意味なんてない。

みんなで連続小説 Advent Calendar 2014 の何日目かです。

不在着信は二件とも亜矢からだった。
胸が高鳴る。
昨日の頼りなげな姿を思い出すと、切なさすら感じた。

だが、だからこそ慌ただしく電話したくはなかった。
向こうで竹内と浅田さん(というのがそのクライアントのオーナーの名前だ)が学生同士のようにはしゃぎながらスマホ片手に店を選んでいる。
手早く会社に電話を入れると、「え、寿司ごちそうしてくれるんですか!?さすが社長!」急いで会話に割って入った。
「森岡さんまで!」と言いつつ、浅田さんは店に電話をかけている。

今日はそこそこで切り上げて、ゆっくり亜矢と話そう。

浅田さんは、電話をしながらピースサインを送ってきた。
どうやらお目当ての店の予約が取れたらしい。

久しぶりの旨い酒だった。
浅田さんが商品選びにかけるこだわりを熱く話せば、竹内がクライアントの思いを形にすることの難しさやおもしろさを語った。
いつになく真剣な面持ちで語り合う彼らと飲んでいるとこの仕事をやってきてよかったとつくづく思う。
こういう時、上手く言葉で自分を表現できない性分は口惜しかったが、竹内はそんな俺の気持ちを察したかのように、「森岡のおかげなんです。森岡の仕事を真近で見てきたからこそ、この仕事をオナニーで終わらせちゃいけない、お客さまの夢を形にするプロでなくてはいけない、って意識が叩き込まれたんです。」と、なお熱く語った。

店を出ると午前2時を回っていた。
そして酔いも気持ちよく回っていた。

彼らと別れ、タクシーに乗ると、電話が鳴った。
誰からか確かめずに電話に出ると「エリ?」と咄嗟に声が出た。電話は何も言わずに切れた。
「エリ?」…か。
なんだろう、条件反射のようなものだ。
意味なんてない。
この間、バーでエリに会ったことは、自分が思う以上に自分の心を乱しているようだ。
だがそれがどうした。意味なんてない。
彼女もまた俺を去った女だ。

「お客さん、着きましたよ」運転手が振り返って少し迷惑そうな顔をしていた。

次、目覚めたら…朝だった。
頭はガンガンするし、時計を見ると始業時間はとっくに過ぎていた。
慌てて会社に電話をすると、竹内が「先輩、やっちゃいましたね!」とうれしそうに言って、小声で「体調不良で午前半休ですかね。」と続けた。
「ああ、よろしく。」自棄になって、電話を切ると、また布団をかぶった。

次回は誰でしょうかー。よろしく!

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