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2021年振り返り 〜苦肉祭との出会い〜

 年末に至るまでずっとnoteの更新が途絶えていました。書きたいことはいっぱいあるのですが、何かと忙しい時期でもありなかなか書き出せずにいました。

 でも年の瀬ともなると、世の動きに浮かれて今年を振り返りたくもなるものです。その勢いのまま記録を書いていましたが、書いている間に先ほど年が明けてしまいました。なんとも間抜けなタイミングですが、記事を上げたいと思います。

2021年の思い出

 2021年。例年にも増してお笑い鑑賞に明け暮れました。空前のお笑いブーム、価値観の変容、POISONの活動休止、GERAラジオとの出会い、M-1きっかけで現役NSC生コンビにドハマりしたりと、色々なことがありました。

 その中でも大きかった出来事があります。

 CafeCOMADO、そして苦肉祭との出会いです。

シルキーラインを知る

 2021年6月。公に活動休止が発表された永遠の最推しに心の中で別れを告げ、新たな身の置き場を探そうと、気になる芸人さんの横のつながりを追っていくうちに、ひょんなことから知ることになった”シルキーライン”というコンビ。

 昨年解散したこのコンビが、長年浅瀬でちゃぷちゃぷしていた私を一気にディープなお笑いワールドのマントル付近まで引き寄せるきっかけとなりました。

「このコンビのコント、きっとnaoさんは好きじゃないかな?」

 と、友人に勧められるがままに見たものが、youtubeの「命の定員」というコントでした。

 スタイリッシュな二人によって軽快にテンポ良く進んでいく物語。謎かけのような知的さと、ブラックさを併せ持ったその世界観に、友人の見立て通り私は強く惹き込まれます。

(シルキーライン?思い返せば過去に拝見している。数年前に新宿プーク人形劇場で、米粒写経のサンキュータツオさんとトリオで漫才をしていたコンビか…?)

 しかしネタの内容すら朧げな記憶はもう当てになりません。コンビはもう解散しているし、広大なインターネットの海からネタ動画を見つけるということも出来ませんでした。元オフィス北野、TAPという事務所についても、私は殆ど知識を持っておりませんでした。

 お笑いファンの中でも、解散したコンビを後から追いかける人間など希少な部類に入るのでしょう。しかし情報が無ければ無いほど追いたくなるのは性分です。ということでyoutubeに80回ほど残っていたシルキーラインのラジオを、片っ端から聴いていくことにしました。Twitterも活用して、二人の芸風や雰囲気、現在の活動状況を調べました。

 その最中、服部さんはカフェで働きつつ”ボタニカルアーティスト”という謎の肩書を名乗っていて、広田さんは新たに”おりはべり”というコンビを組んで活動する傍ら、ピンとしては『苦肉祭』というライブに出ていることを知りました。

Cafe COMADOとの出会い

 その服部さんの働いているカフェというのが、最近とてもお世話になっているCOMADOです。

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 新宿6丁目にある小さなカフェ。普段は美味しいスイーツやアルコールなどが頂ける他、定期的にお笑いのイベントや交流会が開かれています。

 どんなイベントなのかは、過去記事を参照して頂ければと思います。

 寄席は毎月2〜3回開催。来月の寄席も行く予定です。

苦肉祭との出会い

 そして、服部さんも過去に出演されていて、現在も広田さんが定期的にピンで出演されている、珍妙な名前のライブに私は非常に興味を惹かれました。

 『苦肉祭』…?

 前述の通り、お笑い界の浅瀬でちゃぷちゃぷしていただけの私は、この祭りのことなど見たことも聞いたこともありませんでした。

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 フライヤーが怖いメンバーが凄まじく濃い。思想が強そう。

 けれど自分ももう三十も半ばです。子どもも二人産んだし、度胸もつきました。未知の世界への恐怖心よりもそこに飛び込んでみたいという好奇心が勝りました。

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 そんな経緯で、苦肉祭におそるおそる足を踏み入れたのは、まだ残暑の残る9月の神保町のらくごカフェ。

 小さくて可愛らしいカフェにドカーンと高座が置かれ、客席は満員。会場は観客と演者が入り混じりながらひしめきあっています。

 客層は今までに私が通っていた劇場とは違い、男性客が多い。年齢層は高めですが若い方も居ます。自分が如何に『お笑いファンとはこういう人たち』だと、乱雑に一括りにしていたかを痛感した瞬間。

見たこと無いパフォーマンス

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(9/29のこの日、大好きなひがもえるさんは欠席でした。残念。)

 祭りは何のオープニングトークもなく唐突に開演します。トップバッターで出てきたのはルサンチマン浅川さん。

 …ん?ルサンチマン?知ってるぞ!2006年のM-1で準決勝に出ていたコンビだ!今は何をしているんだ?

 悲しいことに相方のよしおさんはお亡くなりになり、遺された浅川さんは速読を売りにする芸人として一人で活動されていた。十数年ぶりに見た。そしてピンなのにいきなり、圧が凄い。なんの小道具も無し、喋り一本。ピン芸ってフリップとか、裸芸とか、もっとテクニックを駆使してやるものじゃないの?という偏見があった私はしょっぱなから度肝を抜かれる。

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(後に購入しサインを頂いた浅川さんの速読本。通読したものの未だに速読の技は身に付けられていません。)

 圧倒されるがままにお祭りは進みます。2番手は、ボクシング世界スーパーフライ級チャンピオン「渡辺二郎」さんに習い、「割鍋閉郎」という謎の芸名をつけられて登場した、元アマチュアボクサーの広田さん。「あなたはこれを笑えますか?」と問われているなのような、タイムリーでスパイスの効いたネタが、パンチを繰り出すかようにテンポ良く、小気味の良い語り口で展開されていきました。

 お次に拝聴したのは街裏ぴんくさんの漫談。美しく流れるよう話芸にうっとり聴き入りながら、ファンタジーと現実のはざまを彷徨う。妄想だとか現実だとか、そんなことはどうでも良い、楽しければ、笑えれば、それで良い。…かと思ったら次の瞬間、還暦近い芸人さんが真っ白な冷蔵庫に扮して、粗削りなギャグを披露している。笑わなければ笑うまでやる。それはまさに捨て身、岩壁から海に飛び込んでゆく姿のように見えました。

(ここに居る人たちは小細工なし、話芸のみ、身一つで勝負しているのだ。みんな捨て身なんだ。) ライブも中盤になって私は理解し始める。

 KOCではマンプクトリオで大活躍、「なんだよ、笑えるんでねぇの」と、独特の哀愁を漂わせながらガハハと豪快に笑うしゃばぞうさんのストーリーに大いに笑う。しゃばさんの漫談は、泣けるようで、泣けない。哀愁と笑いのバランス。横須賀歌麻呂さんの、並々ならぬ熱量が伝わる人生をかけた下ネタ芸。他のどの会場でも耳にしたことがないような卑猥な単語で飾られた横須賀歌麻呂さんのフリップ芸が披露されると、ドス黒く響く男性の笑い声、未だかつて体感したことがない空気に痺れました。

 お触り禁止のタブーを高らかに歌い上げる三平×2さんの度胸に惚れ惚れとする。やはり旬のものは旬のうちに消費するのが一番美味しい。三浦マイルドさんの可愛らしい笑顔から放たれる強烈に際どい話芸は圧巻です。私はマイルドさんに関しては完全にワーキャーファンであります、「伯父貴~!!!」と団扇を振りたいくらい。息も絶え絶えになりながら祭りは進んでゆきます。

 謎かけ名人として名高いねづっちさんの高等なテクニックに息を呑む。穏やかな物腰、唯一無二のテンポの取り方。M-1予選で多数の芸人さんがネタに取り入れるのも納得のカリスマ。苦肉祭の永遠の兄貴ユンボ安藤さんの独特の立ち振る舞いに、「格好いいなあ…」という感想が思わず口をついて出る。天才的なワードセンスにこれでもかと打ちのめされます。万を辞して登場した日本有数のスタンダップコメディアンである清水宏さんの圧倒的な存在感といったら…!こんな芸が世の中に存在していたなんて。

 トップからここまで、一秒たりとも目も耳も離せない時間が続いておりました。大トリで出てきたのはもちろん、”大本営八俵”こと、米粒写経の居島一平さん。

 歴史の授業を全て寝て過ごしていたような自分には、この方の話は高尚過ぎる、きっと全く分からないだろうと踏んでいたのですが、いざ体感してみると、分かるとか分からないとかの話ではなかった。

 「いいから俺の話を聴け~~~!!!」

 と言わんばかりの眼力、全身の圧力で、有無を言わさず客人を次々と話に引き込んで虜にしていく。会場ごと乗っ取られる。全身が震え上がる。魂ごとぶちまけるような凄まじいパフォーマンスに、己の中の魂の存在を感じる。

帰路

 たった一人でも濃すぎると思うような極上の話芸のオンパレード。それは、当時の私には、少しばかり刺激が強すぎる体験でありました。

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 ライブが終わってからもなかなか熱が冷めやらず、夜中の神保町の街をフラフラしながら余韻に浸る。こんなに面白く、ディープで、捨て身で芸に挑んでいる人たちを、何故今まで知らなかったのか。自らを恥じる気持ちと、苦肉祭メンバーのことをもっと理解したい、近づきたいという羨望が入り交じる。「心ここに在らず」という有り様でした。乗り慣れた地下鉄も反対に乗ってしまうほどに。

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 ふだん30分で帰れる道程を1時間以上かけて帰った。

 そのような苦肉祭との出会いは、2021年でもトップクラスに印象に残る出来事でした。

 当初すぐにレポートを書く予定ではあったのですが、観た直後はなかなか己の気持ちを客観視することが出来ず、記録を書けるような状況にありませんでした。今もまだ思い出しながらキーボードを打つ手が震えているくらいです。

 苦肉祭は流浪のライブ、決まった場所ではなく、いろいろな場所で開催されているようです。

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 この年末は新宿のシアターブラッツの苦肉祭に行き、最高のライブ納めをさせていただきました。苦肉祭のネタは内容的に流出禁止、舞台でしか観られないし、舞台で味わえるもののなかでもトップクラスに刺激の強いパフォーマンスだと思います。

 敷居は高いですが、確実に魂を動かされるライブになると思いますので、気になる方は毎月29日に是非足を運んでみて下さい。次回は200回の節目を迎えるとの事。

(私のイチオシは体にわかめを携えたひがもえるさんです。並々ならぬ狂気を感じる最高の芸人さん。)

 小さな会場で交わされる演者とお客の秘密の契り。2022年、未知の世界に飛び込んでみませんか?


 

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