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barrel

中学生の誰もが好きになって、いつの間にか嫌いになる曲がある

運命にはいくらでも抗えるけど、集団には抗えないね ブレザーのネクタイを解いて真っ白なリボンを結び直すの、そうして好きだったはずの何かを馬鹿にして、好きとか嫌いとか関係なく生きていく ローファーがすり減る頃、象徴的な海の夕焼けがただの紺色に変わった 「オレンジの音がするようになったね」同じ声で、君はストップウォッチを投げつけたね

お腹に縦の線が入る頃、いつまでも一番小さなあなたが泣きながら白い線を見せる ひとりだけ涙を流さないのは昔からだったけど、皮肉なことに、川へ流した涙の歌を 神様の前で歌ったね
かなしみなんてなんにもわかっていないような気がしてそっと音を立てる 鈍く残った肌色の線を見ても何も感じなくなった頃、ああ全部終わっちゃったんだなってやっとかなしさがやってきた 直線をお揃いにしたって中身なんかわかりっこない 同じナイフを手にしたって 突き立てる場所がきっと違ったんでしょう?数年後、何回目かの黙祷が体育館でこだまする いつも誰もが、自分だけのかなしみの渦の中にいて、わからないからって傷をつけたって自分には他人の傷がつかないんだってこと、渦潮のない川を見てようやく思い知る

なにも嫌いじゃなかったし、なにも好きじゃなかった そのことに気づくのに もう随分歩いてきた気がする それなのに全く疲れていないのは、道路も線路も繋がってないからだろう

思い出って、だから必要なんだ

頑張って嫌いになった曲を聴きながら、みんなが一度でも必ず好きになるなら、本当は愚曲なんかじゃないんだろうなと思った
星はもう降らない 川の色は同じじゃない 生まれ育った街なんてもう存在しないけれど、代わりに歩こうと思った 馬鹿にされても折れない人は十分素敵だから、誰に馬鹿にされても自分の好き嫌いに干渉しない海を

最後の手紙を読みながら、ああこんなの、知らなかった、知ってたけど知ろうとも思わなかったんだな、と気づく
私が置いてきた落雷の庭で(まだIIは完成しませんか?)お人形をかき集めたい もう名前も忘れちゃったけど、無理矢理お姫様にならなきゃいけなかった兵隊の夏が、突然柔らかくなった気がした

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