森のパン屋さんで祝福を

母校の大学は市内の図書館に近い場所に位置しており、大学と図書館に挟まれた形で木造タイプのカフェが構えている。

カフェから少し外れたところには自然公園が位置しており、カフェの窓から眺める、昼過ぎの木漏れ日がやけに綺麗で有名だ。

カフェだが美味しいタマゴパンが話題を読び、自然公園に近いことから森のパン屋さんと呼ばれている。

その森のパン屋さんに大学卒業以来、三年ぶりに入店した。

奥のテーブル席には初夏に似合うベージュのカーディガンを着た女性が水を口に運んでいるところだ。

彼女の名は友梨。大学時代からの異性の友人で同性より腹を割って話せる。ひとえに彼女の人柄が優れているからだろう。

「久しぶり。」
1年と半年ぶりに聴く友梨の声は昔より落ち着いていて、成熟した人間性が表れている。

「久しぶりだな。友梨は最初東京に就職してその後大阪に転勤になって。それ以来会ってないから1年半年ぶりか。」
「ふふ。そうだね。もうそんなに経つのか。そりゃ私も色々あるわけだ。」

笑みをこぼしながら上手に話に乗っかってくれる。友梨の笑顔も頷ける。なぜなら彼女は今年の夏、入籍するのだ。

相手は勤め先の先輩で実家は中小企業を営んでいるとのこと。友梨も良い男を見つけたんだなと素直に感心した。

「もうさ、彼って私にゾッコンなの。私がいない人生は考えられないって。」
「はは。幸せそうで何よりだ。」
「そっちはどうなの?」
「去年出会った人と付き合ってるよ。」
「え、初耳。聞かせて。」
「おいおい。今日の主役は友梨だろ。勘弁してくれ。」

友梨は頬を膨らませてからムスッとした表情を浮かべたが、結婚予定の余裕からか、笑顔は崩れない。

「しかし友人の結婚を耳にすると、もうそんな年齢だなってつくづく思うよ。」
「何悟ったように言っちゃって。その内結婚するでしょうに。」
「いや、俺は結婚しないな。独身貴族を謳歌するよ。それに何だ、結婚すると徐々に友達に会わなくなるだろ。異性なら尚更だ。」

友梨は雲行きが怪しい顔に変わった。今の発言は失言そのものだな。

こういう些細なことからマリッジブルーになるのだろうか。結婚に躊躇いの一つや二つ、生まれるのだろうか。

「そうよね。結婚してからも2人で会うなんて、できっこないよね。何で私それに気付けなかったんだろう。」

彼女は寂しげな顔を見せた。何とかして明るい未来を想起させよう。俺にできることは後悔が立たないように祝福することだ。

「2人では会えなくなるだけで一生の別れじゃない。共通の友人を交えて会えるだろうし、同窓会もある。思い出に滲んだ過去も素晴らしいが可能性に溢れた未来を想像しろよ。」

そうね、と彼女は肯く。何となく知っている。俺の10歳年上の姉も結婚前、とりわけ夜に不安が過ぎっていた。

思春期ながら大人が自発的に選ぶ未来には責任と覚悟が伴うことを学んだ。

友梨が一時の不安に駆られている。だから俺にできることは未来を想像させることだ。

「知ってるか。木漏れ日って目に入れても痛くないんだ。将来さ。友梨たち夫婦の間に子どもが生まれたら、それこそ、目に入れても痛くないんだろうなって。そんな未来が来るよ。」

俺は浅薄な語彙と素直な祝福の気持ちから、精一杯の言葉を振り絞った。自分で言うのもなんだけど、中々クサイ発言だ。

そんな俺の発言に友梨は再び「そうね」と頷いて少し口角が上がった。

森のパン屋の窓から覗く、自然公園の優しい木漏れ日が祝福するかのように光を差していた。

#木漏れ日 #とは #小説 #日記 #短編
#ショートショート #ショートストーリー
#短編小説 #毎日更新 #毎日note #友達
#創作 #フィクション


ご高覧いただきありがとうございます✨また遊びにきてください(*´∀`*)