あの素晴らしいエイプリルフールをもう一度

 世の中の変化、或いは大SNS時代への突入と共に、エイプリルフールに嘘をつく難易度が上がっている。少し前のエイプリルフールも巧妙な嘘をついて騙し切る悪質なゲームではあったが、騙された方も「嘘だったのかよ~」と言いつつもどこかそのゲームを楽しんでいるかのようなリアクションを取っていた。
 受け身のプロである芸人がドッキリを仕掛けられることすら可哀想と言われてしまう世の中で、何のメリットもなく急にただ騙されることに納得出来る人は少ない。それが嘘でも本当でもどっちでもいいならまだしも、ぬか喜びであったり誰かが傷つくような嘘であればヘイトすら集めてしまう。
 また、昔はSNSを経由しないコミュニケーションを取れたおかげで、一方的な発信ではなく、ある程度関係性がある中で双方が騙し合いを出来た(仕返しが出来ることでゲーム性が高まっている)という点も遺恨を残さない上で大切だったように思える。エイプリルフールというゲームの中できちんと友達と『撃ち合い』を楽しむことが出来た。RTで流れてきた自分とは無関係な人のツイートで騙されて傷つけられるなんて、道を歩いていたら急にエアガンで撃たれるようなもので、そこにはゲーム性も関係性もない。嘘をついている人間だけサバイバルゲームだと思っているただの暴力である。
 また、企業などのエイプリルフールも基本的にはホームページなどで仕掛けられており、その中から面白いものだけピックアップされてきたのも良かった。SNSよりもアクセスが悪い分、質の高いものだけをワンクッション置いて楽しむことが出来た。企業側も多少滑っても怒られにくい。わたしはこれが大好きだった。
 現代のエイプリルフールは一方的かつ誰の目に触れるか分からない分『面白い』『明らかな嘘である』『誰かを傷つけたりぬか喜びさせたりしない』『自分たちに関する嘘である(芸能人含め誰かを巻き込まない)』『でもどうでもいい』などをすべてクリアしている嘘しか基本的には受け入れられない。そして、それが分かっているような最低限勘の良い人間は「これムズすぎるんじゃないか?」とエイプリルフールへの参加を辞める場合が多い。それでも参加して、誰かを楽しませている人にはリスペクトを持ちたい。お前は天才。
 結果として勘の悪い人による『面白くない』『嘘かどうかわかりにくい』『人を傷つけたりぬか喜びさせたりする』『応援している対象含めて他人を巻き込む』『誰かにとって重要である』という地獄のような嘘が大量に流れてくる。そりゃみんな「エイプリルフールキショいねん」みたいな空気にもなってくる。
 それでもわたしがエイプリルフール嫌いになれないのは、それでもまだ誰かを楽しませようと必死で楽しい嘘をつく大人もいるからだろう。あの素晴らしいエイプリルフールをもう一度。あの素晴らしいエイプリルフールをもう一度。

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