現実は私を幸せにする様には出来ていないようで。
特典を得られる立場にある方方に羨望を向けることしか叶わないようだ。

早く、生まれていれば
性別が、違っていれば
私が彼等に抱く感情も許された筈だ。
こんな感情を持つ位なら生きていたくない、そう強く考えて、振り払う。

死んだら賽の河原で石積みだ
無能なお前は出来ずに死んでも救われない

背の高いカラーボックスに置かれたフィギュアが、憎く見える。
斜め上から見下ろされ、見下されている気分だ
躁鬱でも、中卒でも、メンヘラでも美貌を持っているだけで生きていける。
そんなキャラクターが心底嫌いだ
だが、同時に殺したい程好きでもある。

この殺してしまいたい程に好きなキャラクターに並んで好きな彼は今日から、ラジオパーソナリティだ。
声優の道を諦め、友人に誘われた実況者として大成功
それだけでなく、結果的に夢が叶ったのだから、私とは大違いだ。
身震いがする程の憎悪が湧き出る。

彼は努力家で、明るくて、きっと顔も整っているのだろう。
何故私には何も与えられないのだろう?
そう考えても自らの努力不足だと終着する。
結局彼には一生懸けても顔はおろか本名すら伝えられないで死ぬのだろうし、彼の本名も顔も誕生日も知ることは出来ないのだろうから
せめて彼の関わった全てが知りたい、それだけなのに

自己嫌悪が空模様に反映されて、雨は一層強くなる。
それでも私は自己嫌悪を止められない。

私がもっと早く生まれていたらきっと、私の両親は優しくて、怪我をしたら直ぐに病院に連れて行ってくれて私が喧嘩をしたら何も言わずに頭を一撫でするだけで済ませて不調を訴えたら嫌な顔一つせずに心配してくれて顔が整っていて性格も良くて身長も高くて金銭的に困ってなくて部屋を与えてくれて兄弟も平等に扱ってくれて殴らなくて暴言吐かない、
そんな家庭に生まれていた筈だ。

男に生まれていれば、先生に指名されて堂々と起立して発表できて父親から毛嫌いされなくて友達が男女構わなくて彼等と話すことが許されて歌を歌っても良くて
何の制約も受けない生活を送れた筈だ。

全て、全てにおいて
両親が悪い
否、生まれてしまった私が悪くもある。
両親の一時の快楽と過ちで生まれたのだから
責任を取って
私が男に早く生まれるのと遜色ない生活をさせて欲しい。
ただ、ただそれだけなのだから。

私に嵌められる型 女であり、まだ成人していない庇護されるべき という型
その型が嫌なだけなのだ。
制服はスカートを無条件で穿かされて、女の子らしく、来客を相手して、髪を伸ばして
全てが嫌だ。
本当はズボンを履きたいし、来客なんて無関係、髪だってツーブロック程度に切り揃えたい
私はこの型から抜け出しても今度は
LGBTの型に嵌められ、蚊帳の外に捨て置かれる。

その未来を分かっている私は今日、今も型を抜け出そうとはしない。
分かっているのにするのは無謀だから。
私は自分が何よりも嫌いで嫌いで嫌で堪らないが何よりも大切である矛盾を持て余して
ラジオの時間が近づく此刻から逃げようと画策している。

嗚呼もう三十分しか無い
何故こんな目に遭わなければならないのだろうか
私は私はただ彼の後光のお零れを得たいだけなのに、
全てを差し置いても大切に思う彼に近づけやしない。
金さえあれば
時間さえ隔てなければ
生まれなければ
こんな思い抱かなかったのに。

心が痛い。
作りかけの刺繍に縫い付けられた糸は彼のアバターを模して、我が物顔をしている。
机の引き出しで犇めく彼のアバターのイラストは窮屈そうに紙の角を曲げている。 

心が痛い。痛くて堪らない。
思考する脳なんて要らない。
両脚も両腕も胴も頭も要らない。
無意識で居たい。
永遠に睡眠を謳歌したい。

落ち着きを得た私の脳内に呼応して雨が終戦する。
それでもララバイは私を追いかけて、追い詰める。
逃げようとも露にも思えなかった。
逃げたところでまたここへ帰って来るのだから。

底冷えした廊下で父親の咳払いと妹の寝息がイヤホンを超えて殴り込みに来る。
私はラジオを91.4に合わせてカラーボックスに放る。
まだ番組は始まっていないが不安に駆られてララバイを止めて誰かの声を聞く。
大人の男の人の声。
私が欲しくても得られない、声。立場。
惨めだ。
金がなくて、クレカを使わせてくれる親がいなくて。
悲しい。
自由になれなくて、盲目信者になれなくて。

母親の一方的激情で解約されたこのスマホとも新学期が来ればお別れだ。
私の三年間、彼のスクリーンショット、今までの経験時間体験全てと。
私は誕生日の五月十三日が来たら新たな人生を歩むつもりでいた。

無理だ

イヤホンの中から聞こえる彼の友人であり同僚の二人の声と星野源の歌声を綯い交ぜにして、
気分が悪い。




好きにしたまえ 恨み等はしないことを宣言しておく