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由利子とアキコとアンヌ ~ウルトラQ・ウルトラマン・ウルトラセブン-ヒロイン比較

拙著『ウルトラセブンが「音楽」を教えてくれた』の冒頭では、『ウルトラマン』のフジアキコ隊員と『ウルトラセブン』の友里アンヌ隊員について書いている。
要約すると「ブラコ星人に襲われると悲鳴をあげてダンに助けを求めながら気絶するアンヌ隊員と、ケロニアに襲われてもひとり無言で対峙するフジ隊員」というものだ。

二人のこのキャラクターの対比は象徴的であり話の「掴み」にも良いので、その後もトークショーやラジオへの出演時にネタとして話している。

このコラムでは、この二人に『ウルトラQ』の江戸川由利子も加え、三人の性格のみならず仕事や恋愛模様についても比較をしてみたい。

あの時代に先進的な職場環境が実現している『ウルトラQ』

まずは、三人の仕事の役割と立ち位置を見てみよう。

江戸川由利子。新聞社である毎日新報のカメラマンであり、取材も行っている。しばしば彼女の仕事都合で、毎日新報の業務委託先と思われる星川航空の男性パイロット二人とともにヘリコプターに乗り、事件などに向かう。
毎日新報社内においても、完全に男性スタッフと対等なポジションと見てとれる。

対するフジ隊員。科学特捜隊の(当時よく使用されていた言葉では)紅一点で、本部で通信を担当するという他の男性隊員にはない役割を持つ。また、昭和ならではの「お茶くみ」も行う。
時おりジェットビートルに同乗して前線に向かったり、現地で怪獣に攻撃を加えたりもするが、男性隊員が現場に向かうなかで居残るシーンも多い。
作品中でも、いわゆる昭和的価値観の表現である「女子供」的な扱いが散見される。

そしてアンヌ隊員。地球防衛軍唯一の女性隊員であり、メディカルスタッフでもある。ひし美ゆり子さん本人は著書で「アンヌ隊員は医師なのです」と記述しているが、作品中では医師と看護士の両方の業務を行っているように見える。
また防衛軍のメンバーとしての役割において、男性隊員との明確な差異はフジ隊員ほど見られないものの、日常的な「性別の異なる隊員扱い」は良くも悪くも随所に感じられる。

さて一九六〇年代という時代背景を考えてみると、ほとんどの職場で女性は「結婚退職を前提に、男性の補助業務を担う」という役割だったであろう。これにいちばん近いニュアンスを感じるのは、フジ隊員である。
前線は基本的に男性隊員が担い、フジ隊員は時おりそこに参加するものの、基本的には本部で事務職に就いている。

またアンヌ隊員も、医師、看護士という独立した仕事を兼務していることとは別の「暗黙の了解」として、やはりフジ隊員と同様、これも昭和的表現である「職場の花」的雰囲気が見て取れる。

左より2005年、1994年、1997年刊、いずれも小学館発行の書籍

そんななか、特筆すべきは由利子である。由利子の立ち位置は、現場のスタッフとして完全に男女フラットに見える。
もちろん由利子が所属する組織はいわゆる「軍組織」ではなく、新聞社というある意味で一般企業とは一線を画する業種の会社ではある。とはいえ、一九八六年に男女雇用機会均等法が施行されて以来、令和の現在に至ってもまだまだ実態としては実現しているかあやしい女性と男性が平等な環境が、ここですでに達成されているのである。

次段で述べる由利子の溌溂とした行動的な言動もあいまって、先進的理想的なモデルがここで確立しているのだ。

男性ファンタジーを投影した『ウルトラセブン』のアンヌ隊員

次に三人の性格、キャラクターを見てみたい。

江戸川由利子とフジアキコの性格は、泣かない、媚びない、ちゃきちゃきと歯切れ良く言いたいことを言う、気が強い、正義感が強い、と基本的に同様である。

由利子については、そもそもの設定がリベラルな職種・職場で性差なく働ける環境であるから、上記の性格がそのまま仕事にフィットしているように見える。

またフジ隊員であるが、昭和の職場の役割を仕事として受容してはいるものの、やはり本来の性格から、男性並みに仕事をさせてもらえない残念な気持ちが見てとれる。

いっぽうアンヌ隊員だが、医師・看護士と隊員を兼務するという重責を担っていながらも、常に男性に対して包み込むような眼差しで接している。

これを一般化した例に置き換えてみると、「専門分野を二つ持つハードワークで高収入のキャリア系でありながら、いつでも笑顔で手の込んだ料理を作ってくれる専業主婦的な立ち位置も兼ね備え、男性を愛し守ってくれる」といった存在であろうか。

それはまさしく、制作陣の男性によるファンタジーな設定であったと推測しても良いだろう。

3人のキャラが反映された恋愛模様

さて三人がそのようなキャラクターであることは、男性の登場人物との恋愛模様にも反映してくる。

まず由利子だが、淳ちゃんとの淡い恋愛感情は随所に見られるものの、制作順と放送順が大幅に入れ替えられたことにも若干起因しつつ、あまり一貫性はない。

またフジ隊員については、ハヤタ隊員が行方不明となり机に突っ伏すシーンほか、イデ隊員との銀座デートなど男性隊員との親密な雰囲気も見てとれるが、どれも単発的な感じである。

いっぽうアンヌ隊員は、全編にわたり「ダン♡」全開であり、業務におけるツーショットのみならず、純粋なデートのシーンもある。それは先の「制作陣のファンタジー」から鑑みれば、納得できる展開なのである。       

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三者三様のステレオタイプではないヒロイン像。Q、マン、セブン、この視座からしてもさすが非凡である。



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