sa46t/m46e 技術考案

動機

IPv6を担当するようになった以後、何かIPv6の特徴を活かした技術を作れないかを意識しながら仕事をしていました。そんな中、2000年頃に、思いついたのが、SA46T(M46E-FP)です。
なお、正確な時期は忘れましたが、IPv4からIPv6への移行には、キラーアプリが必要だと言われていた時代だったと思います。

背景

今、振り返ってみると、以下の2つを意識したような気がします。

  1. IPv4 over IPv6のトンネル技術<br>
    IPv4からIPv6への移行技術は、(1) Dual Stack, (2) IPv6 over IPv4などのトンネル技術、(3) IPv4 - IPv6変換技術の3つの技術が基本戦略と考えられました。これらの議論は、IETFのNext Generation Transition (ngtrans)WGで議論されました。ところで、IPv6の開発において、IPv6 over IPv4、すなわち、IPv4ネットワークを介してIPv6通信を実現するネットワークをIPv6実験網として構築、運用したのですが、いくつかのトンネリングに関する問題というか、課題を感じていました。

  2. VPN(Virtial Private Network)<br>
    2000年頃は、既に、VPNは普及しており、家庭や海外を含む出張先からイントラネットもしくは社内網への接続を、普通の行っていたと思います。確か、この頃は、日本でADSLが選択できる状況が生じていたと思います。家庭での常時接続が現実的になったわけです。また、それまで、インターネットやイントラネットは、専用線や、電話線などの、キャリアの電話サービスのためのインフラをISPや企業が利用して構築されてきましたが、キャリア自身が行うことを前提とした検討が始まりつつあったと思います。今振り返ると、大きな変化を迎えた頃だった気もしますが、イントラネットの企業内通信のIPv4の通信、すなわち、グローバルアドレスではなく、重複が前提のプライベートアドレスを、どう、IPv6で巻き取っていけば良いのかは、ひとつのテーマになりうるのではないかと、なんとなく意識していたと思います。

考案技術の簡単な説明

IPv6アドレスは128ビットあり、これに対してIPv4アドレスは32ビットです。IPv6は、IPv4を包含する十分な空間があるわけです。では、このアドレスに、多重化識別子を組み込めば、包含したIPv4アドレスが、プライベートアドレスであったとしても、IPv6アドレス空間でユニークにできる、ということが発想です。たったこれだけで、単純なものです。特許では、この多重化識別子をVPN番号やVPN-IDと表現しました。そして、このアドレスを前提に、IPv4 over IPv6を行うのが、考案技術です。

余談ですが、多重化識別子の導入により、たくさんのIPv4プライベートアドレスをIPv6アドレス空間でユニークにできるのですから、prefixと多重化識別子とIPv4アドレスの順番はどうでも良いのですが、しかし経路の集約を踏まえると、順番はどうでも良いというわけには行きません。ということで、どういう順番が良いかなと、あれこれ考えたことを覚えています。結論は、Prefix + 多重化識別子 + IPv4アドレス、です。

考案技術の特徴

このようなアドレスフォーマットにより、グローバルアドレスを用いるIPv4インターネットに加え、プライベートアドレスを用いるIPv4イントラネットも、IPv6アドレス空間で巻き取ることができます。Prefixに64bitを割り当てたとしても、IPv4アドレスは32ビットですから、多重化識別子には32ビット割り当てられます。2^32=約43億ですから、十分な空間があると言えると思います。ただし、この多重化識別子をユニークに管理する必要があります。この件は、別途触れることになると思います。

次の特徴は、ISPのエッジにこのカプセル化機能を導入することにより、再起的なトンネルを未然に防げるということです。というのも、トンネルはその仕組み上、再起的なトンネル、すなわち、カプセル化されたパケットが、再度カプセル化される可能性があり、IPv6のカプセル化では、カプセルの上限を制限する機能が追加されていたと思います。

恥ずかしながら、実は、この技術は、IPv4アドレスをIPv6アドレス空間にマッピングする技術が本質で、そのアドレスを用いたカプセル化による、IPv4 over IPv6技術になります。ですので、擬似的なデータリンクを生成するトンネル技術とは異なる技術です。私は、あまりよく考えずに、カプセル化=トンネリングと信じ込んでしまったようで、IETF提案の際、トンネル技術と呼んでしまいました。さて、何を言いたいかというと、この技術は、フルメッシュ接続が前提となり、それが故に、最短経路で繋がりますので、遅延時間が最小になります。

他にもありそうですが、今後、追記します。

特許

アイデアがまとまった時点で、特許出願すべく、明細書の執筆に取り掛かりました。出願されたのは2000年6月16日です。とりあえずは、ここでひと段落です。私は、本当に、特許出願で、この技術を一旦忘れました。IPv4 over IPv6ですので、出番は、IPv6ネットワークが出来上がったのちです。

なお、この特許は、PCTで出願され公開されたのは、約1年半後の2001年12月27日です。その後、2006年9月29日に日本で登録、2009年8月19日に欧州(EPO)で登録、2013年4月16日に米国で登録

メモ

記載を優先するため、記憶を頼りに記載しており、時間を見つけて、曖昧さを取り除き、参照を具体化して明確にしていきたいと思います。誤字脱字も、気づいたら修正していきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?