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試験監督のバイトをした

昔から興味があった試験監督のバイトをした。
私は1時間ごとに各教室の試験監督と交代して、彼らの休憩時間に代わりで座っている人という役割だった。

高校受験を見据えた中学生のための、模擬試験のアルバイトだった。

朝、荷物置き場兼、問題用紙やチラシなどの備品置き場として借りている、「準備室」的な教室で準備していた。
すると、受験生たちが次々5分に1人くらい入ってくるから驚いた。
教室の前に、ここは試験会場じゃなくて、試験監督の準備室と張り紙しているのに。

しかも彼らは全員、一人と違わず、入ってきては、ちょっと困ったような顔で、何も聞かず突っ立っているので、更にびっくりした。
しょうがないから、こっちから「ここは受験会場じゃないんです、持ってる受験票見せてくれますかー?」と聞く。ありがとうございますと言って去ってくけど、また次の中学生が数分後に来て、同じように、ちょっと困った気配で立っている。

皆、アスペルガー受動型とか、そういう感じだろうか。
私も、困ったときに言い出せず、2分くらい経ってしまうこと、いまだにある。
とにかく、大人になってから、こんなことないから、ちょっとおもしろかった。SNSで動物動画を見てるときの気分だった。子犬とか子猫がどんどん出てきてしまうやつ。

その後、教室に行ったら、皆しっかり大人しくしていた。私は各科目の開始数分後に教室入りして、終了数分前に退室する。
よって、休憩時間の様子を見ないのもあるし、友達同士で来てる受験生は少ないようだったし、すごく大人しく見えた。

学校や塾の枠を超えた模擬試験なので、おそらく友達同士で同じ教室、とかではないと思う。当然、知り合いがいない限り、誰とも喋らず、さっと来てさっと帰るだろう。

しかし、ある科目で、試験中だし私語はないのに、何となくざわざわしている教室があった。受験生の1人が、注意欠陥というか、ちょっと気になるタイミングで困りごとを申し出ていて、それを私が引き継いで、さらに本部が引き継いで、のような。

何だろうと引っかかりつつ、黒板を見たら、すごく分かりにくい試験案内だった。各教室の試験監督が、マニュアルを見ながらチョークで書くのだが、ここの教室は、情報が混ざって書いてあった。全部空白がないから、どこまでが何について書いてあるのか、分かりづらい。色分けもない。

座って分かったけれど、机の上が散らかっていた。
解答用紙や試験監督マニュアル、問題用紙を束ねていた帯、備品の筆箱など、色んなものがあるのだが、こちらも、空間分けが曖昧で混ざりそうだっ
た。

その試験監督は、経験者なので、初めて参加する私が驚いた。また、化粧もばっちりで、服装もこなれている感じだったのに。朝出勤時、教えてくれて助かったこともあったのに。

無自覚の発達障がいとか、なんだろうか。

思うに、試験監督の混乱が伝わって、実は注意欠陥・多動性障害っぽい受験生が、変なタイミングで申し出たのかもしれない。それか、試験監督が報告してくるタイミングが変だったのか。とにかく、私が交代した時に、机や文房具のこすれる音が、前の教室よりも大きくて驚いた。

試験監督の机を整理したら、思い込みかもしれないが、受験生たちの、言葉を出さないザワザワも収まって、教室が落ち着いた。

私は昔、10代の頃、自分が本当に辛い家族環境にあることを、誰か大人が気づいてくれないかと思っていた。先生とか、試験監督でも良かった。私を見て、ハッとして、そのまま然るべき機関に繋げてくれる大人がほしいと心底祈っていた。

試験監督となった私は、会場の受験生たちを、邪魔にならない程度によく見たけど、全然分からなかった。家でひどい虐待を受けてる人も、セクシュアリティを隠して悩んでいる人も、統計上ある程度の割合でいるはずなのだけれど。

中学生の頃は、家の問題を表に出すことで、親を追い詰めてはいけないとも思っていた。高校に進めばすべてが良くなるはずとも思っていた。試験会場に行って、5科目とか受験して、休憩時間を迎える繰り返しは、とても分かり切ったルーティンだ。

全く情報がないまま初めて会った受験生たち。教室を移動していく私は、1時間も共に過ごさない。
それだけでPTSDとか発達障がいとか、虐待とか、加害的な行動とか、色々な様子は全く分かりっこなかった。

受験生たちが机に向かっているので、つむじばっかり並んでいて、やっぱり着席して下を向かなきゃならないって体に悪いよなとだけ思った。

妙な偶然が重なり、次回の出勤では、私はバイトリーダー的な立場になってしまうらしい。2回目だというのに!

しょうがないので、マニュアルをしっかり読んでから出勤する。自分が住まなかった地域の色んな校舎に入れるのは、面白いと思う。

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