room

人間だった夢を見た
飛び起きて周囲を見回す
少し離れた所で猫が私を見ていた
目を逸らし
心拍数が普段通りになるまで待ってから
改めて思い返す夢は仕事の夢だった
夢の中で私はこんな仕事を辞めて
人間になりたいと願っていた
その仕事を始めたばかりの私は
これで自分も人間になれると思っていた
若い頃の私はただの人間ではない何かに
絶対なってやると思っていた
猫はずっと猫だった
夢の中でも猫だった
私は今人間なのだろうか
なりたくない筈だったただの人間に
人間になるための仕事を
人間になるためにやめた私が
人間になった夢を見たのか
人間になりたいと思いながら仕事をしている私が
人間になった夢をみているのか
何故私は人間だった夢を見たと思ったのか
何故私は人間になりたくなかったのか
何故私は人間になりたくなったのか
何故私は人間になれなかったのか
衣食住を賄える給金相応に働き
7日に2日の休みで体力を回復し
余った時間を趣味と将来への投資にあて
預金残高や政治経済や健康不安に脅かされることなく
家族と友人に囲まれ穏やかに生きている
人間になどなりたくなかった
人間になりたいと思ってしまった
私は
人間以外の何になってしまったのか

猫がゆっくりと近づいて来た
猫も人間になりたいと思うのか
猫になりたいから猫なのか
どっちだ?と問うと猫は小さくあくびをした
人差し指をさし出し猫の顎を撫でているうちに
夢の記憶は薄れ始めた
インターホンが鳴る
飛び起きて衣服を整える
ドアの向こうに人間がいる
人間ではない何かは震える足で
インターホンの前に立った



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