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いいデザインは時代を作る

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第4回 川上元美先生, 2020年6月8日 by コク カイ

本日はデザイン界の巨匠ーー川上元美先生の講義を拝聴した。川上先生はとても元気で朗らかで、少年のような方でした。全く80歳に見えなかった。

1977年に発売で40年も売れ続けたロングセラーイス「NT(NUT)」から人々に馴染みのある「鶴見つばさ橋(1994)」まで、1998年にグッドデザイン賞金賞に受賞した「NECプラズマテレビPX-42」から2010年にグッドデザイン賞ロングライフデザイン賞を受賞した会議テーブル「インターレイス」まで、長く行き渡ったデザイン歴の中に数々の名作を残したデザイナー川上元美先生は多作のデザイナーとも言える。

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彼の作品から感じれるのは、ただ巧妙な工学的思考や美学的センスだけではない。彼の作品が素晴らしく思える理由の一つとしてはそこに時代が流れているからだ。1970年代は、川上さんがミラノから帰国して、川上デザインルームを立ち上げた初期の頃でした。その時彼は偶々ミラノ時代の知人ーーアルフレックスジャパンの創設者である保科正さんから依頼を受け、アルフレックスが日本市場進出の最初のプロジェクトを手掛けた。

「まずは丈夫な積層成形合板を使ってフレームを構築する、次に力学を考えてイスを支えるポイントをチェックする、最後は動物の皮でできた革テープをフレームに編み込んで座面を完成」という極めてシンプルな考案から川上さんは出発した。しかしその時代にコンピュターによる製図や製品コントロールがまだ普及されてないため、製品の精密な削り出しはほぼ不可能に近い。そんな中で川上さんは手書きで1/1の設計図を起こして、自分の発想を現実化する試みをした。1ミリ間違えても製品の製造に誤差がでるという厳しい環境の中で、川上さんは自分が使う素材に対する熟知を最大限に生かして、製品最初の設計図面を慎重に完成した。

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そこで生まれたのは「NT(NUT)」でした。現在でも家具メーカー「アルフレックス」に主要商品のひとつとして扱われていて、1977年発売から40年という長い間に人々に愛され続けてきた。ちなみに「アルフレックス」において主力商品としてラインナップされ売れ続けているのは、1971年に発売されたソファの「マレンコ」とNTだけだ。

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時は1981年に進み、この時期の川上さんは株式会社ブシから依頼を受け、漆の家具をデザイン始めた。古くから伝われてきた漆の伝統工芸は、繁盛がすぎていた現在、ほんの限りのあるところしか使われていない。それと同時に、文脈からかけ離れた現代こそ、漆を扱うデザイナーたちの美意識と素材へ感知力が問われる。川上さんは塗り技法のなかでもっとも静寂の美しさが感じられる髭漆による呂色と乾漆を生かして、簡潔な直線と幾何学的図形による面の造形を取り入れながら、数点のキャビネットを完成した。

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国の歴史はその国にいる無数の人の過去による構築されたものだ、そこから見れば、川上先生が歩んできたデザインの歴史も日本のデザインの歴史そのものと言えるだろう。そして歴史の行方も人による決めるものだ。漆の技法が誕生した頃の人々は決して、現代のデザイン理念と漆工芸の融合による異様な美しさが想像できなかっただろう。私から見ればそれは単純な融合ではなく、そこには一種時空を超えた対話が潜めている。時代の変動と社会の発展はデザイナーに常に新しいことを求め続けている、受動的に受け取るよりはその行方を先読みして自分から動き出した方が賢いやり方だ。川上さんのデザインとそれら対話にはもしかすると現代デザインの行方を暗示しているかもしれない。

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