完璧な夢

完璧な夢を見た。

私は自分の小さな店の開店準備をしている。まだ、什器も商品も入っていないその場所で、好きなCDをエンドレスで流している。ピアノを弾きながら軽妙に歌を歌う男のCDだ。その歌詞はジョークとリアルが絶妙に混ざり合い、心を浮遊させる。私はリズムに合わせガランとした店の中で飛び跳ねる。飛んで宙に浮いてる時間がいつもより長い。
無事開店した店に、男は現れる。そして男は私を見て恋に落ちる。私もすぐに恋に落ちる。店で抱き合って飛び跳ねて宙に浮く。けれど私は気まぐれだ。会いたい時も会いたくない時もある。彼は時々浮気する。他の女と会った時には私は必ず気づく。けれどまたやがて抱き合って宙に浮く。
私は自分の小さな店を営みながら、彼の子どもを宿し、彼と子どもと小さな猫と家族になる。

目覚めた時の気持ちは「がっかりした」なんてものではない。呆然と現実の外から現実を眺める。やがてゆっくりと現実に絶望する。

私は、現実に希望を持っている種類の現実主義者だと思う。けれどそんなものは完璧な夢の前には何の力も持たない。

冷蔵庫を開け、壁にもたれたままオレンジジュースを一口飲む。

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