その5「自分という荷物を運ぶイメージ」
これまでの4回は「イメージ」といいながら、いささか技術論めいたものになってしまっていた感がありましたので、今回はより「イメージ」という言葉にふさわしい切り口でいけたらと思ってます。
さて、マラソンは42.195kmを自分の脚で走るというだけの、とてもシンプルでストレートなスポーツです。細かいことを考えなくても、がむしゃらに脚を動かしていればゴールに辿り着けてしまうために、ついつい根性論的な話になりがちです。
しかし、シンプルであるがゆえにちょっとした意識の違いがこの運動の効率を大きく左右するともいえるのです。今回は、ぼくの頭の中に浮かんでいるマラソンというスポーツ全体を捉えるためのイメージについてご紹介したいと思います。
さて、42.195kmを自分の脚で走るマラソンというスポーツを、別の言い回しで表現してみましょう。例えばこんな感じ。
マラソンとは、自分の肉体を自分の肉体の力のみで、42.195km先へ移動させる運動。
乗り物や道具を使わず、自分の体ひとつで42.195km移動するということですね。ちょっと表現がかたいかな。じゃあ、これならどうでしょう。
マラソンとは、自分と同じ重さの荷物を42.195km先まで運ぶこと。
自分が42.195km先まで移動するということは、自分の体重と同じ重さの荷物を自分の力だけで42.195km先まで運ぶということなんです。ぼくの体重は63kgですから、ぼくにとってマラソンとは、63kgの荷物を道具を使わずに42.195km先まで運ぶということになるわけです。どうでしょうか、このイメージ伝わってますか?
この「自分という荷物を運ぶイメージ」をもつことで、マラソンを効率的に走るためにはどのようなアプローチが必要かが明確になります。
ひとつは、重い荷物を運ぶための筋力をつけること。数十kgの荷物を数十km先まで運ぶわけですから、並みの筋力では運びきれません。ですから、日々の厳しいトレーニングによって筋力を強化する必要があるわけです。
しかし、ある程度走力がついてくるとトレーニングで縮められるタイムというのは限られてきます。そんなときに重要になってくるのがもうひとつのアプローチです。
それは、荷物をできるだけ軽くすること。80kgの荷物と60kgの荷物、運ぶのが楽なのはどちらの荷物でしょうか。これはつまり、体重が80kgの人間と60kgの人間では、どちらがマラソンを楽に速く走れるかという話なのです。
一般的に、体重を1kg落とすとマラソンのタイムは3分縮まると言われています。体重が20kg違えば、それだけでタイムは1時間も変わってくるわけです。80kgのひとというのは、60kgのひとが両手に10kgずつお米を抱えて走っているようなものなのですから、このちがいもうなずけます。
減量目的でマラソンをはじめるというひとも少なくありませんが、「自分という荷物を運ぶイメージ」をもっていれば、それがどれだけ危険な行為かがわかります。マラソンをはじめたいなら、まずは体重を減らさないとすぐにケガをしてしまいます。マラソンにとって「減量」は目的ではなく、手段であり、事前準備なのです。
マラソンを走るうえで大事なのは、とにかく体重を減らすこと、これにつきるのであります。
お気持ちだけで十分だと思っていますが、サポートされたくないわけではありません。むしろされたいです。