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夜の田圃でどじょうすくいを乱舞する謎の美女

 令和の世、人々はコロナウイルスへの感染を恐れて外出を控えています。

 時をさかのぼること95年、1926年(大正15年)6月19日付読売新聞に掲載された記事に、千葉県長生郡関村(現在の白子町)あたりでは「婦女子が恐ろしさの余り夜間は外出せずにいた」と書かれています。

 理由はもちろんコロナウイルスではなく、世にも奇妙な出来事だったのです。

 記事によれば、「毎夜のごとく妙齢の美人が現れて闇の中で出雲名物鰌掬い(どじょうすくい)の踊りを乱舞するとの噂」が飛び交ったため、夜は怖くて外に出られなくなっていたのですね。

恐るべき怪女は枯れ尾花だったのか

 記事の見出しには、「毎夜田圃に出て鰌掬い(どじょうすくい)を踊る怪女」とありました。

 これは恐ろしい。

 けれども、記事を仔細に読む前に何となくピンと来るものがあります。暗夜のことですので、「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というやつで、実際にはそんな怪女はいなかった……というオチなのではないかと予感が働いたのです。

 私も霊感には自信がある方です。

 記事を読み進めると、ある夜、怪女の正体を確かめるべく、村の青年団が田圃に潜んでいたそうです。

 すると、そこに「忽如として現れた怪女は月光を浴びての鰌掬いを舞い」、そればかりか「鰌を捕えては物凄い形容をして生きの鰌を喰べて立ち去らん」としたというのです。

 うぎゃー、怖すぎる。

 なんと予想は大外れ。怪女は存在し、鰌掬いを踊り狂ったのみならず生のどじょうをムシャムシャ食い散らかしたというホラー映画さながらの事態になったわけです。

生どじょうを素手で食らう17歳の美少女

 青年団は怯えながらも怪女を取り押さえ、調べたところ近隣で下女奉公中の17歳の娘とわかりました。

 なぜ夜の田圃で踊り狂っていたか、その理由は明らかにされていません。

 記事は、17歳の怪女が実父に引き渡されたが、村人たちは気味悪がっている……というところで終わっています。後日談があるなら知りたいところです。

 大正15年のことなので、怪女は気味悪がられて、どこか所を変えてひっそりと暮らしたのではないかと思います。

今ならYouTuberで大成功してたかも

 しかし考えてみれば、夜中の田圃で鰌掬いを乱舞し、あまつさえ生のどじょうを素手でとっ捕まえて食べていたわけですから、これは突拍子もないパフォーマーです。

 しかもうら若き17歳の美女ですから、ビジュアル的にも十分OKでしょう。今だったらYouTuberとして成功を収めていたかもしれないのに。

 古新聞の片隅に、時代の仇花が押し花にされているのを見つけた気分になりました。

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