貧しさ
何年も見守ってくれている知人によれば、私の貧しさに違和感があるらしい。この感じの人なら、もっとお金が入るはずでしょう、と言われ続けている。妙に苦労して、自分からお金を遠ざけているようにすら見えるようだ。よっぽど病気があるとかじゃないから、私と過ごしてる印象でも、貧しいのが不自然だと言う。
その方から、お金を稼ぐために、ああしろこうしろとアドバイスを受けてきたが、勝ちに行けと言われてるように聞こえた。
私は、うっかりした性格だが、しっかりしてるのが当然という空気で育った。庄屋だった背景もあると思う。勝ちに行くのが当然、満点を取るのが当然というプレッシャーがあった。母は学歴至上主義の元小学校教師で、私をなるべく進学校に入れたく、思い付く限りの方法で、内申点を限界まであげさせようと画策した。先日、父をお見合いで選んだ理由を聞いたら「学歴」とだけ返ってきた。当時の地元では実際、学歴が、就職安定に圧倒的有効だったと言う。私が空気を読まず、人前で発言するところを、小学校なんかでは大人っぽいと取られ、私も学級委員もどきの「代表がかり」に就任し、ますます自分の性格と自己認識の剥離を助長した。中学校に入ると、母に強制されて検定試験を受け始めた。内申点を上げるためだと聞いていた。英語検定、漢字検定は、志望校的に、ないよりずっと良いくらいの結果で、特に自信には繋がらなかった。
剣道段試験も、お金をかけて取り組んだ実績が欲しかっただけで、受かったら何が出来るかと言えば、次の段が受けられるとか、警察や自衛隊を受験できるくらいだったが、試合や稽古の物理的痛みに疲れていた。上達の実感もないし、得られることが無いと思い、やめてしまった。武道のストイックな面が、さらに自己認識を歪めた。ある程度から成績が上がらず、母が精神的に荒れていて、三者面談で私をけなした。地元一番の合格者を誇る、授業料の高い進学塾に入ったら何とかなるだろうと母が言うので、母に頼み込んだ。その塾は実際に何度も模擬試験を繰り返して点数が上がったが、根底で、自分は本当に理解したんじゃなく、パターンを記憶しただけという印象があった。
そんな状態で高校に進学したら、クラスメートに溶け込み、よく観察し、出し抜けと母に言われた。私服校だから自由にしていいとの約束で入学したが、学校開始直前に買ったアクセサリーを、母の思うものと違ったと返品させられた。その直後に、やはり好きなのを買ったら良いと言われたのでもう一度買ってきたら、車の中で激しく怒鳴られ、あなたの高校でそのアクセサリーは浮くと言われ、再び返品させられた。30分くらいの出来事だった。高校に入ったら、やっていいと言われてたことは、実際に手を出せば、ことごとく怒鳴られた。最初の一週間で肺炎のような鼻水と咳の状態が続き、屁が漏れ続け、授業中はうつむいて、熊のような咳をし、深い痰が出続けた。恥ずかしくて授業が聞こえなかった。入学後の実力試験が各教科30点やそこらだった。高校受験で通った系列の予備校に入ったら、顔見知りが沢山いて、自分も同じように勉強が進むと思いきや、全く頭に入らず、完全に行き詰まった。この後3年の終わりに退学するまで、何も頭に残らない状態が続いた。履歴書を見ると、有名高校中退になっているから、人は私に頭がいいんだねと声かけする。その高校に受かっただけでも、すごいと言うが、私にとって自信が残る成功体験ではない。先日、原付の学科試験を受けようとしたら、母から「お金が勿体ないから満点を目指すこと」と言われたが、私のお金だし合格すれば良いのだと言い返せた分、子供の頃の検定試験とは状況が変わっている。
冒頭で語った知人は、実際「勝ちに行け」と言い続け、自分の子供が壮年ひきこもりになっている。だから表現力や言葉選びが良くないのは事実だ。老後を考えろと言われると、焦らされてるようで嫌な気持ちになる。知人が私に本当に伝えたいのは、資格を取ることで自分が思わぬ方向に成功して自信がついたから、自分と性格が似ていて生きづらい私にも、それを味わってみてほしいとのことだと思う。資格試験は受けれなかったが、基礎が分かるから仕事で役に立ち、収入アップに繋がったそうだ。ただしその知人自身、資格の勉強を始める気になったのが今の私より10歳後だったようで、私がその気にならないのも無理はない。自分が叶えたかったことを美容整形込みで子供に焚き付けた結果、子供は親の買った家に閉じ籠り、心身の暴力をふるい、家庭裁判所の調停を繰り返す親子関係になっているらしいから、私も自分に焚き付けたところで知人の思い描く通りに進まないのは確かだ。
私は精神的な安定の軸を求めて、来月、結婚を想定にいれたデートに向かう。ひたすら言語化と話し合いが出来る、精神安定した穏やかな人を選んだ。その一点が貫かれてれば他に望むことはない。というか、その一点が私の人生に欠けている。どれだけ教育本を読んだりオーガニックな暮らしを目指したり、田舎の素朴な肉体労働現場に就労しても補えなかった。お付き合いになった場合、どちらかと言えば私の方が相手に感情的に当たるかもしれない。その時は謝って、信頼する友人に打ち明け、カウンセラーに頼ろうと思う。デート相手は現在、就労しながら資格試験の勉強真っ最中だ。数年前同じ職場だったときも、他の資格の勉強真っ最中だった。まさに私が出来ないことをいつも取り組んでいる、私からしたら謎の人で、親子関係も円滑そうに聞こえる。出会った頃、私はお茶に誘われても断り、1年間メールを続け、「正直あなたと結婚したら楽しそうです」とこちらからメールしたら「よろしくお願いします」と、前向きな返事に添えて具体的な連絡までもらったものの、甘えてしまいそうで怖くなって約束をキャンセルし半年経った。それでも会ってくれるというのだから、恩人としか言いようがない。虚言で振り回してくる人を選ぶことが多かった私に、とうとう、安定したパートナーが出来るかもしれない。私と同じく悲惨な育ちの友人が、そんな出会いを経て、精神的にどっしりした生活を送っている。そんな明るいことが私に実現したら、もう少し、貧しさばかり選ぶのを手放すだろうか。
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