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ポッケからするめいか25

しょうさんには息子さんがいる。


とても頭が良い息子である。


小さい頃はそれなりにヤンチャだったが、
一貫してずっと頭が良かった。

しょうさんもミキさんも子供たちに一度も、

勉強しなさい!

と、言ったことがなかったが、
皆それなりにできた方である。

中でも息子だけは群を抜いていて、
中学の頃は常に学年トップの位置にいた。


日頃から熱心に勉強するようなガリ勉タイプではなく、
部活にも励む文武両道な子で、
とても寡黙で、
決して自分の知識をひけらかしたり、
周りを見下したりしない子であった。


だからこそ、
いまだに息子さんは家族から一目置かれ、
尊敬されている。


高校は県内トップの県立高校へ、

その後一浪して、
県外の有名国立大学へと進学する。


一浪と言っても、
初年度に、私立系大学2つは受かっていた。

けれど自分が行きたい大学ではないため蹴っ飛ばし、
一浪して国立大学へと進んだのだ。


県外ということで、
しょうさんはこの時、息子の旅立ちを迎えます。

大学に受かり、高校を卒業し、
慌ただしく準備を進め、
あっという間に引っ越しの日を迎える。


引っ越し当日はしょうさんとミキさんが車で4時間かけて送ることにした。


まだ薄暗い早朝の3月の終わり。
寒い朝だった。


靴を履き咳払いをする。

玄関の扉が閉まる音がした。


布団の中で起きていたしょうさんの娘さんは、
弟が出ていったその音を聞いていた。


順調に高速に乗り、
引越し先のアパートに着く。

荷解きを手伝いながら、途中昼休憩もはさむ。


今日からここで息子は暮らす。


引越しは滞りなく進んだ。
夕暮れも迫り、そろそろ帰らねばとしょうさんが立ち上がる。

するとそれを遮るかのように、
息子さんはまだ組み立てていない本棚の開封を始めた。



しょうさんの息子は寡黙である。

小さい頃は、よく喋るひょうきんな子だったが、
思春期を境に寡黙な子になった。


体は疲れているはずなのに夢中で組み立て始める息子さんの姿は、

まるで別れの寂しさを紛らわすかのような、
親に甘えていた幼い頃のままだった。

こいつは俺の息子だ。


しょうさんもミキさんもただ黙ってしばらく手伝った。

棚が組み立て終わる頃、
日も落ち、
さすがに遅くなるからと見切りをつけて、
しょうさんとミキさんは息子さんのアパートを後にした。



息子さんがその時、
どんな気持ちだったのだろう。


ミキさんはもちろん寂しさと心配と別れの悲しさと、いろんな感情が入り混じったまま、
疲れた体ごと帰路に着く車に揺られていた。


車を走らせて20分くらい経った頃。
ミキさんはしょうさんの意外な姿を目の当たりにした。

高速に乗るはずが、道を間違えて走っている。

「お父さん、道違うんじゃないの?」

ミキさんがしょうさんにそう聞くと、

あれ、間違えちゃったか。と

言いながら、
しょうさんは鼻をすすり咳払いをする。

何度も何度もコホコホと咳払いをしながら鼻をすする。


子育てに無関心。
学校行事には参加しない。
すべてをミキさんに丸投げで、
都合のいい時だけ子供を可愛がる。
自分は仕事に趣味に好き勝手やってきたしょうさん。


特に昭和の男とはそういうものでしょうか。


けれど、しょうさんは、しょうさんなりに父親だったのです。



こっそりと?
涙を流してから7年後。

大学院まで終えた息子さんは就職も決まり、
再び家へ帰ってきました。

また数年、一緒に暮らせたのです。


息子さんは、
職人のしょうさんとは違うお堅い仕事に就き
今では結婚して子供もいます。

相変わらず寡黙ですが、
毎月必ず奥さんと子供を連れ、
しょうさんとミキさんに会いにきます。


ちなみに
息子さんの仕事は土木関係。

親父が現場主義ならば
俺は机上主義。

とは言わないけれども、そうであろうと
しょうさんは受け止めている。

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