“Vaccine Season” by Hannu Rajaniemi (2021)

最近ウマのゲームに時間を吸い取られているので、意識的に本を読む必要性に迫られ、短篇SFの読書記録をつけることにした。SFマガジンのN&Sレビュウという紹介場所もあるのだが、あちらで取り上げにくい微妙に古い短篇を取り上げたり、あるいはN&Sレビュウの前座として活用できたりする(といいな)ともくろんでいる。

つい先頃刊行されたオリジナルアンソロジーMake Shiftでハンヌ・ライアニエミの新作短篇を読んだ。執筆が長篇にシフトしたこともあり、2015年に短篇集が出たあとほとんど読んでいなかった気がする(ISFDB見たらポツポツ書いているので、私が疎かっただけである)。

度重なる世界的パンデミックののち、人類は定期的にワクチンを開発し、またウイルスと同じく飛沫感染させることで、爆発的に普及させた。やがてワクチンの効果は感染症だけでなく、ガンの根絶、長寿化などにまで広がり、人々はワクチンの交付時期を〈ワクチン期〉として祝うようになる。
少年トースティは島にひとり住む祖父の元を訪れ、彼にワクチンを届けようとするが、過酷な時代をくぐり抜けてきた祖父はワクチンのもたらす未来に共感できないといい、かたくなに拒むのだった。

収録アンソロジーがテクノロジーがもたらす未来のヴィジョンを探求するMITプレスのTweleve Tomorrowsシリーズの一冊であること、またコロナ禍でアメリカが一番めちゃくちゃだった時期に企画されたものということもあり、パンデミックの先にある明るい未来の構想をこの作家らしい味付けで料理した話となっている。実際、2020年のライアニエミはワクチンを短期間で開発する計画の提言とかしてたようだし。

ワクチンを祝うお祭りでは皆仮装するけれど口と鼻はいつも出しているとか、ワクチンを拒む祖父がマスクとフェイスガードで防御しているとか、コロナ禍を経験した人間にはよくわかるくすぐりが色々仕込まれているし、祖父と孫がサウナで語り合うというのもこの作家らしいが、話の落とし所はややありきたりか。

ちなみに編者コメントによれば〈ジャン・ル・フランブール〉シリーズと同じ世界観ということだが、そうなの? シンギュラリティ前の世界だろうか。よくわからない。


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