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海の香り

あの人はよく、私から海の香りがすると言いました。
潮の匂いなんて臭いに決まっている、と思い、私は自分の体臭を気にしています。

中学1年生の時に私のことを好きでいてくれた女の子がいました。
私は、他人に友達以上の感情を強く強く抱かれると、反射的に突き放してしまいます。
ですから、彼女の好意を拒絶しました。
ある日を境に彼女は私のことを酷く嫌うようになりました。
態度でも言葉でもそれを表してきました。
中学1年生ながら、彼女は好きの裏返しで嫌いを表しているんだなあ、と思っていました。
彼女のことを可愛らしくも思いました。
ある日、廊下から彼女の大きな声が聞こえてきました。
「ここ、ぱるむさん通ったでしょ!ぱるむさんの匂いがする!くさい!」
私の海の香りを嗅ぎ分けることができる人は、どのような条件でそうなるのでしょうか。
私の匂い、海の香り、と稀に言われることがあります。
その度に彼女は今元気にしているだろうか、と思い出してしまうのです。

「ぱるむさんから海の香りがします。」
そう言われたので、
「私の名前に海という漢字が入っているからじゃないかな。」
と答えました。
すると何故か、
「よかった。安心した。」
とだけ言って、彼は気絶するかのように深い眠りにつきました。

また中学1年生のときに仲が良かった彼女のことを思い出しました。
自己肯定感が低いが故に、相手の好意が自分への期待のように感じてしまって、どうも素直に受け取れません。
名前に海がついているくせに、いつまでも狭い狭い、険しくて面倒くさい入江のような海なのです。
もはや海すらも怪しいほどの水たまりなのです。

私はそんなに海の香りが好きではありません。
海の家はいっつも潮臭い。
海のお手洗いはとても汚い。
海水はベトベトするし、日光は痛い。
砂浜でさえも、見ているだけで十分。
まるでこのビーチに入ってくるなと言わんばかりの灼熱な海。
私と似ているところが無きにしも非ずだなあ、と思いながら、今年は津市、湘南、木更津、福岡の海を見に行きました。


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