部屋探しは雨の日に
引っ越して住む部屋は、雨の日に探すのが良いというお話。
(なお、個人的には雨の日の良さもあると思っているので、以下は半ば例え話である)
雨の日は傘を差す必要があるし濡れるし、薄暗くて、部屋探しは大変なのではないか。
確かにそのとおり。
晴れの日であれば明るく快適で、部屋もより素敵に見えるのになぜ雨の日に見に行く方が良いのか。
それは、引っ越したあとの日々が、晴れの日ばかりではないからである。
春の風が吹くうららかに晴れた日の午後は、どんなにボロい部屋だって、それなりに素敵に見えるものである。ボロいし古いが家賃は安いしこの部屋も悪くないのではないか、と。
しかし雨の日にそう思えるとは限らない。
引っ越し後は不安になる場合が多い。
特に大学入学や就職活動に伴う引っ越しは、大学や会社勤めに慣れるので精一杯である。慣れるまでは帰りたい・以前の生活に戻りたいと思ってしまうことも多いだろう。
そんな大学や会社からの帰り道が雨だったらどうか。晴れの日には素敵に見えていた部屋も、雨の日は安心感を与えてくれず、不安をかきたてるばかりかもしれない。
そんな「素敵でない状態の部屋」を、予め知っておいた方がいい。
最低レベルを把握しておくのである。
雨の日の素敵でない状態を知った上で、それでもなおこの部屋に住みたいと思えるか。今は心配だが、慣れることはできそうだと思えるかどうか。
これくらいなら精神的に落ち込んでいる日も耐えられそうだと思えば住めるし、窓から見える景色があまりにも暗い光景で、部屋で過ごしたくはない、慣れることは出来ないと思えば止めた方がいいだろう。
もちろん、「最低レベルの状態」は他にもある。例えば夜、例えば真夏の日中、例えば台風の週末。
見に行けるならなるべく多くの状態を見に行くに越したことはない。
しかし引っ越し前の夜の内見は不動産屋さんを伴っては難しいし、そもそもそう何度も何度も部屋を見に行くのは大変である。雨の日を狙って見に行くのも難しいけれども、冬に夏の状態を見に行きたいと思うよりはまだしも見に行ける可能性がある。
もし一回行くなら雨の日がよい、という話である。
予想外に素敵な分には全く構わないが、予想外に不快な部分は困るのだから。
最低レベルの状態を知っておいた方がいいという考え方は他の場面にも応用が利く。
例えば人間関係。将来結婚を考えるに値する相手かどうか。
付き合いたてのラブラブな状態では、どんな相手だって素敵に見える(というより、素敵に見えるから付き合うのだろう)が、喧嘩したときはどうか。暴力を振るうようなら止めておいた方が良い。普段がどれだけ優しくても。
例えば会社の繁忙期。
確かに平均した残業時間は少ないが、一年で一番忙しい時期はほとんど休みを取れない月があるとしたら。そんな繁忙期を耐えられるか。
例えばペットを飼う前。
一番悪い状態は、ペットが亡くなるその日である。その悲しみに耐えられるか。
例えば新しい挑戦の前。
大失敗したときの悔しさやお金の損失に耐えられるか。
(本当は「最低レベルの状態」の発生のしやすさも考えるべきだが、ここでは省略する)
実際にそんな体験ができなくとも想像することはできる。
それでもなお、そうしたい、と思ったのなら。
その時は堂々と進めばよい。その後、実際に悪い状態に出会ったとしても、以前から想像していたことなら多少耐えやすいはずだから。
悪い想像をせずに進むは蛮勇、想像してなお前に進む気持ちが勇気である。
雨の日を利用して、後悔のない、部屋探しを。
名角こま
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