特別展示『分解布 200年前の感動を織りあげる』、イベント『触布』を通して新たに見えたもの
まず初めに、展示へお越しいただいた皆様、応援していただいた皆様、おかげさまで無事に展示を終えることができました。誠にありがとうございました。
今回の展示について振り返りましたので、ご高覧いただけますと幸いです。
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2021年4月16日〜2021年4月18日の3日間、『半・分解展』において特別展示『分解布 200年前の感動を織りあげる』を行った。
この展示に向けて取り組んできた2年4ヶ月という歳月を振り返りながら、数ヶ月間かけてデータをまとめ、9000文字近い文章でその全貌を記録した。そうすることで、これまで見えていなかったものが見えてきた。
例えば、染色をお願いする際に「200年前の表地」の実物を全ての工場に見本としてお渡ししているが、染め上がってくる色が全く違う。経年変化によって褪せた朱色を表現する工場もあれば、200年前の新品の状態を想像して染めたものもあった。それぞれの生地を触り比べることでも、触るごとに新たな発見をした。
自分の内面にも見えていなかったものがあった。この展示やイベントで自分が伝えられることは何だろうかと。「200年前の表地」再現を通して自分は何を感じたのか、限られた時間の中で届けたいことは何だろうかと自問した。そうして行き着いたのは、やはり自分がこの業界に入るきっかけになった『毛織物の魅力』だった。ウールを始め、カシミヤやモヘアといった素材の魅力と織物としての魅力の両面を、自分の言葉で伝えようと決めた。
「200年前の表地」が使われているリージェンシーテールコート、通称『ハンティング・ピンク』は毛織物であることに大きな意味があった。このコートは狩猟や乗馬の際に着用するもので、雨風を凌ぎ、軽くて丈夫であることが重要であった。現代ではGORE-TEXなどがこの役割を担っているが、「200年前の表地」ぐらいになると負けずとも劣らない機能性を持っている。ウールの撥水性に加え、超高密度に製織されたことによる防水・防風性。ウールのUVプロテクション。極め付けはスケール(髪の毛で言うキューティクル)の開閉による湿度調整機能と防臭性である。
だが、多くの人はこの事実を知らない。
ウールが今もなお進化を遂げており、人の肌に直接触れてもチクチクしない細さの原料が品種改良によって生まれていることも、身体の危険を伴うアウトドアの最前線で活躍するプレーヤーの肌着がウールだということも知られていない。
5年10年先の存続が危うい毛織物産業に従事しながら、その魅力を伝えきれていない現状が歯痒い。だから、後悔しないように、現場で働いている自分だからこそ伝えられることを言葉にしようと思った。イベント『触布』では様々なスワッチを触り比べながら毛織物の魅力について語った。全てを伝えきれた訳ではないし、流暢には喋れなかったが、自分の言葉で熱を持って伝えられた自信だけはある。
そしてもう一点、僕がどうしても伝えたかったことがある。それは「技術が失われつつある、産地としての機能が消滅しつつある」ということだ。
ここで言う「産地の機能」とは、糸の紡績から整理加工をして服地が完成するまでの全ての工程がある地域に集まっていて、それが産業として回っていることを指す。
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