sa46t/m46e I-D執筆

I-D執筆まで

特許出願が2000年6月16日で、I-Dを提出したのが2010年2月2日と、実に10年間の時間がありました。今、この文章を書いていて、10年間という長い時間をしみじみ感じています。 10年前に考えた技術を提案しようというのですから、ちょっと信じられない気もします。が、しかし、これが事実です。

I-D執筆の動機

この10年の沈黙を破る契機になったのは、総務省インターネット政策懇談会第9回の、NGNにおけるIPv6提供方式に関する検討結果です。資料によると、この会議は、2009年2月16日に開催されたようですが、以後、NGNでのIPv6収容方式が話題になるようになりました。

技術を考案したのは2000年頃ですが、その頃は、NGNという言葉は無かったと思います。NGNという言葉をはじめて聞いたのは、いつ頃か忘れてしまいましたが、IPv6 onlyの閉域網であるということは気になっていました。検索してみると、サービス開始が2008年3月ですので、その頃は、まだ、ISPとの接続は行われていなかったようです。その後、「案1、案2、案3」と聞かれるようになり、そして、「案4」が追加される動きは、注目していました。

注目の理由は、もうお分かりの方もいらっしゃるかもしれませんが、NGNはIPv6 only網で、ISP接続の案は、IPv6のみを対象にしたものでした。すなわち、ISP接続のIPv4の巻き取りは、考えられていないように感じていました(考えられていて、私が存じなかっただけかもしれません)。sa46tは、IPv6でIPv4を巻き取る技術で、しかも、膨大な多重化が可能なので、多重化識別子をISP毎に割り当てたとしても、十分賄えると考えたので、もしかしたら、NGNでIPv4を巻き取ることに、この技術が貢献できるのではないかと考えたのです。

本来、貢献できるか否かの検討は、自身で調査して、自分なりに検討するものと思いますが、NGNでは、公開されていない情報も多く、公開情報を元に検討するのは無理そうに感じました。そうであれば、こちらの技術を開示していくしか方法が無いと感じました。

それ以前に、自身のアイデアが、本当に提案に値するのかにも、一抹の不安感を感じていました。技術者たるもの(技術者に限らないかもしれませんが)、何かアイデアを思いついて、俺って天才かもと密かに思うものの、翌日、やっぱそんなわけないな、だって俺だし、と落胆するような経験は、1度や2度あるのではないかと思います。 sa46tについては、上記の通り貢献できるかもと思いましたし、提案に値しそうな気もしていたのですが、自分のアイデアですし、確信に至りません。となると、詳しい方から意見を頂けないかと思うわけですが、当時は会社勤めをしていたので、情報の開示には、それなりの手続きが必要になり、それを、I-Dの提出の手続きで行おうと考えました。

そこで、I-Dを執筆することで、腹を固めました。

技術名称

I-Dを書く、すなわち、IETFに標準化提案するにあたり、技術の名称を決める必要があります。色々考えた筈なのですが、忘れてしまいました。名称は、stateless automatic IPv4 over IPv6 Tunneling(SA46T)です。状態を持たない自動IPv4 over IPv6トンネル、という非常に単純で素直な名称だと思います。

もう一つ悩んだのは、多重化識別子に、どのような名称をつけるか。ここは、plane-idとしました。planeすなわち、「面」に、スタブネットワークを追加していくイメージを込めました。VPNは、Networkと名づいていますが、むしろ、仮想的なリンク、仮想的なサーキットだと思います。sa46tは、スタブネットワーク、すなわち、面と面を繋いでいく技術ですので、その辺りを意識しました。

I-D執筆・提出

文章は英語ですので、まとまった時間が取れる、お正月休みに、I-Dの執筆をおこない、大部分を書き上げました。

先に、NGNについて記載しましたが、I-Dの記載は、あくまで一般的な技術として行いました。提案のタイミングはNGNを意識してですが、ターゲットは一般的なネットワークであり、そこで、NGNに出会えるかはわからないというような姿勢です。

実は、I-Dは2種類、執筆しました。以下の二つです。

処理を記載したspecに加え、Global SA46T Address Formatも記載しています。この、Global Address Formatの提案は、今思うと、少し大胆だったかもしれません。しかし、SA46Tのprefixは、現実的には、/64で必要十分なので、/64を1個だけ消費するなら、まあ、許してもらえるかもなどと思ったことを覚えています。

いずれにせよ、この2つのI-Dを、2010年2月2日に提出、sa46tはデビューを果たしました。

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