“The Eight-Thousanders” by Jason Sanford (2020)

最近、アンドリュー・リプタックのブログで、ベイン・ブックスの運営している掲示板が2020年11月の連邦議会襲撃事件への参加呼びかけに使われていたという話を読んだ。それ自体はへえという感じだが、そのスッパ抜きをやっていたのがジェイスン・サンフォードだったのでちょっと気になった。

https://andrewliptak.substack.com/p/baen-bar-speech-sci-fi-controversy-politics
https://www.patreon.com/posts/47582408

リプタックはSFジャーナリストと呼んでいるが、私の知るジェイスン・サンフォードはSF作家・編集者である。サンフォードについてまず思い出すのは、2010年ごろにSF的な骨格を持ちつつジャンル外のフレーバーを持つSF短篇(例を挙げればチャンとかバチガルピとかイアン・マクドナルドとか)を”SciFI Strange”と名付けて、ニューウェーブSFの系譜を継ぐものだと位置づけたことだ。この分析には細部で賛同しかねるけれど、サンフォードの偉いところは自分でも率先してそういう作風の作品を書いたところである。なので、彼の変な設定構築力は当代の作家の中でもなかなかのものだと思う。

そのサンフォードが今年(2021年)のネビュラ賞ショートストーリー部門にノミネートされていたので、一応ファンとして読んでおくことにした。

語り手の「私」は登山家。同じく登山を愛好するIT長者のロニー・チェイトに援助してもらうため、普段は彼の会社で激務をこなし、登山では彼のアシスタントとして共に高峰に挑む。しかし、やがて当初の達成感は薄れ、自分の生き方に疑問を抱き始める。そんな折、ロニーがエヴェレスト無酸素登山という無謀な挑戦に挑む。登頂は果たしたものの、帰りに雪嵐で立ち往生する「私」とロニーの前に、シェルパの一員だった女が近付いてくる。彼女は吸血鬼で、人間が行き倒れるのを待って、その血を吸うのだという。

この作者にしてはリアル寄りの作品。タイトルはヒマラヤ山脈あたりの8000メートル峰の意味とのこと。雪山に吸血鬼という組み合わせはちょっと面白いが、極限状態の主人公が人外の者を触媒にして自分の内面と対話するというストーリーは同作者の”Heaven’s Touch”(こちらは彗星に取り残された主人公が死んだ親友を模したAIと対話しながら脱出策を模索するハードSF)にだいぶ似ており、やや手癖の感がある。

ストーリーが同工異曲になってしまうのはこの作者の弱点だと思うので、ここらで賞でも取ってさらなる飛躍を遂げてほしいところ。そういえば、以前長篇を発表する話もあったのだが、どうなったのだろう。

https://apex-magazine.com/the-eight-thousanders/

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