村じまいを考えるとき
日本の人口が減っている。
減少速度は加速しており、令和3年は約63万人、令和4年は約80万人の減少。80万人はだいたい佐賀県がまるまる消えるくらいの規模である。
国においては少子化対策をやらねば、と何十年も言い続けているけれど今だ成果は現れていない(あるいは現れていてやっと現状なのかもしれない)し、今以上に力を入れたとしてもすぐに結果は出ない。今後も、少なくとも当面の間は人口減少が続くことが確定している。
人口減少は特に地方で顕著なので、というより関東圏以外ではどこも人口が減っているので、各地方自治体は移住促進事業を行っている。また、国が主導している「地域おこし協力隊」という制度があり、地方への移住を後押ししている。
移住促進事業には、引っ越しする際の費用や空き家を改修する費用を補助する制度などで、地域おこし協力隊とは、人を呼び、期限付きで給料を出しつつ地域を活性化する何かを行って貰う事業である。
これらの制度は、移住を考えている人にとっては良い制度であるし、移住の流動性が高まるのは良いことである。
ここで言う流動性が高まるとは、移住したいと思ったときすぐに移住できる、移住のしやすさであるが、これが高まると「この街は嫌だな」「この街は素敵だな」という気持ちが人口に反映されやすくなる。人口が減っているからこれは何か改善せねば、とすぐに気付けるのである。
そうした各種施策の一方で、地方の人口減少は止まらない。
移住政策が上手くいって都道府県の人口が均等になったとしても、全国で毎年80万人減っているのである。単純計算しても、ひとつの都道府県につき17,000人減っていく。実際はもっと偏りがあるので都道府県によっては17,000人どころではない。
こんなに減っている中「人口を増やす」という目的においては各種移住施策も地域おこし協力隊もさしたる効果はない。そもそも全体が減っているのだからいくら移住を促進しても人口は減る。東京のように他県を凌ぐほどの移住者がいれば良いが、地域おこし協力隊制度は全国的な制度であるし、国も(よくやるように)上手くいった方法を他の都道府県でも真似することを推奨するから他県を出し抜くほどの成果は出せない。ライバルと同じ方法を使うのだから。
地方の人口は減っていく。
そろそろ村じまいを考える時期が来ていると思う。
村じまいとは
村じまいとは、その地域に住んでいる人がまるごとその自治体の中で、より都市部に移住し、辺りいったい住むのを止めることである。ダムを造るため、住んでいる人が全員移住するのに似ている。
もちろん人口が増え、にぎやかになるのが最善である。しかし(少なくとも当分の間は)それは叶わない。人口は減る中で、次善策として、なるべく軟着陸するための村じまいである。
もちろん強制はできないからアメとムチを駆使して行政主体でやっていくことになる。
メリット
行政や企業のメリット:施策のコスパが上がる
例えば道路を綺麗にする際、1日5人しか通らない道路と、1日200人通る道路とでは効果が大きく異なる。当然多く通る道路を綺麗にした方が喜ぶ人が多い。同様のコスパの良さは、道路に限らず場所が関係あるものなら何でもそうである。水道や電線などの他のインフラもそうだし、スーパーやショッピングモールなどの小売店も同じである。ゴミ収集制度や避難所のように、中央にひとつあればよい、とはいかない施設・サービスでは特に効果が大きい。
村じまいをすることで、道路で言えば最低限の幹線道路のみを維持し、それ以外は手入れの頻度を下げることができる。
行政や企業のメリット:空き家対策
村じまいのために、住んでいた人が引っ越せば空き家が増える。
しかしそうした家は、村じまいをせずとも誰も住まないので遅かれ早かれ空き家になって行く。だから空き家が問題になっているのである。
村じまいをすることによるメリットのひとつは、空き家対策になること。
まずは空き家について。以下みっつの引用は、政府広報オンラインから。
空き家が増えており、今後も増加すると見込まれている。
空き家の理由は次のとおりと報告されている。
空き家となる理由も当然様々だが、村じまいをすることで、空き家対策は壊す選択肢しかなくなる。
将来親族が使うかも → 村じまいした地域なので住まないことが確定する
愛着があるので売却をためらう → 村じまいをした地域なので売却しても誰も買わない
他人が住むことに抵抗感 → 村じまいをしたので誰も住まない
村じまいをすることで、選択肢を狭め、踏ん切りを付かせるのである。
村じまいにより集団で移住し、集団で空き家を適切に壊す。ご近所の○○さんも壊すらしいよ、と集団で壊す動きを作ることで抵抗感を減らすのである。
もちろん、各種補助を出したとしても空き家のまま放置する人はいるだろうが、それは村じまい関係なく放置するだろう。
また、空き家がなぜ問題になるかというと、土地を汚したり不衛生だったり不審者が住んだり放火など事件事故の原因となったりするからである。特に懸念されているのは道路沿いの空き家が崩壊することで通行人に被害が出ることであるが、人が住んでいないのであれば通行人もおらず、被害は出ない。
村じまいをきっかけに、空き家をどうにかするのである。
例えば高齢者が都市部に移住し亡くなった場合、その時住んでいた家はどうなるか。
都市部であれば次に使いたい人が出やすいので空き家にはなりにくい。
バリアフリーで福祉施設やスーパーなどが近所にあるような、高齢者にとって住みやすい高齢者団地を作るのも一案だと思う。そうした団地であれば、次に住みたいと言う人がすぐに見つかるだろう(また、見つかりやすいような団地にしなくてはいけない)。
高齢者団地は、詐欺や空き巣に注意するため交番を置いたり、火事になりにくい、避難しやすい、災害に遭いにくいような設計にしなくてはならず、課題も多いけれどもメリットも大きいのではないかと思う。
住人のメリット:にぎやかになる
地域おこし協力隊は、地域を活性化するために生まれた制度である。活性化にも様々な形があるが、にぎやかにすると読み替えられる。
その前提には、人が少なくなって寂しくなったからにぎやかにしてほしい、との気持ちがある。理想は人が増えることであるがそれは難しいので次善の策として、というわけだ。
人が少ないところでにぎやかにするより、にぎやかな場所に引っ越す方がお手軽である。
また、高齢者が都市部に住むメリットは以前の記事で書いたとおりである。
https://note.com/nasumikoma/n/n5e2581ee58b9
住人のメリット:農村部が再編される
都会より田舎が好き、農村部に移住したいと言う人も当然いる。
そうした人たちにとっても村じまいは有効な可能性がある。村じまいがあちこちで進むと、農村部に住みたい人はまだ住める農村部に集中するからである。
例えば村に住みたい人が100人に1人いるとする。
村が100あったら「村に住みたい人」はひとつの村に1人となりその村は衰退していくが、村が10であれば、ひとつの村には10人住みたい人がいることになる。
農村部に住みたい人も、他に誰も住んでいないような廃村に住みたいわけではあるまい。ある程度村として成立している場所に住みたいはずである。村じまいをすることで、残った村が活性化するだろう。
デメリット
気持ちの上で引っ越したくない人がいる
恐らく多くの人は、長年慣れ親しんだ場所から引っ越すことに抵抗を覚えるだろう。もう高齢だから死ぬまでここにいたい、と。
高齢者こそ都市部に住む方が良いという意見は既に書いたが、それでも残りたいと考える心情は理解できる。
しかし他の人が移住したのに自分だけひとり残る、となると、その人にとっては以前より住みづらくなってしまう。
衰退の象徴だととらえる人が出てくる
村じまいするなんてよほど人口が減っているに違いない、あの自治体は衰退している、との後ろ向きな印象を持つ人が出てくる。
しかし、実際は後ろ向きではなく、逆である。
まず、人口という点において、衰退は事実である。それは日本全体の傾向である。これを認め対策を取るか、見なかったことにして衰退を見守るか、と考えたとき、前向きなのは前者である。
いったん撤収し、部隊を再編し、再度開拓前線に出ていくための戦略的撤退は、決して後ろ向きではない。
しかし後ろ向きな印象を持つ人出てくるのは避けようがない。
村じまいの正体
ここまでの文章を読んで、コンパクトシティのことか、と思った方には恐らく釈迦に説法であっただろう。
実は国も「コンパクトシティ」というキーワードを基に、ここで述べた村じまいに近いことを推進しているのである。
https://www.mlit.go.jp/en/toshi/city_plan/compactcity_network2.html
しかし、聞いたことある人は少ないだろうし、そうした施策が行われていると実感する人も少ないのではないか。
おそらくはふわっとした前向きな表現でお金を出しているだけで、地方自治体にはそのコンセプトがちゃんと伝わっていないのではないかと邪推するが本当のところはわからない。
コンパクトシティ構想と村じまいとの違いは、やんわりとした誘導ではなく、この村は今日で閉鎖! という態度の有無である。また、ダムを造るときの強制的な勢いと、村じまいというショッキングながらもわかりやすいキーワードである。
村じまいが実行されるか否かは英断できる人がいるかどうか、だろう。
遅かれ早かれ廃村になるのであれば、早いうちにぜひ。
名角こま
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