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文章力向上道場

文章のカメラワークを考える

①導入・・・客観(俯瞰)のカメラ
ドラマが始まる前に必要なのは、「いまから何が始まるか?」の説明だ。なんの事前情報を持たない読者に対して、制作者はまず「ここは大学ですよ」「季節は春ですよ」などの状況説明をする必要がある。p.115

②本編・・・主観のカメラ
続いてカメラは主人公の男の子をとらえ、女の子をとらえる。女の子と出会い、初めて声をかけた時の緊張した様子、楽しげに電話で話す顔、初デートの映画館。カメラが遠景になることはほとんどなくなり、きわめて近い距離(半径数メートル)でのショットが続く。p.116

③結末・エンディング
最後のエンディングだが、ここでカメラはもう一度遠くから2人をとらえる。夕陽の沈む水平線を背景に、美しい風景の一部として2人を描き出す、などはよくあるシーンだ。こうして主人公たちから距離をおくことで、ナレーションやテロップなどの「客観的な解説」も入れやすくなる。p.117

①の序論で語るのは、客観的な状況説明だ。これから本論でなにを語るのか、なぜそれを語る必要があるのか、世のなかの動きはどうなっているのかなどを、客観的な立場から明らかにする。カメラはずっと高い地点から俯瞰で対象をとらえている。
続いて②の本論で語るのは、それに対する自分の意見であり、仮説である。カメラは対象にグッと近寄り、かぎりなく主観に近いポジションから対象を描いていく。
そして③の結論では、再び客観的な視点に立って論をまとめていく。展開された自らの意見を「風景の一部=動かしたい事実」として描くわけである。p.118-119

カメラはいまどこに置かれ、どんな順番で、なにをとらえているのか。対象との距離感はどれぐらいなのか。同じ距離、同じアングルばかりが続いていないか。場面(論)が転換する際に、それを知らせる遠景のショットは挿入したか。カメラを意識するようになると、文章と文章のあるべき順番も理解しやすくなる。文章の説得力も増してくる。そしてもちろん、文章全体にメリハリがついて、リズムもよくなってくる。p.119

導入は「映画の予告編」のつもりで

小論文や課題作文であれば読者(教師や評者)にも読み通す責任があるが、一般的な日常文にはそれがない。読者はいつも「読まない」という最強のカードを手に、文章と対峙しているのである。となれば、導入の目的はひとつしかないだろう。読者を劇場へと誘導し、まずは“椅子”に座ってもらうことだ。本編の上映は、そのあとの話である。p.121

たとえば本の場合、最近はネット上で最初の数ページを試し読みできるようになってきた。音楽でも、各曲の冒頭30秒を視聴できたりする。ところが、映画の予告編は根本思想が異なっている。ただ冒頭の数分を見せるのではなく、本編を短く再編集し、場合によっては一個の作品と言えるくらいのクオリティで予告編を制作するのだ。わずか数十秒から1〜2分程度の予告編に、映画の見どころを余すところなく詰め込み、観客の期待を煽り、けれども“ネタバレ”は厳に避けつつ、なんとか“椅子”に座ってもらう。予告編が観客動員に果たす役割は、かなり大きい。文章の導入も、まったく同じであると考えるべきである。いかにして読者の期待を煽り、本編まで読み進めてもらうか。考えるのはそこだ。p.122-123

予告編の基本3パターン

①インパクト優先型
(中略)あえて冒頭に読者が「おっ?」と興味を惹くような結論を持ってきて、そこからカメラをロングショットに切り替えるのだ。(中略)このように結論を先に述べてしまうのは、映画の予告編でとっておきのアクションや決めゼリフを見せるのと同じ手法だ。一見すると、“ネタバレ”のようだが、前後の文脈を断ち切り、関心の導線として挿入しているかぎり、なんら問題はない。p.123-124

②寸止め型
続いて、ホラー映画の予告編でよく使われる“見せない”という手法も、観客の期待を煽るのに有効だ。(中略)核となる部分にはいっさい触れず、味や素材についても言及していない。ただひたすら周辺情報を盛り上げることで、読者の「見たい」や「知りたい」を喚起させる。(中略)もう少しで正体を突き止められる。というギリギリのところまで情報を開示するのが、興味を引きつけるポイントなのである。p.125-p.127


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