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Learn Like a Pro 読書ノート 1/3 【働学併進#007】

「プロのように学ぶ: どのようなものでも上達するための科学的技法」
筆者はBarbara Oakley博士とOlav Schewe氏。

Dr. Barbara Oakley (画像: 公式ホームページ)
Olav Schewe (画像: 公式ホームページ)

和訳されたものもあるが、Kindleがなかったため洋書を購入した。

概要

この本では、神経科学 neuroscience と認知科学 cognitive psychology によって裏付けがされた学習を効率化するための11の方法を紹介している。具体的に書かれている内容は以下の通り。

  1. How to Focus Intently and Beat Procrastination
    一心に集中し、先延ばしを克服する方法

  2. How to Overcome Being Stuck
    手詰まりを克服する方法

  3. How to Learn Anything Deeply
    どんなことでも深く学ぶ方法

  4. How to Maximize Working Memory—and Take Better Notes
    作業記憶ワーキングメモリを鍛え、良いノートを取る方法

  5. How to Memorize
    記憶する方法

  6. How to Gain Intuition and Think Fast
    直感を得て、速く考える方法

  7. How to Exert Self-Discipline Even When You Don't Have Any
    自制心がなくても、自制する方法

  8. How to Motivate Yourself
    自分だけの動機を見つける方法

  9. How to Read Effectively
    効率的な読書法

  10. How to Win Big on Tests
    テストでとても良い成績を残す方法

  11. How to Be a Pro Learner
    熟練の学習者になるための方法

今回はChapter 1, 2を紹介する。
主題は、「人間が思考するときや学習するときに使う2つのモードについてと、それらの活用法」だ。

1. Focus Intently and Beat Procrastination

この章では、集中力といったらこれと言わんばかりのPomodoro Techniqueが紹介されていた。

正直に言うと、私は学生時代からPomodoroタイマーなどは毛嫌いしていた。
というのも、「一度に何時間も集中して作業したい/作業できる」と云う自負があったのだ。
しかしそのじつ、Pomodoroで一番大切な要素は「作業を細切れにして、間に休憩時間をとること」だったのだ。
より具体的に方法が示されていたため、私が明日から使えるような内容をまとめる。

因みに、Pomodoroを毛嫌いしていた頃の私が自身のことを"天才気質の気分屋"と思っていたことはここだけの秘密。

Step by Step Pomodoro Technique

  1. Remove any possible distractors

    • 机の上を片付ける

    • PCなら開いている余計なウィンドウや、ブラウザーのタブを消す

    • 余計なディスプレイの電源をオフにする

    • スマホは視界に入らない場所に置く

    • スマホに通知が鳴らないようにする

  2. Set a timer for 25 minutes.

    • スマホのタイマーを使う場合は、スマホが腕を伸ばしても届かない場所に置く

    • おすすめのアプリはTickTick。完全無料がいいならToggl

  3. Study or work as intently as you can.

    • 別な考え事や悩み事、誘惑などが頭をよぎったことに気づいたらすぐ集中し直す

    • どうしても頭から離れないアイディアや考え事はメモに書き出して、25分後に行う

  4. Reward yourself for about 5 minutes

    • 絶対に休む(後述)

  5. Repeat as appropriate

休む重要性・理由

  • 「集中していない」時にこそ、学んだことが長期記憶 long-term memory に定着するから

    • スマホを操作しているときは、どのような操作でも「集中」状態になってしまうため、学習内容を長期記憶に定着させるためにもスマホは触らない。

  • 長時間ずっと集中するよりも、濃度の高い集中力を発揮しやすく感じるから

    • 大人になると長時間集中できる時間をとることすら難しくなる(学生もそうかもしれないが)

  • より良い途中経過 processは、長期的に見ると一時的な成果物よりも大切だから

では、理想的に休息時間を過ごすにはどうすれば良いのだろうか。

  • 体を動かす

    • 散歩、ジョギング

  • 考えずにもできるようなこと

    • お茶を淹れる、水を飲む

    • 掃除する、換気する etc.

なぜ、25分なのか

私たちが「嫌だな」「やりたくないな」と感じたとき、脳の島皮質とうひしつ insular cortex は辛いと感じ、先延ばししてしまう。
しかし、その脳の辛さは20分ほどで消えるため、25分後には勉強モードに入るようになる。
つまり、「先延ばししようかな」と感じたときの脳の辛さを和らげるためにも、25分間はやってみるべきと云うことらしい。

ただ、一つのことに集中するために

「25分間できるだけ集中する」というのは、できるだけ気を散らさないこと、つまり意識がそれにくい環境を作ることが鍵となる。

  • マルチタスクの排斥

    • 頻繁に、脳へ別な種類の情報をロードすると、一つひとつの作業に集中しきれなくなる attention residue

    • 30~40%のパフォーマンスが下がると云う研究がある

    • スマホこそ、「脳へ別な種類の情報のロード」の典型例であるため、スマホが視界に入らず、通知音、振動(バイブレーション)も聞こえない状態を作る

    • freedomSelfContrl(macOS)で、強制的にSNSやYouTubeへのアクセスを遮断することも有効

  • 音に気を配る

    • スマホの通知音以外にも、人が話していたり邪魔が入る環境での勉強は向かない

    • "新しい内容を学ぶときは"、カフェなどは理想的な環境ではない

    • 耳栓、イヤーマフ、ノイズキャンセリングヘッドホンを活用する

どうしても邪魔が入ってしまったときは「今は作業のどの段階にいるのか、戻ってきたらどこから作業を開始するのか」と、作業復活計画 ready-to-resume plan を立てることで、脳が区切りをつけ、attention residue の影響を最小限に防げる。

その他にも、以下のようなアドバイスも書かれていた。

  • 3回目、もしくは4回目のPomodoroの終わりには、長めの10~15分の休みをとる

  • 新しい内容を複数回のPomodoroで学ぶときは、Pomodoroの時間で前回で何を学んだか振り返る recall 時間を数分とること

  • 1日の勉強時間が8時間よりも長くなると、それ以上のテスト結果に影響を与えなかった。

科学的に「大きな効果がある」と言えないもの

詳しい話は本書の方に譲るとして、以下のものは「科学的に少し効果はあるかも」くらいの要因だ。自身で既に効果を感じているもの以外は、別にやる必要もないということらしい。

  • 音楽 Music

    • 数学の学習とは特に相性が悪いらしい

  • 両耳性うなり(バイノーラルビート) Binaural beats

  • 瞑想 Meditation

  • ヨガ Yoga

2. Overcome Being Stuck

何かに行き詰まったとき(執筆中に言葉が出てこなくなる時、プログラムの見通しが立たない時)、どのように思考の凝りこりをほぐし、別々のアイディアを結びつけるかが大切になる。
そんな時に大切なのが散乱 diffuse モードだ。

散乱モードとは、既に学んだことを、それに集中していない時に脳内であっちこっちと結びつけられる状態のこと。
「眠いなー」と思った時に何かアイディアが浮かんだり、トイレに行ったらプログラムのバグの原因の見当がついたり、友人と雑談している時に新しいアイディアを思い浮かんだりするのは、散乱モードによる影響である。

原書では、集中モードは迷路の先をとにかく進んで道を作るモードで、散乱モードはドローンが縦横無尽に飛び回って既にある道同士を繋げるモードだと例えていた。
私は、「メインスレッドとバックグラウンドスレッド」もしくは「CPUモードとGPUモード」と解釈している。

とにかく、散乱モードを余すとこなく発揮するためには「散乱モードに入る前に、その問題にとにかく集中すること(脳にロードすること)」「散乱モードに入るために、"意図的に何にも集中していない時間"をとること」が重要だ。

散乱モードに入るための鍵となる行動

基本的には無心で何も考えずにできるようなものがいいとされている。

  • 日々の何気ない活動

    • 歯磨き、シャワー

    • バス/電車に乗る

    • 料理、昼食/夕食、片付け

    • お茶を淹れる、飲む

    • 部屋の片付け

  • 運動

    • 散歩

  • リラクゼーション

    • お昼寝

    • 睡眠

私の場合、リモートで働いているから通勤もせず、食洗機に任せているため食器洗いもせず、食材の買い物の8割がネットなため、これからは散乱モードに入りやすい活動を意識的に取り入れる必要がありそうだ。

因みに、あれほど集中モードのかたきとして悪者扱いしたマルチタスキングや雑音の多い環境(カフェ)、(ホワイトノイズなどの)音楽は「思考の凝りをほぐす」と云う点では有効なようだ。
私は自分で淹れるコーヒー/お茶が一番好き故にカフェには行かないため、カフェにいるような雑音が聞けるサイト(Coffitivity)や、Apple MusicのWhite Noiseを流すようにしている。他にも、SimplyNoiseNoislimyNoiseなどが紹介されていた。

散乱モードで取り組むべき課題

わざわざカフェに行って、暗記系の勉強をしても効率が悪いそうだ。確かに、insular cortex などを覚えるために¥400以上払うのはやりすぎだと感じる。経験的にも、暗記系や読書などの情報を取り組む作業や簡単な演習問題なら静かな環境が一番だ。
では、散乱モードでは何を取り組むべきか。より正確に言うなら、散乱モードを活かすために、集中モードでどのような課題に取り組むべきだろうか

  • 新しい/難しい概念を学んでいる時

    • C#のdelegate の全体像

    • クラウドでサービスが動く仕組み

  • 難しい問題に取り組んでいる時

    • 新機能を1から実装する時

    • 次の記事の候補を考えるとき

今回は私のニッチな悩みを公開したが、「寝る前に自身の副業計画を考える」「通勤中に前日動画で見た内容を思い出してみる」のように、自分の散乱モードの引き金を引く前に何を打つかを定めておくこう

Start Hard: 難しいものから先に手をつけるべし

散乱モードのもう一つの特徴として、「意識の向いていないものなら何にでも働く」と言う性質がある。
つまり、筆者の気持ちを散乱モードで考えながら、100マス計算を集中モードで解くのは可能だと言うことだ。(事前に筆者の気持ちを集中モードで必死に考えることが必須ということは変わらない)

そんな性質を使って集中モードと散乱モードの両方のいいところどりをする技術がHard Start Techniqueだ。
端的に言えば、テストなら難しい問題から取り組み、5~10分かけても解けなかった場合は散乱モードで脳に取り組んでもらっている間に、集中モードで簡単な問題を解くのだ。

Mark Twain氏の"Eat a live frog first thing in the morning (朝一番に生きたカエルを食べてしまえ)"というのはこういうことなのかもしれない。

Do NOT edit while writing the first draft

最近、毎日note投稿を始めてから、自分の遅筆さをなんとかせねばと思っていたが、この本はその原因が「執筆(散乱モード)と編集(集中モード)を同時に行なっているから」だと教えてくれた。
解決策も教えてくれたが至って簡単。「執筆中は編集しない」こと。なんならディスプレイを見る必要すらないじゃないかと言っていた。
この記事も、(なるべく)執筆作業と編集作業を混同しないように心掛けたが、意識しないとつい言葉遣いを直してしまっている。。
「2回執筆用のPomodoroを行い、1回編集用Pomodoroを行う」などと自分で決めた規律に則るしかない。

日報や実験などの報告書や論文などを書くのに時間がかかり過ぎてしまう人にも是非参考にしてほしい。一緒に頑張ろう。


繰り返しになるが、とにかく「集中モード」と「散乱モード」を活用すると云うことだけは忘れないように。
明日は、第3章からの長期記憶に関する内容をまとめる。

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