露出系変質者と通じ合えた話

ここ最近、10代の頃のキラキラとした思い出を思い出す機会が多い。
我ながら、頭のおかしい(悪い)10代を過ごしてきたと思う。


今日はそんな若かりし日々の中から、
人に思い出話をする際には定番のエピソードとなっている
「露出系変質者と通じ合えた話」を紹介したい。


遡る事 約10年前。
中学を卒業後、そのままフリーターとなっていた私は
当時居酒屋でアルバイトをしていた。

週5〜6日、毎日仕込み作業〜ピークの時間が過ぎる頃まで働くと、
地元に戻って仲間と合流し、
カラオケや漫画喫茶で朝まで過ごしていた。


当時仲が良かったのは、
中学時代からの親友・Yと
ジャニオタ仲間だったS、
そしてSの元カレ・Dである。

よくその4人で集まっていた。


その日もバイト終わり、いつものように皆と合流しようと、
集合場所となっていた私の家のマンションの前で、1人皆が来るのを待っていた。


私の地元は田舎なので外灯が少なく、夜になるとパッタリ人通りも少なくなってしまう。

駅前まで行けばまだ多少の外灯やお店のネオンで明るいものの、
そこから少しでも離れたら人の声も、明かりも、一気に無くなってしまうのだ。


そんな人通りの少ない路地で1人携帯を片手に待ちぼうけていると、
ゆっくりとこちらに近づいてくる人影が見えた。

まぁいくら田舎で人通りが少ないと言えど、
道路は人間が通る道なので自分以外の誰かがそこにいようと驚かない。

一瞬チラッとそちらに目線を移したものの、
再び手に持っているガラケーの画面に集中した。


ある程度して、先程の人影が徐々に私に近づいてくるのを感じた。
私はもう一度、そちらに視線を移した。


先程までは暗がりの中、距離も遠くてハッキリと見えなかったが、

その人物はどうやら おじいさんのようだった。

推定50〜60歳代くらいだろうか。
…絵本や映画でしか見た事がないが、
失礼ながら 妖怪「小豆洗い」に似ている。
サイドを伸ばしたボサボサの頭に
浮ばって見えるギョロっとした目が印象的だった。


しかしこの小豆洗い、何やら様子がおかしい。
ず〜っとこちらを見つめているのだ。
口元は若干ニヤついている。

小豆洗いのような爺さんが、
こちらを見つめニヤニヤしながら
かなり歩幅の狭い足でヨボヨボと歩き、
暗がりの中、背中を丸めて前進している。
いや前見ろよ。危ねぇだろ。


ここまで冷静に分析しているようだが、
私がこれらを把握したのは一瞬の出来事である。

若い頃の話なので少々言葉使いが汚いのは容赦してほしいが、
この全てを瞬時に把握した私の心は
「うわキモッ!」という言葉が反響していた。

“なんかよく分からねぇけどコイツはキモい奴だ”
そう察したのだ。
重複するが、若い頃の話だから許してほしい。


しかしこの小豆洗いのキモいところはそれだけではない。
キモいということを瞬時に察した私が次に気になったのは、ソイツの手元だった。

自分の下半身あたりに手を置き、小刻みに動かしている。
暗がりの中 目を細め、よーく見てみると、
ソイツは自分の象徴をファスナーの中から外界へ解放し、自らの手で慰めていたのだ。


「キモっッッゥゥッッゥ!!!!!!!!」


今まで学校から配られるプリントや地域のホットラインで
「変質者に注意しましょう」という目撃情報は何度も目にしてきたものの、
実際に自分が遭遇したのは初めてだった。


えらいこっちゃ、エライコッチャ、ヨイヨイヨイヨイ……と頭の中でえらいこっちゃ音頭が流れつつ、
気づいた頃にはその変質者と私の距離は、
道を挟んで わずか数メートルまで迫っていた。

あのヨボヨボ歩きから
急に大股歩きを3回されてしまうだけで、
すぐ私の元までたどり着いてしまう。


身の危険を感じた私は
とにかくパニックになりそうになる自分をなんとか落ち着かせながら、
とりあえず今から合流予定の友の中から
唯一の男子であるDに電話をかけた。


電話口の向こうのDは

D『あ、夏〜?もうちょっとで着くで外で待っといて〜』

なんて呑気な様子である。


しかしそれどころではない私はその言葉を遮るように

夏「やばいんだけど!!!!!!目の前でち○こシ○○てるオッサンがいるんだけど!!!!キモいんだけど!!!!!!!」

とDに助けを求めた。
何度も言うがこれは若かりし頃の話なので、
多少のアレには目を瞑ってもらいたい。


嫁入り前の10代女子からのSOSである。
いくら交際関係ではないにせよ、
Dは男気を見せてすぐに助けに来てくれるかと思った。


しかし…

D『wwwwwマジでwwwwwwwおもれぇじゃんwwwwwwwww俺も見たいから俺着くまで繋いどいてwwwwwwwwwwww』


事もあろうかDは心配するどころか
この奇妙な変質者に興味を示し、
今まさに身の危険が迫っている私に
「逃げろ」どころか「場を繋げ」と言ってきたのだ。


なんだこいつ。
小豆洗いも小豆洗いだが、DもDである。

ちなみに余談ですが、
Dは普段からこんな調子なので
友達としてはすげぇ楽しくて愉快な奴ではあったが、その反面 周りからの信用も薄かった。

その後いつの間にか地元から消えたが、誰もその後の消息を知る者はいないらしい…。
噂では怖い先輩に拉致られた、はたまた東京に行ってホストになった、等と聞いたが、
彼は今どこかで元気に暮らしているのだろうか…。


とにかくDが何の助けにもならない事が分かった私は
すぐにその場を離れた。


数分後Dがマンション前にやってくると

『あれwwwwオッサンはwwwwww』

なんて聞いてきたが、
あの後オッサンはそのまま暗闇の中へと消え、姿を消してしまった…。



恐怖の一夜から数年後、
私は名古屋市内のキャバクラで働いていた。


その日はたまたま店の営業後、
女の子達とそのまま市内で遊んでおり、
地元に帰る頃には明け方になっていた。

まだまだ遊び足りなかった私は、
前述にもある親友のYを呼び出し、
朝っぱらから2人で地元の公園に行き、ブランコや滑り台をして楽しんでいた。

時刻にして確か6〜7時頃だったと思う。


その時間帯では通勤する人たちの姿もまだ少なく、人通りもまばらだった。

公園のメインユーザーである子供達もまだ夢の中。
この広い公園が私達2人だけの貸切という状況に、胸の中は開放感でいっぱいだった。


そんな朝の清々しい空気と、開放感に満ちた気分を割り裂くように、
公園内にもう1人、他の誰かの人影が見えた。

距離は離れていたものの、
その相手がお年を召した男性である事が分かった私達は、

“んだよ、他の人きちゃったよーーまぁあの世代の人は朝早いもんなぁ。朝のお散歩かなぁ”

なんて考え、突然の来訪者の事は気にも留めなかった。

しばらくはそのまま何も起こらず各々に過ごしていたと思う。


しばらくして、私達はそろそろ眠いし帰ろうか。ということになった。


その公園は中央が小さな丘のように盛り上がっていて、
丘の向こうの様子は上に登らないと分からない。


私達は眠たい足を引きずりながら丘を登り
家路に着こうとした。


その時だった。


頂上に登り、辺りを見下ろすと、

丘を下った先にある公衆トイレの前に先程の男性の姿があった。

私はそちらに目を向けた途端、息が詰まり、凍りついた。


「……あずき…洗い…」


目の前には、数年前に遭遇したスケベ妖怪・小豆洗いがいたのだ。

そして小豆洗いはすでに太陽が天に昇った時刻であるにも関わらず、
あの時と同じように
再び自らを解放し、光合成させながら、デンプンを作ろうとしていた。

あの時と同じようにニヤニヤと口元を緩ませながら
浮ばった目でこちらを見つめている。


丘の上から一歩も降りることが出来なくなってしまった私達は、
しばらく小豆洗いと睨み合い、無言の攻防を続けた。


後にこの出来事を誰か他の人に語る際、
直接的な表現を避けるため、度々

「小豆洗いみたいなオッサンが目の前でチ○○ン シュッシュしててん!」

と言うようになった。

それ以来、コイツのあだ名はチ○○ンシュッシュ、
略して『チンシュ』となった。


そんな薄気味の悪い災難に見舞われつつ、
基本的には平和な日常の中 地元で育った私は、
ついに地元を出て、晴れて名古屋市内で1人暮らしをする事になる。

仕事も市内での職に就いており(私がプロレス入りするキッカケとなったバー。こちらの話もいつか気が向いたら。※向くかな)

先程の親友Yも地元を離れ名古屋に出てきていたことで、
地元に帰る用事もなくなり、
徐々に生活の中でチンシュの事を思い出す機会は少なくなっていった…。



そんな中…


ある日私は役所手続きの関係で久しぶりに地元に帰ってきていた。
時刻はまだお昼過ぎ。
穏やかな春の陽気に包まれたアフターヌーンである。


諸々用事も済ませ、久しぶりに実家に寄ろうと歩いていた。

そう、この道は初めてチンシュと遭遇した、あの道である。

マンションのエントランスまであと少し…
そんな時、向かい側から誰かが歩いてきた。

ふとそちらに目をやると、
私の中に、雷に打たれるような衝撃が走った。 


そこにはチンシュがいたのだ。


あのチンシュが、まだ生きていて、
この岩倉の街をウロウロしている!!!

チンシュ!生きとったんか、ワレェ!!!
なんて心の中でツッコミを入れつつ、

私だっていつまでもウブな生娘ではない。
チンシュの行動パターンは読めている。

チンシュといえば……いつだってアレなのである。


私は歩行スピードを落とし、なるべく慎重に、
今にも近づいてくるチンシュを警戒した。


いつものように道を一本隔ててはいるが、
万が一 チンシュとの直接対決になった場合、決して一筋縄ではいかないだろう。


ジーっとチンシュを見つめながら構えを取る私。
チンシュは相変わらず歩幅の狭いヨボヨボとした歩みで私を見つめてきたが、
その日はいつもと違ったのだ。


ズボンの中に手は入れていたものの、
アカンモノを出してはいなかった。


そして、
まもなくすれ違うその時、



チンシュは

少し照れ臭そうにしながら

私に《会釈》したのだ。



(あっ…ドモ)

決して口にはしなかったが、
そうとでも言いたげなハニかんだ笑顔でチンシュはペコリと頭を下げ、
そのまま何事もなく私の横を通り過ぎていった。


“今の…………えっ!?!?!?!?!?”


私は混乱した。

チンシュが、あのチンシュが、
優しい笑みを浮かべながら、物凄く自然な所作で私に会釈したのだ。

まるで知り合いかのように。


チンシュなんて不名誉なあだ名を(勝手に)つけられるような、
あの忌々しい過去2回の遭遇からは想像つかないくらい、

あの時のチンシュは穏やかでホッコリとした表情だった。


“なんだ今のーーーー…”

私はしばらく呆然としながら、
その場に留まった。


過去2回チ○○を見た男の
人間として成長した姿を、垣間見た気がした。



振り返ると、そこにチンシュの丸まった背中は、もうどこにもなかった。

五条川には、綺麗な桜が咲いていた。


〜 fin 〜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?