“The Million-Mile Sniper” by SL Huang (2020)

劇場版ガンダム00を観たときのこと。冒頭、いきなりTVシリーズで見たこともないキャラが次々登場して「俺たちがソレスタルビーイングだ!」みたいなことをいうので、な、何だこれはと動転してしまったのだが、実は内情を全然知らない人々が作った再現ドラマだったというオチだった。この短篇を読みながら、唐突にそんなことを思い出した。

強硬な孤立主義を唱え、太陽系内紛の火種と目されていたオーリン上院議員の乗っていた宇宙船が爆発する。当初、不幸な事故だと思われていたが、捜査の結果、議員の船は100万マイルの彼方から狙撃されたことがわかった。犯人は結局見つからず、謎の狙撃手の存在はさまざまな尾ひれをつけながら、人々のあいだに広まっていく。

物語は再現ドラマの描くイメージと、のちの研究によって明らかになった事実関係の両面から交互に語られる。極度に理想化されたスナイパー像——人類を裏から操る秘密結社の依頼で、太陽系の危機を防ぐために未曾有のミッションに身を投じた、巨大なライフルを携える孤高のヒットマン——を再現ドラマパートで語りながら、それを現実的なツッコミで随時無効化していく。曰く、秘密結社は実在しない、人間がライフルで狙いをつけて撃ったはずもなく、商業用レールガンを改造してコンピュータ制御で撃ったのだ、エトセトラエトセトラ。そういうスペオペ的なイメージを脱構築してみせた作品なのかと思えば、最後に両者が交わったところで一応のオチがつく。もう少し長くして、ハッタリを広げてほしかった気もする。

作者のS・L・ホァンはMITで数学の学位を取り、ハリウッドでスタントマンや銃火器の専門家として働いているという濃い経歴の持ち主。短篇はあまり書いていないが、もう少し掘ってみたい気がする。


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