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2023年第4回定例会の個人質問

さいとう尚哉:日本維新の会北区議員団のさいとう尚哉です。本日は「北区役所の人材組織改革」と「北区の成長戦略」という2つのテーマについて質問いたします。


北区役所の人材組織改革について

民間企業の先進的な人事制度の導入

さいとう尚哉:第1のテーマは「北区役所の人材組織改革」です。はじめに民間企業の先進的な人事制度の導入について質問いたします。日本全国で労働力人口が減少するなか、特別区の人材獲得競争はますます激化しています。例えば特別区職員I類採用試験について、試験区分事務の合格倍率は2013年度の8.4倍から2023年度の2.5倍まで減少しています。人材獲得が困難なのは北区役所も例外ではなく、職種次第では採用予定者数を満たすことができない事態も発生していると聞いています。

そうしたマクロトレンドのなか、近年民間企業では「EVP」という概念が注目されています。「EVP」は「Employee Value Proposition」の略語で、直訳すると「従業員に提供できる価値」という意味になります。「企業が従業員を選択する」というこれまでの社会が「従業員が企業を選択する」という社会に変わるなか、企業は従業員に選択してもらうための職場環境や人事制度を整備することが必要となります。

例えば、ソニー株式会社では従業員に職場環境や組織風土を評価してもらう「BE Heard」という調査を実施していますが、調査結果を各組織のマネジメントに共有することで「働きやすい職場環境づくり」を推進しています。また、同社は上司の承認がなくても応募できる社内募集制度を導入することで、従業員が自律的・自発的にキャリアを構築できる人事制度も導入しています。他にも、社外組織が運営するハラスメントの相談窓口等、多種多様な観点から「従業員に選択してもらうための職場環境・人事制度の整備」を推進しています。

これらを念頭に、北区役所も「Employee Value Proposition」を設計いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。そのうえで、「Employee Value Proposition」を実現するため、民間企業の先進的な人事制度を積極的に導入いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。

職員課:民間企業が導入しているEVPは、従業員のモチベーションの向上や働きがいに結び付き、離職率の低下や優秀な人材の確保に繋がり、有益なものと認識しています。

区においては、職員に働きやすい職場環境を整備し、モチベーションを保つことで区民サービスの向上に繋げることや公務員を目指している受験生に北区役所を選んでいただくための方策が必要であると認識しています。ご提案のEVPは、これまで区が取り組んできた人材育成の考え方や目的と同様であり、これまでも取り組んできているところです。これらの考えに基づき、健康経営や職場環境の充実など区職員に適した方策を進めてまいります。

職場における心理的安全性の向上について

さいとう尚哉:次に職場における心理的安全性の向上について質問いたします。人材組織改革において近年注目されている概念に心理的安全性があります。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、日本能率協会マネジメントセンターの定義によれば「誰もが安心して発言や行動ができる職場環境」を意味します。例えば「上司に質問や確認をしても『そんなことも知らないのか』と思われない」という安心感や、「同僚に意見や提案をしても『邪魔なやつだな』と思われない」という信頼感がある職場環境をイメージいただければとおもいます。

2016年、Googleが「心理的安全性と組織のパフォーマンスには関連がある」という趣旨の研究結果を公表したことで、心理的安全性は世界のビジネスシーンで注目されるようになりました。当該研究結果によれば、心理的安全性が確保されている組織のメンバーには、「離職率が低水準である」「他者のアイデアをうまく活用できる」「上司から評価されている」等の特徴があるとのことです。心理的安全性が確保されていない組織は、「上司に質問や確認をすると『そんなことも知らないのか』と思われる」という恐怖感や「同僚に意見や提案をすると『邪魔なやつだな』と思われる」という不信感等が支配的になり、結果として組織としてのパフォーマンスが低下することになります。

さて、ここで問題提起したいのは北区役所で心理的安全性が確保されているかという課題です。特別区全体では心理的要因による休職割合は増加傾向にあり、2018年は休職者の78.4%が心理的要因によるものでしたが、2022年はこれが87.3%に高まりました。「心理的要因による休職者数の増加」という特別区全体の課題は、北区にも該当すると聞いております。また、多数の自治体が心理的安全性を人材組織改革の重要課題として認識している一方、北区の『北区人材育成基本方針』には心理的安全性についての記載はありません。そこで、北区役所における心理的安全性の現状を御共有いただいたうえで、今後心理的安全性を向上させるためにどのようなことを実施すべきと考えているか、見解を御教授ください。

職員課:区においては、職層ごとのマネジメントにかんする研修やOJT研修など様々な方策を行い、上司と部下における信頼関係を構築する職場環境づくりに努めており、新任の管理職を対象とした研修においても実施しております。

今後、区職員の現状をさらに分析するとともに、研修体系の見直しや「北区人材育成基本方針」の改定も含め、職員のメンタルヘルスの基礎知識やストレス対処法等を習得する方策を進めてまいります。

テレワークの推進について

さいとう尚哉:次にテレワークの推進について質問いたします。新型コロナウイルス感染症の流行により日本全国でテレワークが普及しましたが、北区役所も例外ではありませんでした。一方、新型コロナウイルス感染症が常態化するにつれてテレワークも縮小傾向にあると聞いています。もちろん窓口業務や機密情報にアクセスする必要がある部署でテレワークができないことは承知しております。また、内閣府の『第6回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』に記載があるとおり、テレワークには「社内での気軽な相談・報告が困難」や「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」というような課題があることも理解しております。

一方、若手職員や育児・介護等に従事する職員を中心に、「テレワークをしたいときにできる職場環境を整備してほしい」という意見があることも事実です。また、2023年10月に人材紹介業者のdodaが社会人を対象に実施した調査によれば、社会人の約60%が「テレワークのみ」もしくは「テレワークとオフィスワークのハイブリッド」を希望しているとのことです。特別区人事委員会の『令和5年職員の給与等に関する報告及び勧告』においても、「各区においては、テレワーク及び時差勤務制度の更なる利用拡大に加えて、事由を限定せず、職員が希望するときに制度を利用できる環境の整備を進められたい」という記載があります。

民間企業や豊島区等の近隣自治体がテレワークを念頭に「柔軟な職場環境」をPRし、激化する人材獲得競争に勝利しようとしているなか、北区役所もテレワークをしたいときにできる職場環境を整備いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。また、可処分時間が限られている「子育て世帯」を対象にした区民説明会で積極的にオンラインツールを利用する等、身近なところからテレワークの機運を醸成すべきかとおもいますが、見解を御教授ください。

職員課:令和2年10月より、全管理職を対象に、自席以外からでも、内部情報系システムへアクセスするための、専用USBドングルを配備し、テレワーク環境の一部整備を図りました。一般職員へのテレワーク環境の拡充については、コロナ禍において在宅勤務など例外的な対応を実施しましたが、区職員の働き方改革やワークライフバランスの実現という観点から、利用を拡大し、事由を限定しない環境整備が必要であると認識しています。今後、対象職場及び対象業務の整理などの課題はありますが、現在のシステム環境で可能な整備を行いつつ、他自治体などの先進事例を参考にしながら検討してまいります。

また、身近なところでのテレワークをしやすい機運づくりとしては、例えば、北区ファミリー・サポートセンターのオンライン説明会や子ども☆子育てオンライン相談、10月に開催した王子共創会議、王子駅周辺エリアプラットフォーム準備会などをオンライン配信するなど、オンラインツールを利用した説明会等も、随時、開催しているところです。そのほか、庁内においては、コロナ禍以降継続しているWEBプラットフォーム準備会などをオンライン配信するなど、オンラインツールを利用した説明会等も、随時、開催しているところです。

そのほか、庁内においては、コロナ禍以降継続しているWEB会議や現在試験運用しているLoGoチャットによるコミュニケーションのデジタル化などにも取り組んでおり、引き続き、こうしたオンラインツールを更に有効活用する中で、職員一人一人のICTリテラシーの向上に努め、テレワークに対する機運醸成へとつなげてまいります。

新庁舎のオフィス環境について

さいとう尚哉:次に新庁舎のオフィス環境について質問いたします。日本経済新聞社とニューオフィス推進協会が共同開催している「日経ニューオフィス賞」は、1988年から先進的なオフィス環境を表彰してきました。2023年9月には「第36回日経ニューオフィス賞」が発表されましたが、多種多様な業界から選定された16の企業には「従業員満足度を高める」という姿勢が共通しているとのことです。労働力人口の減少や雇用の流動化等により、人材獲得競争は激化するばかりですが、だからこそ従業員が「ここで働きたい」と思えるオフィス環境を提供することが重要になりつつあります。こうした文脈のもと、例えば受賞企業のひとつである兼松株式会社は、「従業員が考えるオフィスの理想像」を理解するため、従業員を対象にしたヒアリング調査を徹底し、その調査結果を空間設計に応用しました。

また、オフィス環境を刷新することは「働き方」を刷新することにもつながります。前述した兼松株式会社は、部署横断のコミュニケーションが不足していることを「働き方」の課題としてあげていましたが、社員同士が交流できるラウンジスペースを導入し、イベントを充実させることでこれを解決してきました。受賞企業のひとつでもあるSAPジャパン株式会社は、職場におけるウェルビーイングが課題としてあげていましたが、リラックスできるBGMや休憩用のリクライニングシートを導入することで、これを改善してきました。いずれもオフィス環境を刷新することで、これまでにない「働き方」を実現してきた事例となります。

御存知のとおり北区役所は新庁舎に移転することが決定しておりますが、私はチャンスだと認識しております。人材獲得競争に勝利するチャンス、職員満足度を高めるチャンス、職員の「働き方」を刷新するチャンス、組織のパフォーマンスを高めるチャンスです。これらのチャンスをものにするためには、「職員が考える新庁舎の理想像」や「職員が考える理想の『働き方』」を徹底的に調査・理解することが必要となります。

これらを念頭に、新庁舎の基本設計時、ヒアリングやアンケートにより職員が新庁舎へ期待することを徹底調査いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。また、新庁舎移転により実現したい「働き方」について、北区役所として議論を開始いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。

新庁舎整備担当課:執務機能に関しては、働く職員にとって満足度が高い庁舎であることが、生産性を高め、来庁者のサービス向上につながると考えています。「働き方」の議論については、すでに自分たちの職場環境を良くしたいという熱意をもった職員でDX 推進プロジェクトチームを発足させ、DX の観点から職場環境改善の取組みを始めています。その時代に合った職場環境整備を、現庁舎においても取り組んでおり、新庁舎開庁時には、全面的に展開させてまいります。

新庁舎整備の設計段階では、職員の意見が反映されるように、ヒアリング等実施してまいります。また、健康経営やオフィスの理想像の観点についても庁内横断的に職員の意見を取り入れる方策を検討してまいります。

能力・実績にもとづいた若手職員の抜擢について

さいとう尚哉:次に能力・実績にもとづいた若手職員の抜擢について質問いたします。近年、日本の雇用形態は、経験年数等が評価されるメンバーシップ型雇用から、担当業務における成果等が評価されるジョブ型雇用へ移行しつつあります。これにより若手でも管理職に抜擢されることがあり、例えばソニー株式会社では入社2年目の社員が管理職に抜擢されこともありました。また、先般政府が発表した『三位一体の労働市場改革』においてもジョブ型雇用を推進するという趣旨の記載があり、今後日本でもジョブ型雇用が主流になることが予想されます。

特別区はどちらかといえばメンバーシップ型雇用を採用しており、昇任には経験年数要件等がありますが、これにより能力・実績がある若手職員を抜擢することができません。公平・公正な人事評価制度が運用されていることを前提条件としますが、将来的には北区役所として昇任における経験年数要件を撤廃もしくは緩和するよう特別区人事委員会に要望することも必要となるかもしれません。現段階において、昇任における経験年数要件を撤廃もしくは緩和することにどのようなメリットとデメリットがあると認識しているのか、見解を御教授ください。

職員課:特別区の人事制度による昇任選考は、一定の経験年数などの要件に基づき実施されています。これまで特別区長会では、行政系人事制度改正の検討を行い、特別区人事委員会に要望することで、管理職に昇任するまでの経験年数要件を緩和しました。若手職員を登用することで新しい発想やチャレンジ精神などを取り入れ、組織の活性化に繋げたいと考えています。

経験年数要件を撤廃もしくは緩和することにより、特定分野での専門性やスキルが高い人材の配置が可能となり、仕事の効率や生産性向上にも貢献できる効果などが考えられます。その一方で、管理職としてのマネジメント力や課題解決力などは、豊富な経験や知識を要することから一定の年数が必要であると考えます。今後、組織活性化を含めた取り組みにより、長期的かつ計画的に有意な人材を育成してまいります。

デジタル化の推進による業務効率の向上について

さいとう尚哉:次にデジタル化の推進による業務効率の向上について質問いたします。『令和5年度予算案主な事業の概要』に、主要事業のひとつとして「RPA を活用した業務の効率化」があげられています。CIO補佐官のもとRPAの活用が推進されていることは評価しますが、『北区事務事業評価令和6年度方針一覧』を参照しても、業務効率が向上したことを証明する具体的なデータは記載されていません。

また、先般開催された決算特別委員会で、安達しんじ議員がAIチャットボットの利用者満足度が低水準であることを指摘しましたが、こうした状況で「AIチャットボットが業務効率を向上させた」と結論することはできません。

これらを念頭に、デジタル化によりどのくらい業務を効率化できたか、徹底して実績をレビューしたうえで、今後は具体的な数値目標にもとづいて業務効率向上に挑戦いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。

情報政策課:令和4年度から、本格導入を実施してきたRPAにつきましては、各所管委員会において、削減した事務処理時間及び人件費等について、ご答弁申し上げているところです。改めて、令和年度の実績ですが、4課10業務へ導入した結果、事務処理削減時間は209時間余、人件費換算で110万円余、コロナ禍における保健所では、5人の職員が専従していた事務において、RPA稼働中は、それぞれの職員が、別の事務に従事した、という効果を得ております。

今後も、更なる業務改善やツールの更新を図るとともに、その際には、数値目標の設定や、導入前、導入後の比較分析を徹底し、実績レビューも行いながら、業務効率化に積極的に取り組んでまいります。

北区の成長戦略について

事業のスクラップ・アンド・ビルドについて

さいとう尚哉:第2のテーマは「北区の成長戦略」です。はじめに事業のスクラップ・アンド・ビルドについて質問いたします。行政組織の性質として、歳出は増額する傾向にあります。もちろん歳入の増額で歳出の増額をまかなえるのであれば問題ないかもしれませんが、山田区長の公約である「150の政策」のほとんどが新規事業であり、私達も含めて議会からも多岐にわたる予算要望がなされているなか、残念ながら北区はそうした財政状況にはありません。必要となるのは「優先順位をつけること」――率直に表現すると「実施する事業と廃止する事業を取捨選択すること」です。

「行政評価を実施しているから問題ない」という意見があるかもしれませんが、令和4年度から令和5年度にかけて、「新規の項目」は100項目を超えている一方、「見直された項目」は11項目のみです。行政評価が事業の取捨選択につながらない現状を改革するため、先般開催された定例会で行政評価の手法刷新を提言しましたが、同時に組織全体におけるコスト意識の向上や「事業を終わらせる判断基準」の策定等、多種多様なアプローチが必要となります。

これらを念頭に、今後北区はどのように事業の優先順位をつけ、実施する事業と廃止する事業を決定するのか、見解を御教授ください。

財政課:事業実施の考え方については、事務事業評価による「事業課長の方針」をはじめ、社会情勢や区民ニーズを踏まえた事業の重要性や区民生活への影響の度合い、計画事業等への位置付けのほか、特定財源の有無なども勘案しながら、施策の優先度を判断し、予算編成を行っています。

また、歳出需要に見合った財源の確保は非常に重要な課題と捉えており、引き続き、不断の努力を行うことはもとより、枠配分による予算手法の徹底を図り、職員一人ひとりのコスト意識も高めてまいります。無駄と非効率的な部分を排除し、事業の新陳代謝も図りながら、さらなるスクラップ・アンド・ビルドの考え方を踏まえた予算編成に臨んでまいります。

北区産業活性化ビジョンの改定について

さいとう尚哉:次に北区産業活性化ビジョンの改定についてについて質問いたします。現在北区では『北区産業活性化ビジョン行動計画第3期』を策定中ですが、産業振興課のリーダーシップのもと多種多様なアップデートがなされることを大変頼もしくおもいます。一方、これまでの行動計画に記載されている政策のほとんどが短期的・小規模・補助的であり、「北区に成長産業を誘致する」「北区で新規産業を成長させる」というダイナミックな産業振興戦略については記載がありません。

ダイナミックな産業振興戦略を検討するには『北区産業活性化ビジョン』そのものを改定する必要があるとかんがえていますが、計画期間が「概ね10年」とされていることから次回改定時期は2028年となります。一方、めまぐるしく産業構造が変化するなか、2028年まで現行の『北区産業活性化ビジョン』をそのまま維持するこがふさわしくない場合も想定されます。これらを念頭に、山田区長の任期期間中に『北区産業活性化ビジョン』を改訂することを御検討いただきたいとおもいますが、見解を御教授ください。

産業振興課:区では今年度、北区産業活性化ビジョン2018の具体化を図るものとして、第3期行動計画の策定作業を進めてきたところですが、先日開催した産業振興会議におけるご意見・ご指摘等を踏まえ、ビジョンの改定時期の前倒しの検討を始めています。

インバウンド観光戦略について

さいとう尚哉:次にインバウンド観光戦略について質問いたします。先日、米国出身の友人と赤羽一番街を訪問し、赤羽一番街ならではの居酒屋や小料理屋で食事をしたところ、「ローカルな体験ができた」と感激していたことが印象的でした。日本人の「日常の体験」が外国人旅行者の「かけがえのない体験」になりうることを実感すると同時に、北区のポテンシャルを再認識しました。

日本政府観光局の統計調査によると、外国人旅行者数は2000年の約476万人から2019年の約3,188万人へと急増しており、新型コロナウイルス感染症による影響からも回復基調にあります。こうしたなか、過去北区は『北区観光振興プラン』において「外国人旅行者への魅力発信の強化」を重点施策に設定し、外国語のガイドマップ作成等に挑戦してきました。また、これまでも北区観光ホームページの多言語対応や公衆無線LANの整備、コミュニケーションボードの作成等、多種多様な施策に挑戦いただいてきたことを評価します。

一方、外国人旅行者数を非連続的に増加させるためには、これまでの施策だけでは不十分な可能性もあります。訪問数が限定的なオウンドメディアの多言語対応や、現地でしか利用されない公衆無線LANの整備等は、外国人旅行者の意思決定プロセスにそれほど影響をもたらさないからです。この際、民間事業者等と連携して外国人旅行者を対象にしたデスティネーションマーケティングを本格始動すべきだとおもいますが、見解を御教授ください。

産業振興課:区では、北区観光振興プランに基づき観光施策を推進しているところですが、アフターコロナ時代のインバウンド需要の回復を踏まえ、インバウンド観光を経済活性化の視点から考える必要があると考えております。したがいまして、さきほど申し上げた産業活性化ビジョンの改定のなかで、インバウンド観光の位置づけや事業手法について検討を進めていく考えです。

デザインの有効活用について

さいとう尚哉:最後にデザインの有効活用について質問いたします。民間ではデザインを有効活用することで顕著な成長を実現してきた企業がたくさんあります。例えばiPhoneやMacBookを開発したAppleは、創業者の哲学にもとづいた卓越したデザインにより、世界でNo.1の時価総額を記録する企業になりました。サイクロン式掃除機や羽根のない扇風機を開発したDysonは、競合他社の製品にはない洗練されたデザインにより、市場における競争優位性を獲得してきました。本年3月にマッキンゼーが発表した『経営におけるデザインの価値』にも、デザインの卓越性と企業業績には相関関係があることが示唆されています。

さて、デザインは民間だけでなく行政においても重要な役割を果たしています。例えば福岡市公式LINEは政令指定都市のなかでNo.1の登録者数を記録していますが、その背景には緻密に設計されたUIデザインがあります。板橋区立中央図書館は移転により利用者数を35万人から80万人へと増加させましたが、優れた空間デザインがこれを後押ししてきました。また、圧倒的な人口増加率を記録している流山市は、洗練された駅前環境が全国的に話題ですが、これも実績豊富な建築事務所のランドスケープデザインによるものです。これらの事例はいずれもグッドデザイン賞を受賞していますが、北区にも北区立中央図書館やキッズタウン東十条保育園等、多数の受賞実績があります。ヌーヴェル赤羽台もそのひとつですが、再開発から約10年経過した現在でもファミリー層等から支持されており、デザインの可能性を実感できます。

民間では「デザイン経営」という言葉があるように、デザインを経営戦略の根幹に位置づけていることがありますが、自治体がデザインを行政運営の根幹に位置づけていることは稀です。一方、デザインを行政運営に活用していく機運が高まりつつあることも事実で、例えば佐賀県は県知事がトップダウンで「さがデザイン」を新設し、佐賀県庁の多種多様な活動にデザインのアプローチを応用しています。また、横浜市はDXを推進するにあたりデザイン思考を重視しており、デザイン思考についての研修を組織全体で実施しております。

北区の場合、行政運営にどのようにデザインを有効活用していくか、現段階では特段方針等は定められていないものと認識しています。そこでまずは、行政運営におけるデザインの重要性についてどのように認識しているか、見解を御教授ください。

区長:私は、日本の行政にデザインアプローチを取り入れるという経済産業省の取り組みに、兼ねてより着目しており、「真に区民のための北区」を実現するため、常に、区民目線で政策・サービスを創り上げる「デザイン思考」を区政に導入、定着させていく必要があると考えてきました。そのため、区長就任後、経営改革プランの改定において検討を指示してきたところです。既に、ご紹介いただいた佐賀県の「さがデザイン」の現地視察や「さがデザイン」の立ち上げに携わった民間クリエイターの方と、双方のお話なども直接伺ってまいりました。視察やお話を伺う中で、今の区民や区政が抱える複雑な多くの課題に対して、デザイン思考による政策設計アプローチで、区民ニーズの本質を的確に捉え、既存の価値やアイデアに囚われずに、徹底的に区民や事業者に寄り添ったサービスを届けるという考え方は、非常に区政にとって有効性が高いものと改めて認識を持ったところです。

現在、デザイン思考を政策に取り入れていくため、職員の意識改革や組織的な継続性への担保なども含め、検討を進めている段階です。あわせて、区内事業者への「デザイン経営」支援についても、産業振興施策の中に位置づけていく方向で、既に、検討を進めております。デザイン思考により、今まで以上に区民ニーズを的確にとらえ、事業構築に反映させていき、ひとに寄り添い、豊かさや幸せを生み出すやさしい区政の実現を目指してまいります。

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