懐かしい読後感『涼宮ハルヒの直観』

最近発売された『涼宮ハルヒの直観』を読んだので、感想を書いてみる。
短編に関してはそこまで書くこともないので短めに。あと、ネタバレは極力控えるものとする。

『あてずっぽナンバーズ』
 短編一つ目。いとうのいぢ氏の画集にて掲載された短編だったが、残念ながら読んだことがないので初見。
 古泉が呟いた適当な数字の羅列がなんであるかを当ててみよう、と言いつつ、実はただのハルキョン。久々に摂取する公式の文章がハルヒとキョンのいちゃいちゃだとは露にも思うまい。いや、自分は好物だけれども。大好きだけれども。
 これはジャブだ。特段面白い文章であるとはあまり思わないが、涼宮ハルヒというコンテンツを久々に摂取する上では非常に重要な一段目となるに違いない。彼ら彼女らは、こういう雰囲気の世界で生きているのだと。

『七不思議オーバータイム』
 短編二つ目。こちらもスニーカーの何かに掲載されたものだが、雑誌を買う習慣がなさすぎて初見。
 ハルヒが学校の七不思議を探しているけどあいつが考えたらやべーから俺たちで先に作っておこうぜ、的な話。この短編にハルヒは最後以外ほとんど出てこないのだが、彼女の性質上もの凄い存在感を示している。キョンたちが考えるフェーズと、ハルヒが登場した後のフェーズ、この二つの落差にはっとさせられることだろう。涼宮ハルヒというキャラクターはそれほどまでに強いものなのだということを。
 この短編において重要なのはSOS団というグループの面子がどういう役割であったかを思い出すことだ。古泉はいかにもな口ぶりで知識を並べ立てながら(語部であるキョンを差し置いて)進行をするのが役割だし、朝比奈さんはそのいくつかの萌え要素と介護精神で場の空気を和ませるのが役割だし、長門は長門で物語の重要なキーや判断を知らせる役割がある。もちろん、涼宮ハルヒにも。そして次の話でそれを踏まえた上で読み進めていくことが出来るのだ。

『鶴屋さんの挑戦』
 一言で言うと、非常に面白かった。
 初心者向けのミステリ談義から始まるこの話は、本格ミステリを知っている人と知らない人では評価が分かれるかもしれない。
 内容としては、簡単に言えば"鶴屋さんがメールでよこしてきた文章を元に謎解きをしろ"というもの。鶴屋さんが過去に経験した優雅で溌剌な冒険活劇・・・ではないが、彼女の経験談を元に謎を提示している。この話は"読者への挑戦状"が最初から突き付けられた状態で始まると言ってよい。この"読者への挑戦状"こそクイーンがよく使っていた手法だ。この鶴屋さんからのメールは三段階に分かれているわけだが、それぞれ別のトリックを使用してハルヒたちへ、あるいは読者へ謎解き(挑戦状)を仕掛けている。自分が小説を読む時は流れに身を任せるタイプなので途中で謎解きをしたりはしないのだが、後から考えてみると明快な気づきを得ることができた。それぞれのトリックが順序立てて気づくことが出来るものになっているので、ミステリ初心者にも優しいと言えるかもしれない。
 過去のシリーズでもあるように"涼宮ハルヒ"はそれなりに充実したミステリ小説でもある。彼らがミステリ小説の登場人物として出てきていることに全く違和感を感じずに一緒に謎解きを進めることができるのも、この小説のポイントだろう。短編二つを読んで"涼宮ハルヒ"の読み方を思い出した(あるいは知った)からこそ、各キャラクターの振る舞いなどをミステリに当てはめて楽しむことが出来る。
 更に言うと、この話の重要な点は謎解きが終わった後だ。最後まで読んだ人なら、涼宮ハルヒが如何に強大な存在で、本編ではどういう扱いを受けていたかを思い出すだろう。ちなみに自分は久々にハルヒに対する恐怖を感じた。あくまで本編外の話ではあるものの、彼女がイレギュラーであることを思い出させられたのだ。この感覚はとても懐かしく、読後感としては良いものだったと思う。

ここまで三編の感想を述べてきたわけだが、"涼宮ハルヒ"という世界観を萌えとかライトノベルとかそういう括りではなく、"ミステリのような何か"で読んでいた人にはお勧めできるだろう。当然ながら"涼宮ハルヒ"について前知識が必要ないわけではないので、初見にお勧めするわけにはいかないのだが、そういう人には"憂鬱"から読んでくれと言っておこう。天真爛漫で傍若無人なヒロインが周囲の人間を振り回すという設計は今の時流には合わないかもしれないが、そういうものが好きな人は是非読んでいただきたい。

 そういえば、この"涼宮ハルヒの直観"は実に九年ぶりということで期待を大にして裏切られた方もいただろうが、自分は期待を大にした上で満足したと言っても良いだろう。少なくとも自分はこの世界に没入することが出来たし、楽しむことが出来た。"涼宮ハルヒ"の世界において、こういった何てことない誰にでもありそうな日常をキョンたちに当てはめて楽しむことが何よりの正解なのだと思うし、そこから世界あるいはハルヒの異常性について気づかされることも醍醐味の一つなのだ。

おわり

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