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チキンライス

どうも、チキンライス地位向上委員会会長のエッフェル塔です。

私の持論にはなるが、チキンライスは不遇の存在であると感じる。読者諸君の中に、人生の中でチキンライスが食べたいとなる瞬間があっただろうか?おそらくないだろう。それもそのはず、その椅子には長年オムライスという憎き宿敵が鎮座しているからである。

チキンライスを食うぐらいだったら、卵が乗ったオムライスを取るという方も多い。お得だからだ。少々の具と米をケチャップで炒めるだけの料理にふわふわ(人によって食感の好みは分かれるかもしれないが)の卵があるだけで華やかになる。最近はチキンライスの上にオムレツを乗せてナイフでパカっと割るタイプのオムライスを、SNSで見かけない日はない。

料理を結構する方だが、私自身オムライスを作る方が圧倒的に多い。チキンライス用に鶏肉を細かく切ったり、そもそも鶏肉を用意するのが面倒くさい。また、ケチャップの適量が分からない。結構入れたと思っていても、味が薄いということは往々にしてある。更には、ケチャップを含んだ米を炒めるというのがそもそも至難の技なのだ。全体に満遍なく味を馴染ませるために鍋を振ろうとしても、チャーハンとは異なる感覚のため、調理後のキッチンは悲惨な状況になる。

それに比べてオムライスはどうだ?多少下のケチャップライスが粗相をしたとしても、絹の如き卵が全てを帳消しにしてくれる。さらにその上からケチャップ、ちょっといい店だとデミグラスソースなんぞかけてしまえば、誰も文句を付けられまい。オムライスはチキンライスのことをライバル視するどころか眼中に無いのである。

そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。

ここまで読んでくれた皆様のためにチキンライス観が変わるチキンライスを紹介しよう。

愛知県名古屋市の久屋大通沿いにJAZZ&COFFEE YURIというジャズカフェがある。知っている人は「なぁんだあそこか」となるはず。

著者近影

ジャズカフェと言ってもうっすらとフリージャズを流すような生半可な店ではない。爆音。この一言に尽きる。テレビ塔まで聞こえてもおかしくないくらいの音量でジャズが流れている。複数人で入って会話しようものならそん声はかき消されてしまう。

接客はものすごく丁寧である。前菜のサラダやカラトリー、食後のコーヒー、食事中のコップの空き具合の確認。細かなところまで目が行き届いていて、多忙なランチタイムも難なく捌いてしまう。私はしたことはないが、ジャズレコードのリクエストも快く受けてくれる。

この店のチキンライスとの出逢いについて語りたい。愛知県美術館で展覧会に行った。ジョアン・ミロ展だったと思う。

美術館を出た時間が1時過ぎで、ちょうどお腹が空いていた。何か腹に入れようと思ったが、自分の食べたいものが分からなかった。ぶらぶらと歩いているといい匂いとジャズの爆音に誘われてその店に入った。

店員さんにおすすめを聞いたら真っ先にチキンライスを薦められた。「チキンライスゥ?」という疑問と不安を抱きながらも、「じゃあそれとアイスコーヒーを」と注文した。こんな文章をイキリ散らかして天邪鬼なことを書いているのに、店員さんの押しにはとことん弱い隠キャの悪い癖が出てしまった。

一日に3回しか無い貴重な食事をチキンライスとかいうオムライスの下位互換に捧げて良いのかという思いが、待っている間私の脳内を駆け巡ったが、そんな思いはケニー・バレルの爆音の音楽と、出されたチキンライスを見てどこかに行ってしまった。

写真の撮り方が絶望的に下手で申し訳ないが、この写真を撮っているとき早く食べたくて仕方なかった故、適当に撮ってしまった。強烈なバターと甘酸っぱいトマトの匂いが食欲を湧かせる。

食べた瞬間体中に電撃が走った。マジで。今まで食べてきたチキンライスとは一線を画す旨さだった。そんじょそこらのオムライスなんか勝負にならなくらい美味しい。しっかりとした存在感の鶏肉、食感のアクセントとなる玉ねぎ、そして味の地盤となるケチャップライス、全てが調和していて食べていて楽しくなってくる。

食べる後半になると力を発揮するやつがいる。付け合わせの福神漬けである。この福神漬けがニクい。カレーライスならまだしも、チキンライスの付け合わせで福神漬けというチョイスが、最後の一口まで飽きがこないようになっている。


私は「北海道の雲丹食ってみ?回転寿司の雲丹食えんくなるよ笑」や「パクチー食えんとかマジで人生の半分損しとる笑」などとほざく輩のことを信用していない。北海道の雲丹も回転寿司の雲丹も美味しく食べることができるほうが幸せだし、パクチーが食えなくても幸福度合いにさほど変化は無かろう。しかし敢えて言わせてもらおう。「YURIのチキンライスを食わないと後悔する!」と。

食後のコーヒーを飲み、爆音のジャズを聴きながら本をまったり読めば、その日の残りはウィニングランである。やっぱり俺はチキンライスがいいや。

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