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市民プールのうどん

うどんはコシのある讃岐うどんのようなタイプが好きだ。
フニャフニャのうどんは、うどんではない。
ずっとそう思ってきた。

冷凍うどんもコシがあるから好きで、あのシコシコツルッという食感が好き。

うん、美味しい。

やっぱり間違いないな、と、ずっと思っていた。


初めて伊勢へ行った時、伊勢うどんなるものを食べた。
伊勢では有名なふくすけのうどん。

座席について注文し、レトロな木の札を貰う。
店員さんが忙しそうにあちこちへとうどんを運ぶ。
運ばれてきたそれは、私が長年うどんではないと思い込んできたタイプのフニャフニャなうどんだった。

汁の少ない色の濃いホカホカのうどん。
普段食す讃岐うどんよりとても太く柔らかい
卵をつぶして白く太い麺に絡めてみる
その黒すぎるタレのようなつゆのような液体と共に。

うどんを掬って食べると、とても優しいほんのり甘い味が口の中に広がった。
コシのないふわふわと柔らかな茹でたてのうどん。

うん、美味しい!

その瞬間、胸のあたりの空気が、急に何かの力で引っ張られたような薄くなる感覚になった。ノスタルジア。

左腕の下側に小人がいて、胸の前の空気を綱引きのように引っ張っているのでは、と思った。
胸がぎゅっと縮こまるキュンとする感覚とはまた違う。
引き伸ばされているような。

この柔らかいうどんを私は知っている。

味はこんなにも甘くはなく
関西の出汁をきかせたうどん。
麺がとてもやわらかくフニャフニャしている。

子供の頃、市民プールでよく食べたうどんだ。
あのうどんととても似ているのだ。

父親がよくつれていってくれた市民プールは、地元でもその周辺、他県の人からも大人気の大きなプールだった。
3人きょうだいにとって、毎年楽しみな夏の行事だった。

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