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Thoracoabdominal Injury 〜まさかっっ。〜
先日経験した
上記症例の共有をしたいと思います。
そもそもThiracoabdominal injuryとは
「この位置の損傷は胸も腹もあり得る」
というものです。
上の写真の位置
前面→第4肋間から肋骨弓下
側面→第6肋間から肋骨弓下
後面→第8肋間から肋骨弓下
Landmarkは
前・側面→乳頭レベル
後面→肩甲骨
と覚えると簡単です。
また今回は症例のみならず、
共有したい結論を先に言っておきます。
それは
「患者は逃げるが、犯人は追う。」
(当たり前だけど)
だから
「創部が一つだからと言って、損傷が一つとは限らない。」
です。
深夜0時以前の受傷
他人にナイフで刺された患者さん。
他院に搬送され、
紹介時ショックバイタルで昇圧剤を使用。
Stab woundは
・右前胸部
・右背腹部の2箇所
胸部Xpでは左血胸あり
胸腔ドレーンを挿入し、
前医では700mlほどでした。
これくらいしか情報はありませんでした。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132513041/picture_pc_85f623ed155e05e03f1d543d3d24875e.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132513032/picture_pc_58be9b86654275534e49f0919606369f.png?width=800)
この時点で「?」だったのは、
なぜ右の傷だけなのに、
左血胸があるのか、
ということ。
この時点では写真の撮り忘れで、
胸腔ドレーンの保護ガーゼで
創部が隠れているのかな、
くらいにしか考えていませんでした。
。。。
搬送にはかなり時間がかかりました。
心停止には至っていませんが、
来院後もショックバイタル持続し、
昇圧剤2剤を使用していました。
胸腔ドレーンからは合計3,000mlの出血あり、手術の方針としました。
左Anterolateral thoracotomyを施行。
パッと見ただけでは分からなかったですが、
流れる血液の上流を追い横隔膜を避けると、
出血源が見つかりました。
患者さんは右背部から刺されたものの、
Tractは左側に向かっていました。
そして左肋間動脈背側の損傷から
血胸を来したと判明しました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132513360/picture_pc_f570c58576ba4f7ff475a690ed562324.png?width=800)
ただ、この肋間動脈損傷、
背側で縫合しづらい。。。
結局縫合をトライするも、
腹腔鏡で使用する
医療用クリップを使用し結紮しました。
凝固障害もあったのか、
じわりと出てくる出血が
なかなか止まりません。
ここに止血剤を使用し、
しばらくガーゼパッキング。
ここで落ち着いて
Damage Control Thoracic Surgery (DCTS)に切り替えるか、
ということが頭をよぎります。
術者に話しますが、
「これはPenetratingであり、止血できていれば閉胸するよ」と。
*DCTSの症例もシェアできたらと思います。
出血が収まっていることを確認できました。
その他の損傷がないかも確認します。
横隔膜にも非全層性の損傷を認め、
2-0 Proleneで縫合閉鎖します。
閉胸。
めでたしめでたし。。。。
しかしこれでは終わりませんでした。
こちらの病院では
外傷性低体温を認める場合、
ある程度復温してからICUに戻ります。
その時間帯、通常であれば血圧も安定し、
昇圧剤もどんどん減っていくと
予想していましたが、
全くそんな様子はありません。
むしろ
血圧は安定せず
腹部は膨隆し、嫌な予感がします。
再検査の結果、
FAST陽性(心嚢液+、腹水+)
という新たな所見があります。
追加手術の方針となりました。
まずMedian sternotomyを施行。
心臓背側(左室)に小孔あり。
背側に小さめのSwabを
何層にもなるように挿入し、
縫合しやすいように心臓を挙上します。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132513358/picture_pc_db8864fad48e0f2f5ce4e4e0f025e26a.jpg?width=800)
*教科書にはこれに加え、
アリス鉗子で心尖部を持ち上げると
記載がありますが、
心臓が裂けてしまうことがあり、
こちらの病院では
あまり行わない手技のようです。
続いて開腹手術に移行します。
腹腔内血腫はほどほど(1000ml)に、
左Zone 2に血腫あり。
Mattox maneuverを行って血腫に飛び込むと
左腎臓上極と左腰椎静脈が損傷していました。
静脈は結紮
腎臓はGrade2で縫合しPacking
胸骨は閉鎖しますが、
全身状態を考慮し
腹部は一時的閉腹としました。
。。。
この症例から学んだこと
1. 患者は逃げるが、犯人は追う
→本気の犯人は逃げる患者を追うため、刃物が傷口から出ないで複数箇所刺される事がある。1箇所と断定しないで、疑いの目を持ち続けることが大切。
2. Wound lip
→皮下組織が見える方向から刃物は刺入し、皮膚しか見えない方向に向かって刃物は向かっている。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132513618/picture_pc_c4ba0b3be02ed4de341fc56c2a7fbc48.png?width=800)
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/132513589/picture_pc_6cf3cdd02ed5552dd5140ecc0be1a73f.png)
3. 心臓は3 Layer、全層性に縫合が必要
→特に左室はBig Needleで。
Partialな縫合では仮性動脈瘤形成する。
「左室は厚い、恐れず行け」
今回は
最初の左開胸の際、
心嚢も見て血液はないと見えていましたが、
見ていたつもりになっていました。
よくある「つもり」
これは大いに反省です。
また上記知識があれば、
より疑いの目で
患者さんを注意深く
観察し続けられたと思うと、
知識は大切です。
心に刻みました。
こういった反省症例こそ次に活かします。
また反省症例をあえてシェアすることで
日本の外傷患者の治療成績が
Upしてほしいと、
思ってます。
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