【クトゥルフ神話TRPGシナリオ】週末のエスカトロジー

【トーン】

・現代日本、探索者はハッと気がつくところから物語が始まる。それはかけがえのない友人の病室。見舞いに来ておいてうとうとしてしまっていたようだ。ようやく迎えた日曜日なのだから少しくらい仕方ないかと思いかけて、探索者はふと疑問を抱く。日曜日……?今日は日曜日だったか?
欠落した記憶を取り戻すため手がかりを探る謎解き主体ループ風シティシナリオ。


【シナリオ基礎情報】

・旧版クトゥルフを前提に作成しています。
・舞台 :現代日本、シティシナリオ
・PL人数:1人限定シナリオ
・《易》と書いてあるものは難易度を下げたい時に
 《難》と書いてあるものは難易度を上げたい時にどうぞ
・プレイ時間:1〜2時間程度


【推奨技能】

・目星、図書館などの基礎的な探索技能
・信用や説得などの対人交渉技能
・医学or薬学(《難》この推奨技能を伏せる)

【キーパー情報(シナリオ概要)】

・シナリオ開始時は某年7月25日の日曜日。探索者が既に過ごした最新の日付の5日前である。探索者は魔術により時間を遡ってきており、遡った期間についてほとんどの記憶をなくした状態で物語を始めることになる。
・正史(★)の探索者は友人である浜松照和を病気から救うために宇宙的魔術に手を出し、その失敗によって友人をグラーキの従者に変えてしまう。探索者は記憶の欠片を集めながら正史と異なる行動を取るよう模索する。
★本シナリオ中では時間遡行前の出来事を便宜上「正史」と呼ぶ。正史で起こったことは参考までに【13.正史の時系列】にまとめたので、探索者の予想外の行動によりアドリブを要する場合には参考にしてほしい。


【フローチャート】

1.導入
 ↓
2.街中の違和感
 ↓
3.終末の悪夢
 ↓
4.自宅の違和感、5.ブリチェスター・ブックス
 ↓
6.浜松の急変
 ↓
7.秋原珠希
 ↓
8.精神汚染
 ↓
9.緑根湖
 ↓
11.エンディング

※シティシナリオなので順番前後やイベントスルーは展開次第かと思います。

【1.導入】
・暖かな夏の陽射しが身体を温める。窓の外をゆっくりと眺めていると嫌なことも悩み事も、何もかもがちっぽけなものに見えてくる。今日1日くらいはずっとこうしていようかなんて考えが頭をよぎる。そんな怠惰な妄想を低い男の声が遮った。
「おい、寝るな。見舞いに来て寝るやつがいるか」
ハッと我に返ると、そこは病室だ。眼前のベッドに横たわり何本も点滴を繋がれているのは友人の浜松照和(12-A参照)だ。心臓の病でもう1年近くこの病院に入院している。
・浜松は「なんかお前の方が入院しそうな顔色だぞ。あんま気使わなくいいからさ、今日は帰って休んだらどうだ?そうじゃなくたってせっかくの日曜日、俺にかまって終わったらもったいないって」と陽気に探索者に進めてくる。
・ふと探索者は浜松の言葉に違和感を覚えることだろう。(今日は……日曜日だったか?)
スマートフォン等で日付を確認すると確かに今日は7月25日の日曜日だ。動かしようのない事実のはずなのに胸のざわめきは消えることなく残り続ける。
〈KP情報:KPはここでPLにSAN値を10減らすよう伝える。この場面で減ったのではなく、ここに至るまでで既に減っていたことを補足する〉
浜松に確認しても「お前、本当に大丈夫か?疲れすぎ」と笑われるだけだ。

【2.街中の違和感】
・探索者が浜松の勧めに従って病室を後にした場合、帰って休むか、せっかく外出したのだから何かおいしいものでも食べに行こうかと思案しつつ、いずれにせよ最寄りの駅までは歩くことになる。探索者が何か調べものや行動の提案を申し出た場合は、周囲には浜松の入院する病院と民家しかなく、どんな行動を取る場合にも最寄り駅まで歩くのが自然であることを告げる。
・駅にだいぶ近づいたころ、ちょっとした人集りができていることに探索者は気がつくだろう。そちらに意識を向けるとピエロの格好をした男が色とりどりの長細い風船をねじったり組み合わせたりすることで城のようなものを作っていた。
ピエロの男は声を張り上げ「さあさあ、ここからが見どころですヨ〜!ハイ、財閥解体!財閥解体!」と妙な掛け声とともに風船でできた城の一箇所を摘まんで引っ張ると、みるみるうちに風船同士が解け、解けた風船はなるほど、見慣れたファストフード店やスポーツメーカー等の企業ロゴの形を取っている。
探索者は先週くらいにも同じ芸してるやつを見たなと感じる。
・ピエロの男は「先々週のローマ、先週のバルセロナ公演に引き続き今週もご好評ありがとうございます」と観客に手を振っていた。探索者はアイデアロールを行う。成功すれば、さすがに同じ芸をする別人がいるとも思えないことから、自分が感じていた日曜日への違和感は、同じ時間について2回目の体験をしていることが理由ではないかと確信を持つ。
なお、PLがリアルアイデアで同じ発想に辿り着くならアイデアロールに失敗していても同様の確信をもってよいし、ロール自体を省略しても良い。
・ピエロの男に話しかけるか、または目星ロールに成功すると男の背後に置かれたキャリーバッグの持ち手に空港で預け入れ荷物に貼られる行先の書かれたテープが大量に巻き付いていることを発見し、いずれの場合にもピエロの言うローマだのバルセロナだのが嘘やジョークの類でないことが確認できる。

【3.週末の悪夢】
・7月25日の夜、探索者が眠りにつくと夢を見る。探索者は目の前の光景が夢だと確信をもって、夢の中をある程度動くことができる。
・目の前に広がるのはゾンビの群れだ。おおよその形こそ人間だし人間の服も着ているが、彼らの皮膚は淀んだ緑色に変色しており、肩や腰から30センチほどの棘が何本も生えている。彼らは人間を見つけると駆け寄り、その棘で人間を刺していた。
夢であると確信しているとはいえ、おぞましい終末の光景を見た探索者はSANチェック〈0/1〉
異様な光景を前に、夢だと分かっている探索者はただただ目が覚めるまで眺め続けても良いし、なにか行動を起こしてもよい。目安として以下から2つ行動を起こした時点で目を覚まさせると良い。

3-A.ゾンビ〈KP情報:グラーキの従者〉を倒す
・KPはPLに対し、ゾンビは目に見える範囲だけでも数十体おり、そのうち1体や2体倒したところでどうにもならないし、動き回る様子を見る限りとても1人で数十体倒すことはできないことを伝えること。
・理屈でなく戦いたがる戦闘狂については無理に止めることもないので戦闘時のステータスを記す。探索者が敗北するか、適当なところで目を覚まさせ【4.自宅の違和感】へ移行すること。
〈ゾンビ〉
耐久力:30(装甲なし) DEX12
技能:噛みつき 50% 1D6のダメージ

3-B.日時を確認する
・探索者が自身の夢で広がる光景に日時に該当するものがないか確認しようとするなら、ポケットにスマートフォンが入っていることにしてよい。スマートフォンが示す日時は7月30日(金)14時だ。
〈難〉スマートフォン等日時が確認できるものの所持について幸運ロールの成功を要求する。

3-C.ゾンビや逃げ惑う人の中に知り合いがいないか確認する。
・目星に成功するとゾンビの群れのなかをすり抜けるよう器用に走り生存している看護師の服を来た女性を発見できる。その人には覚えがあり、浜松の入院する病院の看護師さんだ。かなりの美人で、浜松もたまに話題に出していたので印象に残っている。名前は確か岡地(12-B参照)さんだったか…?
なお、彼女に近づいて話を聞けるような状況ではない。

3-D.目の前の光景がどの場所かを考える。
・探索者が場所を気にかけさえすればすぐに気がつく。目の前に広がる地獄は浜松の入院する病院の光景だ。

【4.自宅の違和感】
・26日火曜日の朝、探索者達は夏だというのに寒気とともに目を覚ます。自宅にいるはずなのに妙に落ち着かない。
・探索者は聞き耳と幸運の技能でロールする。どちらかに成功すると寒気のもとがベッドの下にあることに気がつくだろう。失敗した場合にも、一度家から出て行動し、戻ってくるたびに挑戦を許して良い。
・ベッドの下を探ると見に覚えがないハードカバーの本を引っ張り出すことになる。タイトルを「永遠と命」と題された緑色の本だ。ネットで検索してもこの本はヒットしないが、裏表紙にはバーコードがあるため市販品で、どこかで自分が購入したものなのだろう。〈KP情報:探索者がいかなる方法でこの本を処分しようと翌朝にはまたベッドの下にこの本は帰ってきて、探索者は寒気でそれを知ることになる〉
・探索者はアイデアロールを行う。成功した場合、あるいはリアルアイデアでこの発想に至った場合、財布を漁ってこの本をいつどこで購入したか、レシートを探すことを思いつく。レシートにはブリチェスター・ブックスという書店名、その住所、購入日時が7月27日17時であることが記されている。順当に26日中にレシートへ辿り着いた探索者なら未来の日付が書かれていることに驚くだろうし、既に過去のものとなった時間であっても当然探索中にこの本を買った覚えはないため別の驚きがある。
・「永遠と命」を斜め読みする場合は12-Cを参照すること。
・探索者が律儀に仕事を気にした場合には、上司への電話で「一昨日(26日にこのイベントが進行している場合。24日のことを指すように適宜セリフを変更)、今週は1週間休むと言っていて、了承したはずだが」と言われる、あるいは自営業なら7月31日まで休業と自分の字で書かれた貼紙を見るなどするとよい。いずれにせよ7月24日の探索者が休みを確保しており、このことはきっかけがあれば鮮明に思い出せる。


【5.ブリチェスター・ブックス】
・探索者達がレシートの住所を頼りにこの書店を訪れると2つの雑居ビルに挟まれるように狭いスペースに立てられたボロボロの書店だ。カタカナで洒落た名前からは想像もつかない店構えで、ざっと見た感じでは古本屋のようだ。しかし、そのような店名と店構えがちぐはぐな様子だからこそ思い出すことができる。
前回の7月27日に自分は確かにここに来たのだ。
〈KP情報:【浜松の急変】を経ているなら、正史の際、浜松の容態に冷静さを欠いた自分がフラフラとあてもなく歩き彷徨った末にたどり着いたことも思い出せる。〉
・中に入ると、やはり見覚えのある30~40歳くらいの無精髭の店主と目があった。
店主は「やあ、久しぶりになるのかな?本は役に立ったかい?」と渋い声で話しかけてくる。探索者が何を問いかけても店主ははぐらかすが、時間遡行について尋ねた場合には「そうか、湖の神には会えたんだね。ここからだと緑根湖(りょくこんこ)かな?本も役に立ったようでなによりだ」と意味ありげにニヤリとするので、店主が時間遡行を認識していることは確認できる。


【6.浜松の急変】
・7月27日13時頃になると探索者の携帯が鳴る。電話の主を見ると病院からだ。電話に出ると相手は聞いたことのある女性の声、あの病院の看護師(12-B参照)だ。
「浜松さんの容態が急変しました。今緊急の処置を行っています。本来ならお身内の方にしか話すべきではありませんが、浜松さんからあなたには伝えてほしいと言われていましたのでお伝えだけしておきます」と聞くことができる。
ここでアイデアロールを行う。成功すると、この電話には覚えがあることを思い出す。
なお、同時間帯に浜松の病室にいた場合には、直接浜松が胸を抑えて苦しみだし、何人かの医師と看護師に運ばれていく様子を目撃する。こちらの場合にはアイデアロールはない。正史の探索者はこの時、浜松の病室にはいなかったためだ。
探索者が病院に向かうと看護師の岡地が浜松は集中治療室に入ったこと、しばらくは面会謝絶であることを伝えてくれる。
〈KP情報:浜松が元の病室に戻ってくるのは29日木曜日の9時頃であり、それ以降に訪れるならまた意識を取り戻し会話のできる状態の浜松に会うことができる〉

【7.秋原珠希】
・28日の朝、探索者の携帯が鳴る。探索者が発信者の名前を見ると秋原(12-D参照)と表示されている。秋原珠希、探索者と浜松の共通の友人だ。彼女もよく浜松の見舞いに行っているらしく、病室で鉢合わせしたことも何度かある。
・探索者が電話に出ると底抜けに明るい声が響き、
「あ、もしもし?今日浜松くんのお見舞い行かない?実は高級なメロン貰っちゃってさ、あんたも食べていいから。どう?」と誘いがある。
探索者はアイデアロールを行うこと。
成功すると、この電話に対し「浜松は集中治療室にいて面会謝絶だ」と断り、「永遠と命」の本を読み始めた存在しない記憶が頭の中を駆け巡る。〈KP情報:正史における探索者の行動である〉
《易》アイデアロール成功時に、追加でその行動はまずいのではないかと直観する。
・探索者が浜松の状況を話すにしろ、伏せるにしろ秋原と会うことに決めた場合には、病院で会うことになる。浜松の状況を話した場合には、秋原は「病室にちっちゃい冷蔵庫あったよね?とりあえずそこにメッセージ書いてメロン入れちゃおう」と言うためだ。

7-A.秋原とは会わないと決める。
・即座に【8.精神汚染】のイベントを開始する。

7-B-1.秋原と会う
・秋原とは浜松の病室前で会うことになる。探索者は入院患者不在中の病室に入ることができるのか不安に感じるかもしれないが、岡地に話すとあっさり許可を貰える。
・探索者が病室前に来ると一足先に来ていた秋原が「遅かったじゃん。急に声かけたわたしもわるいんだけどさ」と軽口を叩く。秋原の手には大きな紙袋があり、その中にメロンが入っていることは容易に想像がつくだろう。
・探索者と秋原が共に病室に入ると、やはりはままつの姿はなく、点滴を吊るすためのキャスター付きの支柱だけがつい最近まで人がいたことを示している。
まず秋原はメモ紙をポケットから取り出し、次いで紙袋からメロンを取り出すと病室に設置された小型の冷蔵庫の中に入れる。用心深い探索者であればメモ紙の内容を気にするだろうが「食べれば元気になる! 秋原より」と書かれているだけだ。
・このシーンで探索者ができることは担当医の名前が田端行成(12-E参照)であることを確認することくらいである。特にすることがなければ、秋原に「サンドイッチ買ってきたんだけど、中庭で食べない?」と誘われるままに病院の中庭に移動する。断る場合にはここで秋原とは解散となる。

7-B-2.中庭にて
・秋原に誘われるまま探索者は、病院の中庭を訪れる。芝生で覆われた広場に、数本の桜の木が植えられており、木陰になる位置には簡素な木製のベンチが設置されている。そのうちの1つに腰掛けると夏でもひんやりと涼し気な空気が流れており、芝生へ打ち水がされていることに気がつくだろう。
・秋原は「ハイ、これどーぞ」と先程メロンを取り出した袋からコンビニで購入したであろうサンドイッチをいくつか取り出し探索者に分けてくれる。食べ始めてしばらくすると、秋原は「そういえばさ」とまた紙袋をガサガサと漁りだす。取り出したのは緑色のテープが貼られた点滴のパックだ。
「さっき冷蔵庫の中に入ってて、メロン入れるのに邪魔だったから出しちゃったんだけどやっぱりまずいかな?」とさほど悪びれもせずに訊いてくる。
探索者は特に技能を要さず、浜松に繋がれていた点滴の1つに緑色のテープが貼られたものがあったことを思い出せるだろう。
探索者は医学、薬学、知識のいずれかでロールを行う。成功すると、冷蔵庫に入っていたものならば少なくとも夏の屋外に持ち出してしまっている以上、温度の面で何かまずいのではないかと考える。
探索者がまずいと伝えれば秋原は「やっぱり?あとで看護師さんに謝ろ」と少しは罪悪感を覚えたような表情を見せる。探索者が自分から返しておく、ちょっと見せてくれ等と言えばパックをすんなり渡す。
・その直後、秋原は「うわあっ!?」と素っ頓狂な悲鳴をあげ立ち上がる。この時点でパックを手に持っているならそれを地面に叩きつける。探索者が何事かと問う間もなく秋原はベンチの下を指差し「ナメクジ!ムリムリムリ!!」と叫ぶ。
パックを叩きつけた場合には中身が漏れ出し、ナメクジに掛かっている様子が見て取れる。中の薬剤に塗れたナメクジは徐々に縮んでいった。
・その様子を見た探索者は医学または薬学ロール。所持していないなら知識÷5(イクストリームロール)で判定する。成功すると、本来点滴のような人間に直接投与するものは等張液といって、人間の体液とほぼ同一の浸透圧を示すような濃度の液体に調整するものであり、ナメクジが目に見えて縮むような浸透圧であれば明らかに等張液とはかけ離れていることが分かる。なお、ロールに失敗した場合でもPLがリアルアイデアとリアル知識でここに辿り着いた場合にはお見事というほかないので探索者の気付きとして採用して良い。
なお、点滴パックの持出し(破裂させた場合はそのことも含む)について謝罪、パックの返却を病院側に行う場合には岡地が話を聞いてくれる。岡地は「あー、まあ……大丈夫、だと思います」と歯切れの悪い返答をする。ここでうまく説得できれば10-B.④の内容を聞くことができる。

【8.精神汚染】
・29日朝9時、探索者は目を覚ますと酷い頭痛がする。26日に見た終末の光景が頭から離れない。このままでは浜松が死んでしまう。どうしてもそう思えて仕方がないのだ。
・探索者はふと助けを求めるように「永遠と命」に手を伸ばす。この本ならば何か浜松を救う方法が書いてある。熟読すれば何かが掴めるりそう思えてしまう。しかしそれを悪魔の誘惑のように感じる自分もいる。この本を、頼るべきだろうか…?

8-A.探索者が「永遠と命」を読むことを選択
・探索者は時間を忘れ、怪しげな魔術書を読み耽る。命の杭だ。命の杭さえ湖の神から授かれば浜松が死ぬことはない。命の杭を貰いに行かなくては。ああ神よ。いあ!いあ!ぐらあき!
(強制的に【9.緑根湖】を開始し、SAN値を-2する)

8-B.探索者が「永遠と命」を読まないことを選択
・POW×5を成功値に1D100でロールする。失敗した場合には誘惑に負け「永遠と命」を読んでしまう(8-A に移行する)
・ロールに成功し、誘惑に耐えた場合、探索者は正史で自分がこの本を読み、緑根湖へ誘われたこと。そこで巨大なナメクジのような化け物に杭を渡されたこと。あろうことかそんな怪しげなものを浜松に刺し、30日13時頃、浜松を恐ろしいゾンビに変えてしまったことの全てを思い出す。
大丈夫だ。もう自分は間違えない。自分がこのまま何もしなければいいのだ。
……本当にそうだろうか?何か見落としてないか?
〈KP:以降、探索者は30日13時まで自由探索であるが、PLにやることが終わったと思ったらいつでも時間を飛ばせることを伝える〉

【9.緑根湖】
・探索者達が8-A .を通らずこの湖を訪れているなら現在SAN 値を成功値に1D100をロールする。失敗した場合には、ここはただの湖だ。どれだけ探索しても汚い緑色の水が広がっているだけだ。
・ロールに成功した場合、または8-Aを通ってこの湖を訪れているなら、おもむろに霧が立ち込める。
湖の底からいろいろな色が入り混じった金属製のトゲが浮かび上がってくる。続いて、緑色の楕円形の巨大な体、厚い唇の大きな口、細い茎とその先についた黄色の目が耳をつんざくような振動音とともに順に姿を表していく。
探索者はその存在感に圧倒されることだろう。〈SANチェック 1D3/1D20〉
その巨大な存在は金属製の棘を1つ探索者の前に落とすと、また湖の底へとゆっくり帰っていった。これが命の杭だ、間違いない。
【11.エンディング】へと移行する。

【10.自由探索による入手情報】
10-A.時間遡行の証拠
・探索者達が時間遡行をしていることについて確認を取るために起こす行動は多々考えられるが、それらの行動によって証拠が得られるかどうかの基準を示す。以下の条件をすべて満たす確認方法であれば、探索者は過去に見たり体験したりしたことだと確認できる。
 ①【2.街中の違和感】イベントを消化した後であること
 ②探索者以外の人物に、過去の記憶がないか問う方法でないこと
 ③7月25日から7月30日の間の出来事を確認するものであること
 ④物理的な痕跡を辿るものでないこと(例:探索者に日記をつける習慣があっても未来の日記はつけられていない。通話履歴等もシナリオ中現在の時間までのものしかない)

10-B.看護師・岡地との会話
・看護師の登場する場面では、彼女であっては不自然な事情がない限り岡地(12-B参照)が登場する。7月25日以前より度々浜松の面会に来る探索者と面識があるため、シナリオ開始時点である程度探索者を信頼している。
・話しかけたり、説得や信用ロールに成功することで、以下の話を聞くことができるが、岡地は立場上話すべきではないこと、話してはいけないことをよく弁えており、数字の大きいセリフほど普段は話さないものと捉えてほしい。数字の大きいものは単なる技能成功だけでなく、うまいロールプレイや緊迫した状況下でなければ話さない内容として情報の出し方を調整すること。
 ①「そういえばまだ○曜日(シナリオ進行に合わせた曜日)なんですね。なんだか最近時間が経つのが遅く感じますね」
 ②「浜松さん、最近しきりに金曜日のことを気にするんです。金曜日の晩御飯は何かとか、あお金曜日のオススメのテレビ番組は何かとか。金曜日になにかあるんですかね?誕生日とかではないみたいですけど」
 ③「浜松さん、急に緑茶は出さないでくれって言ってきて。別にそれくらい我儘だとも思わないんですけど、前は好きだったのに不思議だなとは思ってます」
 ④「浜松さんの点滴、1種類だけ私も何か知らないんです。担当の田端先生(12-E参照)が直接打っていて、なんの薬かも教えてもらえませんでした。緑のテープが貼ってあるパックのやつです」
 ⑤「田端先生の担当してた患者さんで1人亡くなった方がいて、末期の肺ガンだったので亡くなったことは……仕方ないと言ってはいけませんけど田端先生が悪いわけじゃないと思います。けど霊安室にいる間に指先が白骨化して、骨は少し触ると粉みたいに崩れるほどボロボロで……変だなって思ったことはあります」※医学ロールに成功すると人間は死後、少なくとも霊安室にいる僅かな期間で白骨化はしないことがわかる。

10-C.田端との会話
・浜松の主治医と話してみたい程度のモチベーションで探す場合には彼を見つけることはできず、探索者も忙しいのだろうであろうで納得してしまう。
・7-B-2で点滴の異常性に気がつく、10-B-④または⑤を聞くなどして田端に疑念を抱くなどして、絶対に見つけるというモチベーションに説明がつく探索状況であれば病院内で彼を見つけ、話すことができる。緑のテープの点滴薬については「鼓動を一定に整える薬だ。だいぶ心臓に負担がかかっているようだから」などとはぐらかす。彼の実験(12-E参照)を説得などの対人交渉技能でやめさせることはできない。それは狂気に飲まれた彼の生きがいなのだから。
・探索者が他バタを問い詰めている際、KPは探索者の幸運でシークレットダイスを、PLが何か振ったとわかるように振ること。〈KP情報:岡地がその現場を目撃しているかどうかの判定。目撃している場合には10-Bの全ての情報を探索者に話してくれるだろう〉

10-D.ネット、図書館、大学等による情報収集
・自由探索では、探索者の工夫に応じて適宜以下のような情報を出すと良い。
〈緑根湖は探索者の生活圏から最も近い湖だ。噂話だが、ここで未確認生物の目撃情報が頻繁に出ている。〉
〈時間遡行については科学的に証明されていないものの、オカルトの世界においては3度目に同じ時間を体験することはできないとされている〉
〈「永遠と命」という本はネットで検索してもヒットしない。バーコードがついていたということは唯一無二の本ではないのだろうが、一般には流通していない世界に数冊から数十冊といった本なのだろう〉
〈ブリチェスター・ブックスという書店については何の情報もない。また、2度目(正史を含まない)に訪れると書店は跡形もなく消えている〉

【11.エンディング】
・30日の金曜日13時を迎えるとエンディングに移行する。命の杭〈KP情報:グラーキの棘〉を所持してエンディングに移行した探索者はPOW×5を成功値とし1D100でロールする。失敗した場合は11-A.バッドエンドを迎える。
・命の杭を所持し上記ロールに成功した探索者、命の杭を所持していない探索者の場合、緑のテープの点滴パックについて何かしらの対策(それは点滴のチューブをクリップでせき止めるでもよいし、パックに穴をあけるでも、針ごと抜きとるでも良い)を施していれば11-C.トゥルーエンド、何も対策していないなら11-B.ノーマルエンドを迎える。

11-A.バッドエンド
・探索者は命の杭を持って浜松の病室を訪れていた。彼を救うにはこれしかない。浜松は「おい、なんだ?その棒は」と訝しげにしている。大丈夫だ。今助けてやる。探索者は思い切り浜松の胸に杭を打ち立てた。
「ぐっ……」という浜松のうめき声で探索者は我に帰る。自分は一体何をしているんだ……?
浜松が苦しそうにうめき続ける。咄嗟に何か声をかけようとした時、気がついてしまう。
浜松の身体がみるみる緑色に変色していく。肩からは細い棘が生えてきていた。夢で見たゾンビと同じだ。
ダメだ、また同じことをした。
探索者は目の前の怪物への恐怖感からか、友人への罪悪感からか、はたまたその両方からか定かでないがその場を逃げるように走り出した。病室から廊下に出るとすぐ誰かとぶつかり突き飛ばしてしまったがそんなことに構っている余裕はなかった。
とにかく逃げなくては。
でも、どこに?決まっている。湖だ。
また湖の神に時間を戻してもらえばいい。次こそは、次こそは。
それが探索者の、最後の思考であった。
(探索者のロスト)

11-B.ノーマルエンド
・命の杭?バカげている。もう思い出した。自分はそんなものに踊らされ、狂わされ、友人を恐ろしい怪物に変えたのだ。もう間違わない。
(所持していてPLが望むなら折る等して破壊しても良い)
・浜松にまた見舞に来ると別れを告げると病室を後にする。やりとげた。浜松を死なせずに済んだのだ。
達成感が顔に滲み出ていたのか浜松には「何ニヤついてんだ?気持ち悪いぞ」などと言われてしまった。
廊下で入れ違いに見舞に来た秋原とすれ違う。探索者は慌てて表情を引き締めた。
……浜松の訃報を聞いたのはその日の夜だった。悲しみは堪えきれないほどであったが、その意味は前とは違う。自分が手にかけたのと病気で亡くなるのでは全く違う。しかし、本当に何もできなかったのか?
浜松の遺体は数日と経たないうちにあちこちが白い砂のように崩れていったらしい。
クリア報酬:2D6のSAN回復

11-C.トゥルーエンド
・命の杭?バカげている。もう思い出した。自分はそんなものに踊らされ、狂わされ、友人を恐ろしい怪物に変えたのだ。もう間違わない。
・そしてもう1つ、浜松を狙う怪しげな点滴も止めた。しかし院内が騒がしいな。看護師さんがバタバタと行き交っている。しばらく浜松とバカ話をしていると秋原が病室に入ってきた。
秋原は「あ、二人ともおつかれー。主治医の田端先生、行方不明らしいよ?」と教えてくれる。
それが騒ぎの原因か。怪しい医者がいなくなったのだから自分としてはありがたいことだ。
それから1ヶ月、担当医の代わった浜松はみるみるうちに回復し、無事退院に至るのだった。
クリア報酬:2D6+6のSAN回復

【12.各種データ】

12-A.浜松照和(はままつ てるかず)
・探索者の友人。23歳男性。心臓病により1年近く入院しており、留年中の大学4年生。
 HP10 SAN44 SIZ11  STR8 CON9 POW12
 DEX14 INT15 APP9 EDU17

12-B.岡地富美(おかち ふみ)
・浜松の入院する病院に勤める看護師で、26歳女性。描写の際はかなりの美人であることを強調するとよい。なお、無駄に美人なだけで神話生物やその化身の類ではない普通の人間。3-Cで生存が確認できるのも深い意味はなく単に彼女がハイスペックであるためだ。
・浜松へ投与される点滴に見たことのないものが1つあることを気にかけている。
 HP15 SAN65 SIZ12  STR14 CON18 POW13
 DEX17 INT16 APP18 EDU18

12-C.「永遠と命」
・書かれている内容は以下の通り
「永遠の命という太古からの人類の願望を叶える手段はいくつかあるが、そのもっとも簡単な方法は投薬と魔術により身体を一度、もっとも本質的な物質にまで分解してしまうことだ。
人間であれば固形として残るのは塩が多いだろう。そのあと魔術により再構成した身体からは衰えも痛みも消えているはずだ。もっともこれには素養のある魔術師が必要だが。
誰でもできるという意味で簡単なのは湖の神から命の杭を授かること。心臓に刺すことで永遠に近い命を手に入れることができる。それが100年なのか1000年なのかはまだ観測できていないが。
単に2倍の時を生きれば満足であれば時間を遡れば良い。三度同じ時を過ごすことは人の身ではかなわないが、湖の神に祈るだけでよい。正気でいられるかは保証できない」
・正史の探索者が、7月27日17時に、書店ブリチェスター・ブックスで購入したものである。

12-D.秋原珠希(あきはら たまき)
・探索者や入院前の浜松と自宅が近いことから知り合った共通の友人で、24歳女性。好奇心旺盛な性格で、正史では30日に発生する事件当時病院におり、グラーキの従者となって人間としての生を終えている。
 HP11 SAN55 SIZ10  STR10 CON12 POW11
 DEX8 INT16 APP9 EDU14

12-E.田端行成(たばた ゆきなり)
・浜松の入院する病院に務める医師であり、浜松の担当医。担当患者の一部を魔術の実験台としており、浜松はその被害者である。浜松に行おうとしている実験は12-C.「永遠と命」に記載のある人間を本質的な物質へ分解し、再構成する蘇生魔術の実験だ。彼はその準備段階として魔術で調合された薬剤を浜松に投与しており、緑色のテープが貼られた点滴のパックがそれに該当する。
 HP14 SAN19 SIZ14  STR10 CON14 POW11
 DEX15 INT14 APP10 EDU19
 ・基本線として戦闘は想定していないが、彼とは戦闘する理由がなくはないため、戦闘技能として拳60を所持していることとする。

【13.正史の時系列】
・24日(土)14時、探索者が学校/職場を1週間休む段取りを終え、浜松のもとに通うことを決める。
・25日(日)11時、探索者が浜松のもとに見舞に訪れる。
・25日(日)14時30分、病院から帰宅する探索者が妙なバルーンアート芸をするピエロを駅前で目撃する。
・27日(火)13時、浜松の容態が急変。ほぼ時を同じくして岡地が自宅にいた探索者の携帯に連絡。
・27日(火)14時、探索者が病院に行き、岡地から浜松が集中治療室に入ったこと1日2日は集中治療室に入ることになるだろうことを聞く。
・27日(火)17時、浜松のことが心配で仕方ない探索者は何も考えられないままフラフラと歩き、ブリチェスター・ブックスに辿り着く。そこで店主に勧められるがまま「永遠と命」を購入。
・28日(水)9時、秋原が一緒に見舞に行こうと探索者に電話を入れる。探索者は、浜松は集中治療室にいて会えないことを告げ誘いを断ると、取り憑かれたように「永遠と命」を読み耽った。
・28日(水)15時、緑根湖を訪れた探索者はグラーキを目撃し狂気に侵されると、グラーキから棘を与えられる。
・30日(金)13時、意を決した探索者は浜松のもとを訪れ、グラーキの棘を浜松に刺す。怪物へと変貌した浜松を目にして正気に戻った探索者は罪の意識からその場を逃げ出す。その際廊下で秋原にぶつかり突き飛ばしてしまう。
・30日(金)13時10分、グラーキの従者と化した浜松が秋原に襲いかかり棘を刺す。秋原もグラーキの従者となり病院内で、連鎖的にグラーキの従者が発生。
・30日14 時、緑根湖に逃げ込んだ探索者は「永遠と命」に記された時間遡行をグラーキに頼み込む。田端の実験により、たとえ棘を指さずとも浜松が死ぬことを知っていたグラーキは遊び半分、自分により依存した都合の良い信者を作る目的半分でこれを承諾し5日分の時を巻き戻した。

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