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Penetrating Neck Injury

あのー、トップ画なんですが、
先日ダウンロードした生成AIにタイトル通り
「Penetrating neck injury」
って入れて出来た画像です。

損傷ないやん!笑
それとも両側ともガーゼ保護してるんか?笑

はい。

昨日日本の外傷メンバーとの
多施設カンファレンスがありました。
このカンファレンスは
定期的に3ヶ月に1回程度、開催されます。
帝京大学、大阪市大、倉敷中央を中心に
個人参加も複数ありました。

症例は鋭的(Penetrating)頸部損傷でした。
途中参加ですが、
勉強になったことをシェアします。
※受傷機転や写真も全く見ないで質問され、
見当違いな発言をしてしばし赤面してました笑

受傷から10時間以上が経過して
搬送された患者さん。
血圧は保たれていますが頻脈あり。
刺された頸部から出血している様子はない。

CTでは
頸部に皮下気腫、後縦隔に液体貯留あり。

この時点で演者から質問があります。
「何を疑い、どうActionに移しますか?」

外傷の場合は時間との勝負。
できる検査が限られていることも多く、
検査不十分で手術室に向かわざるを得ない事も多いです。

さて、一旦この質問は置いておいて、
鋭的頚部損傷(特にZone 2)のマネージメントについて。

まずその位置によって解剖学的重要構造が異なるため、部位を3つに分けます。




また臨床的に
重症度分けや
疑う損傷臓器の鑑別に有用な
《Hard sign, Soft sign》
という言葉もあります。
*今回は紹介までに。



最近は刺入部と損傷部の違う症例があるため、Zoneを分けて戦略を考えなくてよいのでは、という意図の論文も出てきているようです。

ただし初学者はまずこのZoneを分けて、
損傷臓器を考えるということは
非常に重要だと思います。

続いて、鋭的頸部損傷で怖い損傷は
主に3つに分かれます。
血管損傷、気管損傷、食道損傷です。

そして鋭的損傷の怖いところは、
CTで血管損傷がないと判断しても
完全に否定できないことです。

なので、広頸筋の損傷があれば、
手術室で創を広げ、
刺入部からのTractを追いかけ、
損傷があるかないか、
確認するのが良いとされています。

Penetratingの場合、
血腫をかき分けかき分け、
その先にわずかな損傷を認める場合があり、
見逃し損傷もあり得ます。

もし血腫があれば、
損傷があるものとして対応した方がよいです。
*これ重要、《Think the worse scenario!》

ただし本当に血管損傷がある確率は、
実はそこまで高くないです。
実際に世界的にはSelective wound explorationということも
行われているようです。

*広頚筋の損傷があっても、
Hard sign, Soft signに加え、CT所見で、
創部を開け臓器を見に行くかどうか決める戦術

しかし
日本で鋭的頸部損傷を
そこまで頻繁に見ることはない
(海外医師に比べ慣れていない)
事を考慮すると、
広頸筋の損傷があれば手術が望ましいと、
個人的には思います。

*論文で言われていることと、
自分たちのバックグラウンドを総合的に考え、適応を考えるのが望ましいかと思っています。
(*これ、重要)

さて、一旦解説はおいておき、
質問に戻りましょう。
皆さんなら、どうしますか。

気管支鏡
食道内視鏡
気管挿管の有無
手術
経過観察。
どうしましょうか。

演者たちは嚥下造影を選択しました。

ただ私の意見は
「まず気管挿管。
手術室に連れて行くが、
その後バイタルサイン次第。
バイタル悪ければ手術、
猶予があれば手術室で
気管支鏡や食道内視鏡を術前に行いたい」
と思いました。

なぜなら前述しましたが、
日本という環境であれば手術で損傷部位を確認するべきであり、
そうであればいつかは挿管する。
それならば早くに気道確保してしまった方が
安全であるからです。
(私のお師匠様からも損傷はあるものとしてまず考えるべきである、というコメントがありました。)

手術のタイミングについて
ショック徴候があると判断するのであれば、
手術に直接Goが妥当です。
なぜならTract(刃物の通り道)を追えば、
大抵の損傷は見逃さないから。

術中に唾液が漏れている所見があれば
食道損傷を疑います。
そこまで派手でなくても疑う所見があれば、
術中内視鏡を追加して
食道損傷を見つけにいく、
というStrategyのが良いでしょう。

ただしショック徴候がなければ検査をしてから手術が良いと思いました。
術前に手術室で気管支鏡+上部内視鏡検査なんて贅沢でしょうか?

気管損傷については
気管支鏡で評価するのが良いです。
ただし頭側の気管損傷であれば、
挿管チューブに守られて、
自然治癒することもあります。

食道損傷については
食道造影と食道内視鏡で評価します。

この2つに優劣はありませんが、
慣れの問題や施設内のAccessibilityに
よるかなと思います。

今いるコンケンは
外科医が内視鏡をするので容易ですが、
日本で私の所属する施設であれば
消化器内科医を呼ばなければなりません。

食道粘膜側の血腫は、
内視鏡でしか確認することのできない
損傷もあります。
いわゆる微小(Minor)な食道損傷です。

上記が
可能であれば検査してから手術した方がいいのではないか、と
思う理由です。

ただしなんでも検査できる状況ではないので、
代わりに術中に
・胃管の先端を損傷を疑う部位に持ってきて送気してみたり
(創部を水で満たしておく)、
・インジゴカルミンを混ぜた水を胃管から流して創部から漏れてくるか観察する、
なんて方法で食道損傷の有無をチェックする
事があります。

さて、実際の症例はどうだったのか。
嚥下造影中に血圧低下したため、
手術室にGoしたようです。

頭部を右側に曲げ、左胸鎖乳突筋前縁で切開。
食道を見に行こう、
そう思うとダーっと出血が。

結局
左内頸静脈損傷あり(結構な孔でした)、
食道損傷なし。

CTでは
食道損傷疑い、
血管損傷なし、
だったのに。
CTにも限界がありますね。

術前からショック徴候があったのは、
現時点で出血がなかったとしても、
現場で大量出血して血餅で蓋がされている
場合があります。

なので、救急隊によく現場の話を聞くことで、
危険を早期に察知できると思っていますし、
自分としても意識して聞いている事です。

またMentorからの指摘としては
①皮切は大きく思ったより大きくないことがほとんどだ。
②食道損傷があれば、縫合後にFlapを当てるべし
との追加の教えがありました。

いつも興味深い症例提示がありますし、
各施設設備や背景も違うので、
同じ損傷疾患を想定していても
マネージメントが変わる事、
これを聞けるのが
多施設カンファレンスの醍醐味でもあります。

若手外傷外科医の輪を
今後とも広げていきたいと思っています。

個人でも
外傷に興味があって次回誘って欲しい、
という人がいましたら、
遠慮なくおっしゃってください!

それではまた。

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