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外傷外科医の遊び

外傷外科医たちが一度集まれば、
「こんな症例がうちの病院に来たんだけど、君ならどうする?」
って話で盛り上がる。
これが外傷外科医の会話である、と上司から語られてきました。

しかし日本では外傷も少ないので、
「もしもこんな症例が来たら、どうする?」
って自分でイメトレ(妄想症例)をすることもあるし、
また妄想症例の話で盛り上がることができる、
これが真の外傷外科医であると。

これを私は勝手に
「外傷外科医の遊び」
と呼んでいます笑

私は男子中高卒であった影響もあり、
当時妄想力を鍛えに鍛えていた私ですが、
(何の話?笑)
その妄想力がようやく身を結んだという、
今回はそんなお話です。
(?????)

先日こんな搬送症例があると、
ケータイがピロリとなりました。

左側胸部を銃で打たれた若年男性。
Exit(弾の出口)は見当たらない。
前医で挿入した左胸腔ドレーンから1000ml出血あり。

血圧が下がっていて重症感が漂います。

こんな症例が1時間半かけて搬送させてくることを知り、
夜中に病院へタクシーで向かいます。

・・・
残念ながらこの患者さんは病院到着前に亡くなってしまいました。

しかしこれだけでは終わらせません。
次回に活かすために、
この症例についてタクシーに乗っている時、
病院に着いてから考えていたことを、
現在見学に来ている日本人医師に
翌日シェアしたいと思いました。

翌朝、彼に簡単なプレゼンテーションを行い、
次の絵(胸部レントゲン画像)を示しました。

いずれも左側胸部・第4肋間周囲から銃弾が
刺入していると仮定しています。
画像は3パターンで、それぞれバイタルサインや血胸の量などで、
複数のシチュエーションを想定することができます。

例えば①

心嚢液貯留がある症例で、
かつ胸部Xpでは胸部の中心に銃弾がある。
心損傷が疑われ、かつ軌道から肺損傷も疑われます。
*心臓の中に銃弾が見つかるなんて日本ではかなりレアですが、
アメリカや南アフリカでは遭遇する可能性十分あるだろうな。。。

では①で、かつ
・左ドレーンからの出血量 500ml
・収縮期血圧 100mmHg
だったら、どうしますか?

考える時には、まず出血源はどこがメインであるか、を考えます。
この症例の場合、心膜も損傷している為、心臓から左胸腔に
血液が流れていてもおかしくはありません。
つまり肺からの出血量は少なく、心臓からの出血がメインである
可能性もあります。
肺からの出血であれば、ドレーンで粘れるかもしれない。
なのでSternotomyを選択するかな、と考えます。

では①で、かつ
・左ドレーンからの出血量 1,500ml
・収縮期血圧 70mmHg
だったら、どうしますか。

うーん、出血源のメインは
肺からの出血なのか、
心臓からの出血なのか分かりませんよね。

また血圧も低く、あまり猶予もなさそうです。
この場合であれば、
Clamshell incisionの適応があるかな、と思います。
Clamshell incisionは侵襲度がかなり高いのですが、
この症例にはこうしなければ
救命できないのではないか、と考えるためです。

*Clamshell incisionは両側胸部と心臓が全て見えるのですが、
凝固障害がある状態だと、肋間筋からの術後出血が相当であるため
「諸刃の剣」とも言えますのでご注意を。
*実際Anterolateral incisionでも凝固障害があると1,000ml単位で出血した経験があります。
*ClamshellのClamはクラムチャウダーのクラムです。
 胸が貝のようにパカッと開きます。

それでは②の画像所見だったら場合はどうでしょう。

どんな損傷部位を考えますか。
FAST陰性だし、大動脈は?食道は?

どれでは③の画像所見だったらどうしよう?

組み合わせで複数回楽しめます。
「同じ外傷症例など一つもない。」
と言われる所以です。

こんなことを考えながら、外傷外科医は生きています。
以上、外傷外科医の遊び、を紹介しました。

【追記】
これは勉強になります。

https://www.facs.org/for-medical-professionals/news-publications/journals/case-reviews/issues/v2n6/laytin-hemodynamically/

妄想として、銃弾が右胸部に抜ける症例も
考えてみたら、更にいいかと思いました。

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