「モブサイコ100Ⅲ」制作裏話

はじめまして。
私は3年程度ボンズに所属し、制作進行としていくつかのタイトルに参加させてもらいました。
今回はその中でもストーリー完結をアニメーションとして締めくくった「モブサイコ100Ⅲ」について取り上げたいと思います。

先に断っておきますが、特定の個人や会社様に誹謗中傷が起こることは目的としておりません。また、報酬や契約についても私からは特に言及することは致しません。
制作の奮闘記として楽しんで頂けたらと思います。

まずは私が担当した3話数について話していこうと思います。
正直なところ制作進行は担当していない話数については迂闊なことを言えないんです。制作の言い分と進捗表が他話数の主情報ですから、どうしてもクリエイター側の言い分を把握しずらい。制作体制については後ほど語ろうと思うので、ここでは一旦棚上げにさせてください。

◯1話
この話数は特に語れることが無いんです。私にとって恩人でもある河野さんが進行を務めていらっしゃいました。
自分は補佐として参加したので、雑用(タップの貼り替え、原図作成、素材の整理など)だけ手伝ってクリエイターとの窓口は河野さんで完結していた形です。
まぁこの話数で言うとするなら完成に1年以上かかったところでしょうか。完成したときの河野さんはすでにヒロアカTVにシフトしていたのもあって、V編当日は「やっと終わったね。じゃあ私は16時からヒロアカの打ち合わせあるからこれで。」とまさに仕事人らしい河野さんの一言を聞いたことが感慨深いです。

◯5話
初めて制作進行として一人で完成まで持っていった話数です。

1番苦しかったのはまともにクリエイターと話にならない自分の不甲斐なさに毎日直面することだった思います。声を荒げて怒られることはありませんが、「お前と話しても何も仕事が進まないんだよな。。。」という圧を毎日浴び続ける。

あとは海外のスタッフと仕事をする難しさでしょうか。言語の壁よりも日本のリミテッドアニメーションと海外のアニメーションスタイルが異なるので、作画素材のチェックに時間がかかりすぎて結果的にスケジュールの破綻を起こすと言う形です。
これはアニメーターの実力どうこうの話ではありません。むしろ海外のアニメーターは映像にアクセントを与えてくれるので、演出が話数のどのシーンにアクセントを欲しているか制作進行が把握した上でスタッフィングすれば映像の完成度に良い影響を与えられると思います。
ただ、あの頃の私には出来なかった。なんなら演出とそんな話すらせず、スケジュールで追い詰めることしかできなかった。
完成した5話のムービーを改めてV編後に見たのですが、とても満足できるものではありませんでした。

これは制作進行の性分かもしれませんが、担当した話数は粗探しの目線でしか観れないんです。どうしても4話、6話の映像と比べると見劣りする気がしてなりません。

◯9話
この話数は「動画」の工程で頭を悩まされた。これに尽きると思います。
5話の反省点を活かしてアニメーターの割り振りを工夫したことで原画までは概ね予想範囲内で進んでいきました。
しかし、現場として問題にあがったのが動画。特にそれをチェックする動画検査がタイトルを通して一人だけというかなり厳しい状況です。
「モブサイコ100Ⅲ」は動画枚数が平均7000枚程度で全話数合計すると8万枚を超える。これを一人でチェックして、リテイクがでれば修正をする。
9話が動画の工程に入った時にはまだ6話が完成しきっておらず、7話,8話も動画作業中でした。結果的に動画検査が9話のチェックする時間を取れずに、2週間以上動画作業に進まないカットが溜まっていきました。
50カットを超えたところでデスクに相談した上で動画検査と話し合い、動画チェックなしで9話を進めてリテイクは知り合いの動画検査に協力をしてもらう形で完成させました。
この作り方はあまりに失礼だと後悔するばかりです。

まだまだ動画の話は続きます。
「太く強弱のついた実線」
ボンズの制作は今後この呪縛を永遠に持ち続けることになると思います。動画の工程でこれを実現のはかなり厳しい。
なぜ厳しいのかを詳しく知りたい方は実際に動画作業に挑戦されることを推奨します。私はアニメーターではないので、詳しい説明は差し控えさせてもらいます。
ただ、一つ言えるのは制作が求めるクオリティーと単価・作業日数が釣り合わない。技術的な問題はぜひ本職の方に聞いてもらえればと思います。

長くなりましたが、9話は「動画」に悩まされて特にヌルッと完成しました。
この話数は谷田部さんと一緒に仕事ができて個人的にテンション上がってました。シンエヴァが公開されてすぐの時期だったので、色んな意味で楽しかったですね。
ムービーの仕上がりについてはやはり満足できるはずもなく、むしろ作監さん画作りに助けられてなんとか見えるものになっているぐらいの出来でした。何度も見ているせいかもしれませんがどうしてもコメントが辛口になってしまいます。

モブサイコ100Ⅲは原作,アニメ1期,2期を楽しんでいるファンに喜んでもらえるものを作ろうとスタッフ全員が頑張った作品です。
今回は制作目線だけの話なので、まるで制作だけが苦労して作ったと見えてしまいそうで怖いです。
クリエイターは限られた時間でより良いものを作るために昼夜問わず粘ってくれたと思います。

「モブサイコ100Ⅲ」を5年10年経っても楽しんでくれる人がいることを心から祈ってます。

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