見出し画像

新しい時代のトラブルメーカーになってみませんか

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第7回 井登友一さん, 2020年6月29日 by コク カイ

本日は株式会社インフォバーン取締役、京都支社長、井登友一さんの講義を拝聴した。彼はデザインリサーチを起点として、現在デザインが貢献する領域拡張の探索とデザイン実務、教育、研究を取り組み続けてきた。

20年以上に現場にいた井登さんが気づいたのは顧客からの依頼の変化だ。今まで潜在的なニーズ理解のためのデザインリサーチ、ユーザー中心発想で行った改良やWebサイトやアプリなどのUI/UXデザインが、未来の姿をデザインする依頼や企業内起業家教育とサービスデザイン支援、革新的な人事制度と評価指標のデザインの依頼などに変わりつつある。

このようなイノベーション性や未来性を重視したデザインの変化が、ユーザーや社会に新たな価値をもたらす一方、デザイナーにとっては益々手かがりが見つかりにくくなっている。従来のマーケティング思考やリサーチ手法がうまく機能しなくなった時代、まだ何もないところにいるデザイナーたちがリサーチすることすらできない時代、かつてない変革に直面する我々は何をもって取り組むべきだろうか?我々はどうやってゼロから手がかりを作って行けばいいだろうか?

これらの問題を答えることは決して容易なことではない。ただし、ここ数十年の顧客から依頼されたテーマの変化から見える唯一の共通点がある、それは「今あるものを進化させる」というところから「まだないものを考える・作る」という方向に、クライエントが求めるようになったようだ。つまり従来の連続的な価値を作るデザインからまさに「攪乱的」な価値を生み出し未来を作るデザインが求められるようになっている。そしてこのようなデザインは例え今すぐ役に立ったなくても、そのような試みが一定な数や質を越えれば、社会そして人々が必ずついてくる、と井登さんが信じている。

ではそもそもなぜこのような変化が起きただろうか?それは恐らく大体のものやサービスが「さほどひどくなくなったからだ」と井登さんが考えた。今までもののクオリティー、コストパフォーマンスを追求しつづけてきた消費者は、高度な工業化による製品の品質や価格がとても求めやすい時代にいる。そこで人々はどうしてもものやサービスの少しだけの違うところに注目し、金を払いがちになる。更にものから経験へ言い換えると、今の人々は自分にとって特別な意味を与えてくれるものしか選ばなくなっていると言えるのだろう。

下の図に示している通り、工業化が飛躍的に進んだ19世紀から、マーケットの変化がコモディティ(コストによる差別化)→製品(機能による差別化)→サービス(感情による差別化)→経験(意味による差別化)に辿り着いた。これは消費者の欲求の変化と言っても妥当でだろう。そして現在に至ると、実は一番上の経験の次にもう一つ「変身(トランスフォーム)」がかかってくると。このトランスフォームと言うのは、いわゆるユーザー、ものやサービスを使用する側が互いの総合作用による、自分自身が変容して、自分をより上級な存在に変えてることになると言うことだ。

屏幕快照 2020-06-29 下午6.37.52

ただデザイナーとして、そのような変容を直接に捉えることが実は難しく、それを影響する間接的な要素として、多くのデザイナーはワンランク下の経験のデザインに今注目している。顧客にとって良質な経験をデザインすると言うことはどういうことかと言うと、井登さんは「ユーザーが本当にそうしたかったけれども。そうしたいと言えなかったこと、無意識のうちに諦めていたこと、エクスペリエンスを目の前に差し出してあげること」であると指摘した。そしてよいUX(顧客経験)は単なる快適で、心地よく、簡単で便利にユーザーのしたかったことができるようにデザインがしてあげるだけではなく、たまに不便なサービスから結果的に良い体験を得るデザインの実例も少なくあることから、いい経験を作るデザインというのはある種苦労して得る楽しさみたいな仕掛けも必要かもしれないと井登さんは気づいた。

やはり現代のデザイナーとしては常に時代の動きを敏感に感じ取って、独自な視点からユーザー中心に本質に関わる問いをし続けることこそ、真のイノベーションデザインに辿り着く唯一の方法かもしれない、井登さんの講義から私は今一度それを深く感じた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?