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私論

栃木市岩舟町三谷の栃木市岩舟総合運動公園敷地内に、日本理化工業所(大栗崇司社長)の民設民営によるサッカー専用スタジアムが建設された。同社の子会社が経営する、関東リーグ1部・栃木シティフットボールクラブのホームスタジアムとして使用される。

このスタジアム建設をめぐり、市議の一部が反発を示している。市が日本理化工業所に対し、固定資産税と公園使用料の全額免除(最大10年間)を認めたためである。大川秀子市長らは「公共性のある事業」であるという理由を説明して同意を求めている。

私自身は、スタジアム建設の一件には賛成である。

1. 経緯

70年以上の長きにわたってこの地に根を下ろしているアマチュアサッカーチーム・栃木ウーヴァFCの成績は、数年前まで低迷していた。2010年にJFLへの参入を果たしたものの、順位は連年降格圏。奇跡が重なってやっと地位を保っていた(この残留劇は一部で有名)が、運も尽きて2017年を最後に関東リーグへ降りることになった。

そこへ謎の青年社長・大栗が乱入。契約形態を改めてプロチームへ移行し、名称も変更、バキバキの資金投入を行って全国レベルのとんでもないクラブに成長させてしまった。

大栗は次のように語っている。

本当にウーヴァをやろうと決めたのは昨年(2017年)11月のソニー仙台戦です。0-7で負けたんですけれど、残留のために絶対に勝たなければいけない試合でした。《中略》アマチュア契約なので0円で、夜がんばって練習して、でもその選手たちがこれだけ気持ちの入ったプレーをして、立てなくなるくらい泣いている。それを目の前にして、これは誰かがやらなきゃいけないとスイッチが入った(『ゴール裏出身の青年社長はなぜ関東リーグから「J」を目指すのか?』Yahoo! ニュース、2018年2月16日)

そんなわけで、このクラブが向こう数年で(来年かも知れない)JFLへの復帰を果たすことは必然視されている。こういう時期だから、市総合運動公園の陸上競技場に代わるサッカー専用スタジアムは欲しいに決まっている。というのも、Jリーグにはちゃんとスタジアムの基準(照明、観客席、屋根など)が定められていて、市総の競技場はそれを満たさないから。そこまではいい。

じゃあ、スタジアムは企業が土地を買って、企業の金で建ててくださいって?

そんな前例は、ない。

2. 全国におけるサッカースタジアムの概況

現在の日本に、Jリーグ所属チームがホームとして使用しているサッカー専用競技場は11件、ラグビー等兼用競技場は17件、陸上競技場は30件あり、多くは運動公園内に所在する。それらが誰によって建てられたのかというと、都府県や第三セクターが25件、市町が30件。民設はわずかに3件(後述)である。

一体この国のスタジアムは、自治体の金で建てたものをプロチームが乗っ取ってホームにするのが定石なのである。じゃあこれらのサッカーチームは、全部税金泥棒なのか?

否。自治体がわざわざ民間チームのためにスタジアムに金を使うのは、そこに大きな波及効果があるからである。検索すれば分かるだろうし保体の授業で習っただろうから、殊更詳述しないが、全国レベルのチームが拠点を置く都市には、何億円もの……いや、お金では買えないほどの利益が上がるだろう。

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だから自治体にしてみれば、チームのためにわざわざスタジアムを新設したり、施設維持費をずっと負担し続けたりするのが当たり前なのである。それを民間企業が全部やってくれるということの重さがお分かりだろうか。分からなければ、私は悔しくてならない。

https://twitter.com/nb0815_napoleon/status/1369555005166874625

これはそういう意味でのツイートであった。思えば興味の有無というより、経済効果の認識の有無と言った方が達意かもしれない。

以上を読んでなお「結局は道楽のための施設じゃないか」と思った方は、市政じゃなくてプロスポーツという存在に対して憤らないとお門違いになってしまうので、僭越ながら注意をお与えする所存である。

3. 民設スタジアムと使用料

さて前述の民設スタジアム3件だが、うち2件は、かたやヤマハ発動機、かたや日立製作所という大企業が、でかい公園を持っていたから昔そこに建てたというだけの話であって、大栗に真似しろと言っても無理なのはお分かりだろう。

そして残り1件は、FC今治のホームスタジアム「ありがとうサービス. 夢スタジアム」である。このスタジアムは、クラブを運営する株式会社今治. 夢スポーツが、市有地の無償貸与を受けて建設した、5,000人規模のスタジアムである。よく似た先例とでも言うべきだ。

ちなみに、このスタジアムは一般利用を受け付けていない。「岩舟のスタジアムは1日の使用料が9万円だ。これでは高い、公共性を損なう」という意見を目にしたが、今治では何円積んでも使わせてもらえないし、それに対する不平は聞かれない。なぜならそれが普通だから。

そもそもスタジアムの公共性とは、一般の市民が使えるか否かではなく、上述した波及効果の大きさの事である。広場を使うのは個人でもあり得るが、スタジアムを使うのは基本的に大きな団体様であって、それも民営である以上かなりの料金を取らなければ維持管理も儘ならない。国公立大学と私立大学で学費が違うのと同じである。

スタジアムとは、そういうものなのである。

全国をくまなく見回し、行政とスポーツがどんな形で関わっているかちゃんと見ていけば、今回の例がいかに画期的で、批判される筋合いの無いものか諒解されるはずである。

4. おわりに

もっとも、上で述べたのはスタジアムの関連事項のみであって、閉校になった市立小野寺北小学校の建物および敷地をタダで日本理化工業所へ譲渡してしまう話は、聞き捨てならないと思っている。サッカースクールにするそうだが、スタジアムとサッカースクールでは運営の規模(集める人の数)が段違いであるし、ここまでくると「公共性」という言葉で説明が及ぶとも思えない。

都道府県営・市町村営のサッカースクールって、あるんだろうか。今後事例を探すことにする。

5. 資料

・スポーツ庁『スタジアム・アリーナ改革指針』平成28年11月16日 (https://www.mext.go.jp/prev_sports/comp/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2016/11/16/1379559_2_1_1.pdf)
・志摩憲寿、宮吉悠太『J リーグ全ホームスタジアムの施設特性と立地特性に関する基礎的研究 - スタジアムと周辺地域との一体的な開発に向けた一考察』公益社団法人日本都市計画学会 都市計画論文集 Vol.53 No.3, 2018年10月 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/journalcpij/53/3/53_943/_pdf/-char/ja)
・『サッカーJ2水戸ホーリーホック複合型スタジアム構想を発表』茨城新聞、2019年11月22日 (https://youtube.com/watch?v=HokxG-AXXaI)
・Dai『ハコモノにどこまでストーリーを持たせるか』note, 2020年3月8日 (https://note.com/0916_3104/n/n1cc491a3e1a1)
・Arigatou Services. Yume Stadium / Google Maps (https://goo.gl/maps/obiGjmm4u1SWsxfc6)
・『フットボールパーク構想について』FC今治 (https://www.fcimabari.com/stadium/)

画像引用元
・nya137『代々木公園サッカースタジアム計画へ脊髄反射的に反対する人について思う事』Hatena blog, 2017年8月1日 (https://nyaaaaaaasan.hatenablog.com/entry/2017/08/01/200646)

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