【個人的解釈】舞台『オルレアンの少女-ジャンヌ・ダルク-』

夏川椎菜さん初主演にして初舞台である『オルレアンの少女-ジャンヌ・ダルク-』の大阪公演に参加してきました。

残りは千秋楽が残るのみでありますので、ここで私が感じたことを残しておこうと思います。


※今回は私たち観客へ疑問を投げかける物、私たちに考えさせるものであるという性質から、私は事前の予習をほぼ行わずに参加しています。

また、このnoteを書く上で殊更に調べることもしておりません。あくまで私自身が今回の舞台で感じた事を残していますので、実際の歴史や事実と異なることがあるかも知れません。何卒ご容赦ください。


1.ジャンヌは、生きている。

今回の舞台のメインビジュアルにも書かれているフレーズである「ジャンヌは、生きている。」

https://twitter.com/fukasakuorleans/status/1559465938504019968?s=21

まずこのフレーズの意味について考えてみます。


今回の舞台において、ジャンヌは3度の復活を果たします。1度目は火刑から、2度目はライオネルの刃から、3度目は戦を終わらせた疲労から。

この復活は、ジャンヌが様々なことから自由になる事を示しているのだと思います。

火刑は命を奪われる事から、ライオネルの刃は男女の偏見や差別から、戦を終わらせたことは敵に国を奪われることから。

これらの要素は劇中で示唆されていることでもあります。ジャンヌは命を奪い奪われる事を忌避し、恋愛や男女関係を忌避し、国を奪われることに怒りました。

3度の復活を果たしたジャンヌはしかし、天に導かれるようにしてその命を終えました。戦争によって、そして聖母マリアに役目を負わされることによって自由を奪われたジャンヌは、戦争を終わらせる事で祖国の自由を手に入れて散りました。


それでもなお、「ジャンヌは、生きている。」のです。この台詞は劇中で使われたものではありますが、メインビジュアルとして使われている以上そこには意味が込められているはずです。

今回の舞台は百年戦争が起こったフランスが舞台であり、そして劇中では現代の戦争の話も出てきます。実際に今も、ウクライナでは戦いが起きています。

市民たちは、敵国に奪われようとする自由を守り・取り戻すために戦っているのです。

ジャンヌとは、自由のために戦う全ての人々の事を指しているのではないでしょうか。

ジャンヌ本人は死すとも、その思想は生きている。人は誰しも自分の自由のために生きていて、決して他人事ではない。

このフレーズは、そういう事を示したいのではないかなと感じました。


2.黒の騎士

劇中には黒の騎士という存在が居ます。その詳細は明らかになっていませんが、ジャンヌによって「この世のものではない。」と判断されています。

劇中に死者が出ると現れて、ジャンヌに「死すべき運命の者を殺せ!」と指示します。しかしライオネルにとどめを刺さなかった事で、「恐ろしい結末が訪れるであろう。」と宣告します。

そして終盤で再び現れた黒の騎士は、ジャンヌとレーモンの一時の会話の最中に鎧を脱ぎ捨てていきます。

黒の騎士が鎧を取り払った時、ジャンヌの声色は最初ドンレミ村にいた時の優しいものへもどっていました。つまり黒の騎士は、ジャンヌの心を映したものなのかも知れません。


聖母マリアによって勇気と力を与えられたジャンヌは、心と体に鎧を纏います。男装を行なっていたのは前述の通り、ジャンヌが男性の目線を忌避したからでしょう。

しかし、貴族に求婚されたジャンヌは靴を脱ぎ去り、ライオネルに出会ったジャンヌは上の鎧を脱ぎ去ります。

両方ともジャンヌは心を酷く揺らされており、ここで脱ぎ去ったのは物理的な物でもあり、心の鎧でもあったのでしょう。

黒の騎士がジャンヌの心を映していると考えると、ジャンヌはレーモンとの会話の中で鎧を外して行きました。

つまり劇中で最もジャンヌに寄り添い、彼女の心をほぐしたのはレーモンであると言えるでしょう。


また、黒の騎士が何故ジャンヌに忠告を行ったのか考えてみます。

ジャンヌは結局、黒の騎士の言う通り『恐るべき結末』である『死』に導かれました。そして途中黒の騎士はジャンヌの攻撃をも止めています。

未来を見通し、神の力を授かったジャンヌの攻撃を止める。それはもはや神にしか出来ぬことではないでしょうか?

私は黒の騎士を、『聖母マリア』ではないかと考えます。

ジャンヌに助言を与え、心を守るために鎧を授けた聖母マリアは、しかしジャンヌが誓いを破り、心がレーモンによってほぐされた事で役目を終えて鎧を脱ぎ去ったのです。


3.雑感

最後に、ざっくりと感想を残します。

夏川さん、初めての舞台にして主演大変お疲れ様でした。夏川さん含め6名の演技に、大変心動かされました。

個人的に印象に残っているのが溝口さんで、誠実な青年であるレーモン、弱気で偉大な王シャルル7世、勇将ライオネルと方向性が違う3名を見事に演じきっておられました。カーテンコールやアフトーでは陽気な人柄も垣間見えて、素敵な方だなと感じました。

夏川さんの演技も大変良くて、フランスの英雄でありながら普通の少女でもあるジャンヌの、葛藤や叫びが胸に刺さりました。


人は皆自由を求めるものです。

時に戦い、争いが起こります。そしてそれは他人事ではないと、今回の舞台で改めて思わされました。

人の数だけ自由があって、人の数だけ正義がある。願わくば、少しでも世界が平和でありますよう。

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