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日本お米ばなし vol.44 環境編「地球の限界、プラネタリーバウンダリーとは」

Natural Farmingは、お米の専門家である「五ツ星お米マイスター」のいるお店です。
お米が大好きな私たちがお届けする【 日本お米ばなし】ぜひご覧ください。


世界各地で気候変動の影響が頻繁に起こるようになり、いよいよ私たちはその対策や問題解決に向けた行動をしていく必要が出てきています。
そこで今回は、地球の限界(プラネタリー・バウンダリー)について紹介したいと思います。

地球の限界「プラネタリーバウンダリー」とは

プラネタリーバウンダリー(Planetary Boundaries)とは、人類が地球環境を安全かつ持続可能に維持するための限界を定めた概念のことです。
これは2009年にスウェーデンの環境科学者ヨハン・ロックストロームとその同僚たちによって提唱されました。この枠組みは、地球システムが安定した状態を維持するために必要な9つの主要なプロセスと、それぞれのプロセスに対する安全な操作空間(boundaries)を定義しています。

9つのプラネタリーバウンダリー

  1. 気候変動 (Climate Change)

    • 大気中の二酸化炭素濃度や放射強制力の増加が指標となります。限界を超えると気候システムの変動が激化し、人類や生態系に深刻な影響を与える可能性があります。

  2. 生物多様性の喪失 (Biodiversity Loss)

    • 種の絶滅率が指標です。生物多様性の減少は生態系の機能を損ない、人間の生活にも多大な影響を及ぼします。

  3. 生物地球化学的フロー (Biogeochemical Flows)

    • 特に窒素とリンの循環が注目されています。これらの元素の過剰な流出は、水質汚染や生態系の劣化を引き起こします。

  4. 海洋酸性化 (Ocean Acidification)

    • 海洋のpH値の変動が指標です。二酸化炭素の吸収により海洋が酸性化し、海洋生物や生態系に深刻な影響を与えます。

  5. 土地利用の変化 (Land-Use Change)

    • 森林の減少率や土地被覆の変化が指標です。土地の開発や農地化が生態系に悪影響を及ぼします。

  6. 淡水利用 (Freshwater Use)

    • 地表水や地下水の利用量が指標です。淡水資源の過剰利用は、生態系や人間社会に重大な影響をもたらします。

  7. 大気エアロゾル (Atmospheric Aerosol Loading)

    • 大気中のエアロゾル濃度が指標です。エアロゾルは気候や人間の健康に影響を与えますが、この限界はまだ具体的に定義されていません。

  8. 化学汚染 (Chemical Pollution)

    • 環境中の有害化学物質の濃度が指標です。化学物質の汚染は生態系や人間の健康に悪影響を及ぼしますが、この限界もまだ具体的に定義されていません。

  9. オゾン層の枯渇 (Stratospheric Ozone Depletion)

    • 成層圏のオゾン濃度が指標です。オゾン層の減少は紫外線の増加を引き起こし、生態系や人間の健康に重大な影響を与えます。

プラネタリーバウンダリーの意義

プラネタリーバウンダリーは、地球環境の安定性を維持するための科学的な枠組みを提供します。これにより、人類がどの領域で限界を超えているか、どこに注意を払うべきかを明確に理解することができます。現在、気候変動、生物多様性の喪失、生物地球化学的フローの三つの領域で既に限界を超えているとされています。これらの知見をもとに、持続可能な発展を実現するための政策や行動が求められています。

この枠組みはまた、個人や企業、政府が環境保護のための具体的なアクションを取る際のガイドラインとしても機能します。例えば、持続可能な農業や再生可能エネルギーの推進、自然資源の効率的な利用などが考えられます。プラネタリーバウンダリーを意識した取り組みは、地球環境の保全と人類の持続可能な未来に向けた重要なステップであると言われています。

出典:令和5年版 環境・循環型社会・生物多様性白書

プラネタリーバウンダリーと有機農業の関連性

ここまでのお話で、プラネタリーバウンダリーとは、人類が地球環境を持続可能に維持するための限界を示す概念で、地球の環境を9つの主要な領域で評価し、それぞれに「安全な限界値」を設けていることがわかりました。
そして、これらの領域には気候変動、生物多様性の喪失、窒素・リン循環の攪乱などが含まれます。

有機農業は、これらのプラネタリーバウンダリーを尊重し、持続可能な農業実践を目指すアプローチとして注目されています。有機農業は、化学肥料や農薬の使用を極力避け、自然の生態系を維持・促進することを重視します。この方法により、土壌の健康が保たれ、窒素やリンの過剰な流出が抑制されるため、窒素・リン循環の攪乱を減少させる効果があります。

さらに、有機農業は生物多様性の保護にも寄与します。単一作物の大規模栽培とは異なり、有機農業では多様な作物の栽培や輪作、被覆作物の利用が奨励されます。これにより、農地が多様な生物の生息地として機能し、生物多様性が維持されます。

また、気候変動に対する影響も無視できません。有機農業は土壌中の炭素蓄積を促進し、温室効果ガスの排出を削減する効果があります。これは、気候変動の進行を遅らせる一助となります。

「米づくり」と温室効果ガス

温室効果ガスとは、太陽からの熱を地球に閉じ込めて、地表を温める働きを持つ気体のことをいいます。 主に水蒸気、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロン類の5種類があります。

農林水産分野の温室効果ガス排出量は10%程度で、それほど高くないように感じるかもしれません。
しかしながら、その10%の内訳をみると、メタンガスが43%程度あり、国内のメタンガス排出量の81%が農業から排出されています。
しかも、そのうちの44%は稲作によるものとなっており、米作りも温室効果ガス削減に重要な産業となっています。
メタンガスの温室効果はCO2に比べて25倍とされています。

そのため、米づくりにおいても、温室効果ガス削減に貢献するつくり手を応援することは大変意義があることだと私たちは考えています。

おわりに

有機農業はプラネタリーバウンダリーを意識した持続可能な農業手法であり、地球環境の保全に重要な役割を果たします。私たちがこれを応援し、普及させることは、きっと地球の未来を守るための一歩となるでしょう。Natural Farmingでは、、人も地球も美味しいお米の価値を伝え、つくり手も食べる側も、その間をつなぐ私たちも一緒に未来を考えて行けたらと思っています。


参考資料

プラネタリーバウンダリーの概念
Rockström, J., Steffen, W., Noone, K., Persson, Å., Chapin, F. S., Lambin, E., ... & Nykvist, B. (2009). "A safe operating space for humanity." Nature, 461(7263), 472-475.

有機農業と環境への影響
Reganold, J. P., & Wachter, J. M. (2016). "Organic agriculture in the twenty-first century." Nature Plants, 2(2), 15221.

窒素・リン循環の攪乱と有機農業
Drinkwater, L. E., Wagoner, P., & Sarrantonio, M. (1998). "Legume-based cropping systems have reduced carbon and nitrogen losses." Nature, 396(6708), 262-265.

生物多様性の保護
Bengtsson, J., Ahnström, J., & Weibull, A. C. (2005). "The effects of organic agriculture on biodiversity and abundance: a meta-analysis." Journal of Applied Ecology, 42(2), 261-269.

気候変動と有機農業
Gattinger, A., Muller, A., Haeni, M., Skinner, C., Fliessbach, A., Buchmann, N., ... & Niggli, U. (2012). "Enhanced top soil carbon stocks under organic farming." Proceedings of the National Academy of Sciences, 109(44), 18226-18231.

環境省「環境白書」
令和4年度 環境の状況、令和4年度 循環型社会の形成の状況、令和4年度 生物の多様性の状況、第1部 総合的な施策等に関する報告


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