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遠野ローカルベンチャー事業活動報告会【第2回】

2016年に遠野市で始まり、新たな社会の仕組みづくりとして注目を集める「遠野ローカルベンチャー事業」。第1回では、この事業を推進する「Next Commons Lab」の活動を紹介したが、第2回以降はプロジェクトに参加したメンバーの活動にフォーカスしてみたい。
改めて「遠野ローカルベンチャー事業」を説明すると、これは地方での起業に意欲を持つクリエイターや起業家、最先端の技術と知見を持った企業、そして遠野の地域資源や人材をつなぎ合わせ、新しい働き方や暮らし方を実践するためのプロジェクトである。
この事業には、当初83人の応募があり、14人のメンバーを採用。[ローカルブルワリー][発酵][低コスト住宅開発][デザイン]など、地域のニーズや課題から生まれたテーマのもと、ヨソモノならではの視点と各々が培ってきたスキルや経験を生かし、起業を目指してチャレンジを続けてきた。
【第2回】では、8月末に行われた「遠野ローカルベンチャー事業活動報告会」から、メンバーによるトークセッション[第一部]の様子をお届けする。最初に登場するのは、ビールプロジェクトの袴田大輔さん、ローカルプロデューサーの富川岳さん、発酵プロジェクトの八重樫海人さん、デザインプロジェクトの橋本亮子さんの4人である。

司会:宮本拓海(Next Commons Lab遠野)

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宮本:皆さん、こんにちは!お集まりいただきありがとうございます。今日は二部構成でメンバーのトークセッションを行いますが、第一部は4人のメンバーのお話を聞いていただきたいと思います。まず、この3年間の活動を振り返っての成果を教えていただけますか。

袴田:ビールプロジェクトの袴田です。私の他に、太田と田村がいるのですが、この3人で遠野醸造という会社を立ち上げ、2018年5月に「遠野醸造TAPROOM」というブルワリーパブを街中にオープンしました。開店してから1年半ほど経つわけですが、我々がつくるビールを目当てに訪れる観光客が増えているように感じています。昨年1年間の来客数はのべ8000人、今年は1万人を超えそうな勢いで、遠野の新しい観光資源として認知度が高まっていることを実感しています。それと、遠野産のホップや野菜など、地元の原料を生かしたビール造りを実現できたことも大きな成果。遠野産りんごやハスカップ、白樺の樹液など、ビールを通じて遠野の良いものに光を当てることができたんじゃないかと思います。

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富川:僕はフリーランスのローカルプロデューサーとして、「富川屋」というひとり広告代理店の仕事と、「to know」という『遠野物語』に特化したプロジェクトの2つの活動をしています。「富川屋」に関しては、WEBサイトやガイドブック、商品デザインやプロモーション企画など多岐にわたる仕事に関わり、地域の魅力を知ってもらうための企画・デザイン・情報発信に取り組みました。もう一つの「to know」についてですが、遠野に来て『遠野物語』に出会い、めちゃくちゃ面白いなと思ったのが活動のきっかけです。大橋先生という師匠に教えてもらいながら、『遠野物語』を今の時代に合わせてどうアップデートしていくかにチャレンジしています。例えば、若い世代にも物語の面白さを感じてもらえるツーリズムを企画したり、小学校の演劇のプロモーションのお手伝いをしたり。自分が遠野に来たことで、何か違いを感じてもらえるような仕事に、たくさん携わることができました。

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八重樫:私は「民宿とおの」というところで、どぶろくの醸造技術の研修をしています。私が携わっている発酵プロジェクトは、起業を目指すのではなく、3年間修行することが目的。最初は、どぶろくの醸造だけやるのかなと思っていたのですが、原料となる米づくりから関わりました。無農薬・無肥料で米を育て、それを仕込んでどぶろくを作り、さらにどぶろくを使って酢の醸造まで行う。米を使った発酵の最終地点に行き着くまでの全ての技術を、3年かけて学びました。プロジェクトパートナーである佐々木要太郎さんは、自分にも他人にも厳しい方なんですが、「ここまでやれるとは思わなかった」と言っていただけたのが嬉しかったですね。

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橋本:デザインプロジェクトの橋本です。移住する前はポスターやパンフレットなど、紙媒体を中心としたグラフィックデザインを手がけていましたが、遠野では地域での商品づくりやモノが生まれる源流に関わりたいと思い、活動してきました。デザインというと成果物に目が行きがちですが、むしろ大事なのは商品が出来上がるまでのプロセス。そもそも何が課題で、どんな方向性で商品づくりをするのかを、みんなでしっかり考えることが、一番大事だと思うんです。それはデザイナーにとっては当たり前のことですが、一般の方にはなかなか難しいこと。その部分を地域の皆さんと一緒にやることができたのは、一番の成果かなと思っています。

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宮本:ありがとうございます。この時期、この出来事なしには3年間を語れない、といった印象的な出来事はありましたか。

袴田:ブルワリーパブのオープンに先駆けて、2017年の11月28日にキックオフパーティを開催したことが印象深いです。今の店がある場所で行ったのですが、その当時はキッチンも何もない、まっさらな状態で。そこに地域の皆さんをご招待して、どんなブルワリーを作るのかを説明する場として開いたんですよ。30〜40人くらい来てもらえれば嬉しいなと思っていたんですが、蓋を開けたら、遠野市内外から120名もの方々が足を運んでくださって、用意したビールも30分でなくなるほど。皆さんの期待を裏切らないよう頑張らなければ!と、気を引き締めてスタートラインに立つことができました。

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富川:僕の人生を180度変えてくれたのは、大橋進先生との出会いでした。先生は2010年頃まであったNPO法人遠野物語研究所の副所長だった方で、市内で一番『遠野物語』に詳しい方。実は移住して間もない頃に、『遠野物語』をテーマにしたイベントを企画したんですが、全然人を集められず失敗してしまって…。それを見かねた地元の方が、「一度お話を聞いた方がいいよ」と大橋先生を紹介してくださったんです。先生が目をキラキラと輝かせながら教えてくれる『遠野物語』の面白さに、僕もすっかりハマってしまって(笑)。かつては、『遠野物語』で地域を活性化しようという動きがあったそうで、そのバトンをどうやって次の世代につないでいくか…。先生との出会いは「to know」の活動を始めるきっかけになりました。

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八重樫:これからどぶろくの製造は、新たなスタートラインに立ちます。「民宿とおの」のちょうど向かい側に、新工場を建てることが決まったんです。ですから、これまでのことというよりも、これから始まることに気持ちを向けたいと思って。今、醸造しているどぶろくのレシピが固まったのは、2015年頃と聞いています。ようやく納得のいくどぶろくができるようになって、もっと醸造量を増やしていきたいと考えていたタイミングで、僕が入った。3年かけて醸造技術を学んで、チームの戦力として次の展開に加わることができる。そのスタートに一緒に参加できることが嬉しいですね。

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橋本:私にとって一番の転機になったのは、小友町での羊羹づくりです。元々はパッケージデザインの依頼をいただいてお邪魔したんですが、まだ羊羹の味が定まっていなくて、商品の方向性を決めるところから始まったお仕事です。最初は地域の女性たちとも距離があったのですが、何度も話し合いを重ねて、一緒に作っていくうちにだんだん信頼関係もできてきて。デザイナーというより仲間の一人として関われたことが嬉しかったですし、小友の女性たちの明るく働く力にすごく元気をもらいました。一番印象深いお仕事です。

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宮本:みなさん個々のプロジェクトで活動してきたと思うのですが、複数人で遠野に来たことで良い影響はありましたか。

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袴田:最近のことですが、富川さんと遠野の峠を巡りながら最後にビールを楽しむツアーを作ろうと話しています。名前は、BEER TOUGETHER(ビア・トオゲザー)というんですけど(笑)。私生活の面でも、しんどい時に助けてもらったり、相談できる移住メンバーがいたのはすごく心強かったなと思います。

富川:普段はなかなか会えないので、他のメンバーの活動をSNSで確認しているんですが、頑張っている様子を見ると励みになりましたね。特に同世代が多かったので、負けたくないなと思う気持ちが強くて。切磋琢磨しながらやってこられたんじゃないでしょうか。

八重樫:僕はシェアハウスがあったことで随分助けられました。仕事で疲れて帰ってくるとメンバーがいて、鍋を囲んだり、タコパをしたりして。厳しい冬も、みんなでコタツに入りながらワイワイ話せたのが、心の支えになったと思いますね。

橋本:八重樫さんが言ったように、仕事以外でメンバーと話すことができたのは大きかったですね。自分と同じように悩んでいるのを知って、それをみんなで共有できたから、今までやってこれたんだと思います。何回みんなでバーベキューしたのか、数え切れないくらい(笑)。

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宮本:任期が終わって一区切りつくわけですが、これからの展望を聞かせてください。

袴田:私はすでに法人も作り、融資を受けて事業にチャレンジしていますが、まだまだ不安定な状態ですので、安定して経営できる体制を作って、着実に成長させていきたいです。他にもいろんな素材を使って新しいビール造りにも挑戦したいですし、店の空間を使って様々なイベントを企画して、ビールの可能性を広げていければと思っています。

富川:この3年間は99%遠野の仕事をしてきたのですが、今後は東北エリアに仕事を広げていこうと考えています。ひとり広告代理店の仕事、to knowの活動に加えて、来春から大学の特任講師のお話もいただいているので、活動の幅も広がると思います。引き続き遠野で暮らしたいと思っていますので、いかに外貨を稼いで、遠野に投資していくかが、これからの課題。いろいろ試行錯誤しながら、チャレンジしていきたいですね。

八重樫:プロジェクトパートナーである佐々木要太郎さんは、どぶろくを全国に広め、米農家と連携していく『どぶろく農家プロジェクト』を進めています。これは日本の米農業の可能性も広げていくものだと思っていますので、引き続き「民宿とおの」の一員として頑張っていきます。それに、新しい工場で醸造したどぶろくが、安定出荷できるようになるまで時間がかかりますし、新しい蔵人も育てていかなければなりません。教育担当としてどぶろくの醸造技術をつないでいけたら、僕がここに来た意味もあるのではないかと思っています。

橋本:この1年半くらい、試作販売という形で小友ようかんを作ってきたんですが、生産するとすぐ売り切れるくらい好評です。もっと量産していくために加工場を作る計画があって、ようやく場所の目処が立ちました。地域の女性たちが働ける場を作り、小さな仕事につながっていけばいいなと考えていましたので、新たな加工場でも引き続き一緒にやっていこうと思っています。おそらく今後は、遠野と関東に拠点を持ち、2拠点を行き来しながら活動を続けていくことになると思います。

→第3回に続く
https://www.facebook.com/ncltono/


Text by

Richiko Sato


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