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ナンバーガール シンドローム

 2019年2月、ナンバーガールが再結成するとのニュースにまず思ったことは、喜びであるとともに彼らの音楽は今のロックシーンで不動のものになるではないかという感覚だった。この半年前にはELLEGARDENが活動休止を経ての復活があったが、10年の歳月を感じさないほどの人気ぶりで3万人収容のZOZOマリンスタジアムでさえチケット難民がそれ以上出ていた。当時はインディーズながらオリコン1位、数十万単位でCDを売り、鬼門であると言われる幕張メッセ規模のライブがオールスタンディングの超満員であったのだから当時のファンだけでものすごい数がいたから当然の結果なのだろう。
 ただナンバーガールは違う。チャートで上位に来たことはないし、ワンマンも最大でzeppクラスのライブハウス規模でしかやったことがないという。しかも17年の歳月を経てライブに行く客層は様変わりしているし、バンドの形態ですら違っていたりもする。そんな今の時代に再結成してどうするのかと考えた人も少なくないだろう。

 しかしやはりナンバーガールの需要は高く簡単にはチケットは取れない現状となった。それは活動期間の短さからくる解散後の枯渇感もあるかもしれないが、「ASIAN KANG-FU GENERATION」を始め「Base Ball Bear」や「凛として時雨」など00年代~10年代を代表するバンドがフォロワーというのもあるだろう。彼らの音楽がナンバーガールから影響を受けたエッセンスを、少なからずバンドファンに浸透させているのではないかと睨んでいる。

 自分自身もナンバーガールが活動していた当時は小学生で、解散後に存在を知った後追いである。いわゆる邦ロックを聴き始めたのが中学生くらいで先程挙げたアジカンやそれこそボーカルであった向井が始めたZAZEN BOYSがきっかけで存在を知った。その当時は単純に難解なバンドだなという印象だったし、それこそアルバムも1通り聴く程度の知識しかなかった。しかし大人になるに連れて不意に聴く機会も多くなり、一度でいいからライブに行きたかったなと思う衝動があった。

 そんな中、復活するなら絶対行くぞと意気込んだ新宿LOFTや日比谷野音は当然のごとく落選。このツアーの終了後すぐに次のツアーが発表されるも、最速先行はあっさり外れ。もう見れることはないのかなと思っていたがまさかの2次先行で新潟公演が当選。キャパが700ほどの規模で見れると思うと当選した日の仕事の帰り道はニヤニヤが止まらなかった。

 そうして迎えた初めてのナンバーガールは音を肌で感じるような衝撃があった。単純な言葉で言い表せないほどの感覚で爆音を聴いてしまった後は放心状態で帰った。一見しても分からない難解な歌詞に聞き取れない歌声。L'Arc~en~Cielみたいにルックスが強いわけでもなく、Mr.Childrenのようにキャッチーな音楽を鳴らしてるわけでもないのになぜか聴きたくなってしまう。

 なぜここまで惹きつけられたのか、理由は正直分からない。思い返せばライブの客層はそれこそ老若男女がいて、自分より年下の学生くらいの年代もいたし50代は越えているであろう初老の男性も見かけた。チケット代も手数料込みで8000円近くはしたし、転売対策にIDチェックも厳しく行われていてライブに行くハードルは高い方だと思うが、それでも見たいという気持ちを起こさせ、心を突き動かされる不思議な魅力があるのだ。

 バンドが作る音楽は、迫力のあるベースが響き、心地よいドラムのリズムに、キレのあるギターがかき鳴らされる、そこに気持ちが入ったボーカルが歌を叫ぶ、それだけで良いのだ。そしてそれを体現しているのがまさに「ナンバーガール」というバンドであり、シンプルなロックバンドとしての格好良さの象徴なのではないだろうか。

 結局、ライブを見てからというもの一度でいいから見てみたいという願望が叶ったのに、またみたいという気持ちが強くなっていて、私は欲が止まらない生き物なのだと改めて実感し呆れている。 3/1 に無観客で行われたZEPP TOKYOでのライブ配信も通してみたが、画面越しでも感じる爆音のライブは更にその余韻を倍増させ、途中の森山未來の乱入による「OMOIDE IN MY HEAD」は頭にこびりついている。これが後藤正文が曲にしてしまうほどの症候群か…とそれまで聴いていなかった曲でさえ聞き込んでいる状況。次に見るライブを想像しながら聴くことはどんなバンドやアーティストでも同じだが数ヶ月経っても中毒性が消えていない。インマイヘッドを繰り返してるだけのサビが頭の中でリピートされ、口ずさんでしまう。早く向井秀徳の唐突な曲振りから絶妙なタイミングでかき鳴らされる田渕ひさ子のギターが聴きたくてたまらない。

 これこそが「N.G.S」すなわち、ナンバーガールシンドロームなのだろう。
イベントやライブが自粛のご時世でつらい日々だが、いつの日かまた見れる日を心待ちにライブの記憶をOMOIDE IN MY HEADしながらなんとか生きていきたいと思う。

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