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ポッケからするめいか33

いぬどろぼう


しょうさん家は、今までたくさんの犬を飼ってきた。

猟銃が趣味のため、
猟犬としてイングリッシュセッターがおもで、
あとは柴犬、秋田犬。


今現在飼っている柴犬は14歳。

黒色の黒柴。

この犬になってはじめて室内で飼い始めた。



かつての犬は全て外で飼っていたが、
当たり前のように犬と室内で戯れる今、
そんな過去はもう考えられない。



今の黒柴の前の前の柴犬のはなしをしよう。


この犬のエピソードは今思い出しても悲しい。


ある年、
ミキさんの実家で柴犬の赤ちゃんが4匹産まれた。


しょうさんの子供たちは当時小学生で、犬を飼いたがっていた。


ならば一度見に行こう。


4匹の柴犬の赤ちゃんはみんな黄色い毛。

その中に一匹だけいたオス犬の赤ちゃんをしょうさん家に連れて帰ることにした。


そのオス犬は“リック”と名付けられた。

愛嬌たっぷりで、
人が手を伸ばすと尻尾を振りながらぴょんぴょん飛びついてくる元気のいい犬だった。


玄関先に犬小屋を置き、そこで飼うことにした。

子供たちが庭に出るたびに尻尾を振ってついてきていた。


オス犬だからか小さいながらも足腰ががっちりしていて、

いい番犬になりそうだ。

と、しょうさんも楽しみにしていた。




しかし1週間ほど経ったある日の早朝のこと。


新聞配達の方が配達に来る時間。

このとき、
もう一匹いる猟犬の吠える声で目が覚めていたしょうさん。

これはよくあることで、

人が来ると吠えるのはいつものこと。


配達員が新聞をポストに投函し、
再びバイクに乗って帰って行く。


しかしその日は、

一度遠のいたバイク音が、
ほんの数分後に再び戻ってくる音がした。


またしょうさん家の前で止まる。

猟犬がいつものように吠える。


長めに停車しているバイクのエンジン音。


なんかあったのか?

配達員が忘れ物でもとりにきたのか?


布団の中で目を閉じながら耳だけ外に注意する。


少し経つと、
再びバイクにまたがり走って帰って行く音がしたので、
しょうさんは再び眠りについた。



数時間後、
家族が起きると大変な事態に気づく。


リックがいない。


庭、家の周辺、
全て探して歩いた。

特に家の前には水路があるので、
誤って落ちてはいないかと入念に見回る。


しかしどこにもいない。


そうだ、今朝のバイクの音。

いつもと様子が違っていた。


一度配達した配達員が、
再び戻ってきて、


リックを連れてったに違いない!


そう思ったしょうさんは、

新聞配達に電話し、
事情を話す。


おたくの配達員が、

うちの犬を盗んだ!

そう声を荒げて怒鳴るしょうさん。


いつも外面が良く決して怒りをあらわにしないしょうさんが、
電話越しに怒鳴りつけている。


そのときの姿を見てミキさんは、
しょうさんがリックをとてつもなくかわいがっていたこと知る。


新聞配達の方がその日の夕方に来て、

うちの社員が犬を盗むなんて絶対にありえない、

どうしても文句があるなら出るとこ出てやる。


剣幕な態度で言ってきた。


しょうさんは、
モヤモヤが残ったが、
そこまで言い張るならばと、
あきらめた。



リックは誰が連れて行ったのかだれにもわからない。

2回目のバイク音が誰だったかもわからない。




それから数週間ののち、

落ち込む子供たちを見かねて、
もう一度ミキさんの実家から子犬をもらった。


今度はメス犬。

名前は“ピック”


この犬もまた愛嬌がある犬だったが、

メスのせいかどこか落ち着きのある姉さんのような犬だった。



ピックは、その後16年生きた。


しょうさん家の犬歴代1位の長寿犬だった。



リックはその後、
幸せに暮らしただろうか

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