自キャラの前日譚書き散らしSS『陽はまだ昇らず』
登場キャラ: 【“魔獣”の友を探す魔術師】“魔法石”を手に バレンティア・スペランツァ
こういうの書いたことないので色々許してください。
夢
「……それでね、ぼく大きくなったら父さんみたいな戦士になるんだ!こわーい魔物を倒す、立派な戦士に!」
「きみとはもう友達だもんね!この不思議な石は友達の証!ずーっとずっと、大事にするからね!」
少年の声がこだまする。隣には大柄の『生き物』が、少年に寄り添い穏やかに話を聞いている。
そうだ、これは。もっと、もっと『生き物』を、いや『アイツ』をよく見ないと……。
見ようとすればするほど、視界はどんどん遠ざかる。少年も、『アイツ』も。何もかもが黒く蝕まれていく。
やめてくれ、いかないでくれ……!
手を伸ばした瞬間、転げ落ちた感覚がした。気がつくと天と地が逆さになっている。
……ここは宿、そして俺は……夢にうなされて、ベッドから転げ落ちた。それだけのことである。
窓に目をやると薄く光がさしている。月光だろうか、朝焼けだろうか。……どっちでもいいか。俺は手早く荷物をまとめると、光に導かれるまま外を出た。
「5時くらいかな」空模様を見て、誰に言うわけでもなく独りごつ。
ただ夢から逃げたかった。それだけの理由だ。
出会い
彼と別れてから、俺は毎日のようにあの夢をみてきた。……彼は『親友』だ。少し、昔話をするか。
俺は幼い頃、コーズヴィルグ王国近隣の小さな村に暮らしていた。といっても、俺が産まれた頃のコーズヴィルグ王国は、すでに隣国との敵対関係を強めていた。俺自身、王国には全く詳しくない。
だが、コーズヴィルグ王国領内の森には、よく立ち入って遊んでいた。……魔獣の多い森だと聞かされていたが、幼い俺の好奇心は危険だけでは止められなかったのだ。
因果応報ともいうべきだろうか。何度か立ちよるうちに、運悪く凶暴な魔獣に見つかってしまった。
幼い俺には魔術の才能もなく、戦いの心得も素人レベル。当然太刀打ちなどできない。目の前には死の色が広がった。
「いやだ。こんなところで死にたくなんかない。」
容赦なく振り下ろされる、魔獣の剛腕。この腕が俺の首を掠め取る前に、大きな影があらわれた。……『生き物』である。
『生き物』はその巨躯に似合わない俊敏な動きで魔獣をいなすと、咆哮を上げ魔獣を退散させてしまった。
『生き物』はあっけにとられている俺を見るとゆっくり近づいていき、俺に寄り添うように座った。『生き物』の体からころりと、不思議な石が落ちる。
『生き物』はその石を俺の手元に押し付けてきて、俺の擦りむいたひざをやさしく舐めた。ひりりとした痛みと石の冷たさで、ふと我に帰る。
「どうして、どうして助けてくれたんだ?」
不思議と恐怖はなかった。ただ、『生き物』の思いを知りたい。そう思っただけだった。
『生き物』は一鳴きもせず、俺の横に座りじっと俺を見つめた。
親友
その日から、俺は懲りもせずまたあの森へ向かった。漠然とした好奇心ではなく、あの『生き物』に会いに行く、という目的を胸に。もちろん、あのとき押し付けられた石も、欠かさず持って行った。
『生き物』とは一切言葉を交わせなかったが、何度も話して、何度も一緒にいてわかることがあった。
『彼』はこの森にずっと住んでいること。『彼』はそうとう戦い慣れしていること。『彼』はたいそうイアンの実が好きなこと。彼もひとりぼっちなこと。
それから、『彼』の立派な爪はそんなに切れ味が強くないこと。絵本で読んだ『グリフォン』に似てるけど、ちょっとかわいいところがあること。体についてる石には、不思議なチカラが宿っていること。
……俺の憶測にすぎないこともあったが、ただ寄り添っているだけで伝わってきた。この森に満ちる魔素の影響かもしれない。
「じゃークイズ!ぼくは今、何を考えてるでしょーか?」
こんな質問をすると『彼』は、近くに実っていた太陽のように真っ赤なイアンの実を取り、俺に差し出してきた。
「おっ、せいかーい!お腹へったー!でした!じゃあ、一緒に食べようよ!」
俺たちは……いや、俺は『彼』の待つところへ行き、ただ彼に話をしたりクイズを出したりしていただけだった。
他愛もない話もした。俺の昼ごはんを分けに行ったりもきた。ときおり、『彼』は笑うような声を出したり、ハミングのような声を出した。俺は『彼』と心で繋がれていた気がした。
あの日が来るまでは。
戦火
3XX年、俺の恐れていたことが起こった。コーズヴィルグ王国と隣国との大規模な戦争が始まったのだ。
結果から言うと、俺の家族を含めた村の人々は意外にもあっさりと逃亡に成功した。コーズヴィルグ王国の近況に詳しい者がいて、情報提供に事欠かなかったかららしい。
しかし、俺は何もかもがわからなくなっていた。コーズヴィルグ領の森はどうなるのだろうか。戦争は恐ろしいのか。俺は死ぬんだろうか。森にいた『彼』も死ぬんだろうか。
あの石を握ると、やけに冷たく、おぞましく感じる。俺はされるがまま、逃げるしかなかった。
「お前はあの時自分勝手に守られて、自分勝手に友情を感じていただけなのに。いざというときには見捨てるんだな。」
「おまえは独りよがりな人間だ。だから人間の友達がいない。だから██物としか話せない。」
誰もいないところから、足元の影から、声が聞こえた気がした。
魔法石
あれから数年。俺は親元を離れ『アイツ』のくれた石の研究に尽力した。辺境の魔術の研究チームに入団し、イチから魔術を学んだ。
長い年月をかけた分析の結果、これは四元素の力を媒介し決められた術式を詠唱することで、強力な魔法を放てる『魔法石』であることがわかった。
しかも四元素をつかさどり、高濃度で放てる媒介体は自然物として非常にレアケースだ。……個人的にもさまざまな生物や魔獣を研究したが、この魔法石以上の媒体となるものはなかった。
「よくもこんな良い素材を見つけたもんだな。何万、いや何百万くらいしたんだ?」
「……いいや、もらったんだ。友達から。」
「友達ィ!?いや〜〜……バレンティア!そいつのことは一生大事にしたほうがいいぞ!女なら……いや、男でも嫁にもらったほうが良い!大事にしろよ!!」
「……わかってる。」
同僚の軽口は、むしろ心地よかった。……誰かがその存在をいうだけで、『アイツ』がいた証は残るのだから。
討滅依頼
……俺のつまらない過去の話は、このくらいにしておこう。話を現在に戻す。
俺は今、一つの依頼書を手にしている。
確信。魔法石が俺の手を焦がした気がした。
あのとき。アイツは魔獣ではなかった。魔獣から元の生物に戻す術は、俺たち総力を挙げても見つからなかった。
情報屋から聞いたところでも、王立の魔術のような大規模な機関すらその術の開発には成功していないという。
だが……俺には策がある。この魔法石だ。この魔法石の持つ力を使えば。あの術式と組み合わせれば。
なにより……俺だったら。きっと。
「いるはずなんだ。あのとき、俺を助けてくれたアイツが。待ってろ……今度は俺が助ける番だ。」
俺は空に向かって独りごつ。かつて自分が立ち入っていた……穏やかな森の焼け跡、旧コーズヴィルグ王国へと歩き始める。
月の沈んだ朝空には、誰かのハミングが響き渡る。空は曇り淀み、太陽は昇っていなかった。
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