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目が覚めて意識が覚醒するまでの数瞬間が好きだ

とても寝覚めが良い日は、目が覚めてからほんの僅かな間小さい頃住んでいた家のベッドにいるような錯覚に陥ることがある。
あの頃は幸せだった。
平日はランドセルを背負って母に見送られて家を出ていた。
1人で早朝の通学路を歩くのも好きだし途中で友達を見つけたら声をかけて一緒に登校するのも楽しかった。
休日は目が覚めてすぐに今日は何をして遊ぼうかワクワクしていた。
友達と約束があれば友達の家に行って一緒にゲームしたり、公園で遊んだり。
何も予定がない日は朝から日が沈むまで大好きなゲームに没頭していた。
僕が住んでいたのはとても狭い世界だったけどいつも大人が守ってくれていたし、何の責任も負わなくてよかった。
余計なことは何一つ考えなくてよかった。
ただ自分が楽しいと思ったことに全力で打ち込んでいた。
朧げに残るそんな記憶を、あの頃寝ていたベッドの暖かさと共に思い出すのだ。

しかし意識が覚醒してくるとその幸福に満ちた幻はたちまち消え失せて、狭いワンルームマンションのシングルベッドに横たわる自分を見つけてしまう。
現実の重さ、社会の厳しさ、将来への不安。
今はもう誰も守ってくれない、助けてくれない。
楽しいことは少しはあるけど、楽しくないことの方がそれよりもずっと多い。
今日もやるべきことが沢山ある。
やりたくはないのだけれど、そうしないと生きていけないから。

そして僕はいつものようにベッドから体を起こす。

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