次期学習指導要領とプログラミング教育

学習指導要領が公示されましたのでタイトルを変更しました.プログラミングに関係するところは案から変更されていないので,本文を変更する必要はありませんでしたが,ほんの少しだけ書き足しをしておきます.

昨日のバレンタイン・デーに新しい学習指導要領の案が公表されました.ICTとの関係を書き留めておこうと書き始めたのですが,意外に時間がかかりそうなので,まずはプログラミング教育のところだけささっと書いてしまおうと思います.

学習指導要領解説を含めて総則の部分について記述した記事を公開しました.こちらをどうぞ(6/30)

総則

 「必須化」で騒がれたプログラミング教育,次期学習指導要領では,まず総則に次の記載があります.

第3 教育課程の実施と学習評価
1 主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
(3) ・・・あわせて,各教科等の特質に応じて,次の学習活動を計画的に実施すること。
イ 児童がプログラミングを体験しながら,コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動
(p.8)

 「コンピュータに意図した処理を行わせる」ために必要な「力」を身につけるために,プログラミングを体験する学習活動を求めています.「プログラミング的思考」という言葉はなくなっていますが,プログラミング教育とは,コンピュータを動かすための力を育てること,そのためにプログラミングを体験させることをはっきりと記載しています.ここをきちんと抑えておくことが大切だと思います.コンピュータプログラミングのための力の育成を考慮していないものや,プログラミングの体験をしないものは(プログラミング教育として)ねらっているものではないということですね.

 一つ気になるのが,プログラミング的思考力に変わって論理的思考力という言葉が使われているところです.論理的思考っていったいなんでしょうか? 数学の世界では帰納的な思考や演繹的な思考とされていますよね.ビジネスの世界では,相手を納得・理解させるために主張に対して妥当な根拠付けをする思考などと言われています.このような思考とプログラミングするための思考がどうつながるのか,まだ私には理解しきれていません.確かにデバッグの時には帰納的思考や演繹的思考が必要になりますが・・・ きちんとした定義のない論理的思考という言葉を使ったからには,文科省としての論理的思考の定義と,それがプログラミングに必要な力とどのような関係にあるのかをきちんと解説して欲しいですね.

算数科と理科

 答申[1]では,プログラミング教育の実施について

・・・プログラミング教育の実施を、子供たちの生活や教科等の学習と関連付けつつ、発達の段階に応じて位置付けていくことが求められる。(p.38)

・・・各小学校において・・・プログラミング教育を行う単元を位置付けていく学年や教科等を決め・・・指導内容を計画・実施していくことが求められる。(p.91)

と,教科等との学習と関連付けることを求め,また,有識者会議の報告書[2]でも,各教科での取り組み方の例が挙げられたりするなど,教科の中での実施が強くメッセージされていましたが,教科の中でプログラミング教育に関する記載は,算数科と理科の「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」の中だけでした(総合的な学習の時間も教科等に含まれるのですが,別記します).

2 (2) ・・・また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第5学年〕の「B図形」の(1)における正多角形の作図を行う学習に関連して,正確な繰り返し作業を行う必要があり,更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと。(p.75)
2 (2) ・・・また,第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,児童の負担に配慮しつつ,例えば第2の各学年の内容の〔第6学年〕の「A物質・エネルギー」の(4)における電気の性質や働きを利用した道具があることを捉える学習など,与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。(p.93)

 両科目ともプログラミング教育の適用例が書いてあります.算数は正多角形,理科は電気の利用をあげています.これらは,私も先日行ったプログラミング教育の研修会[3]で例としてあげたものです.一番わかりやすい例ですね.

 算数の「・・・更に一部を変えることでいろいろな正多角形を同様に考えることができる場面などで取り扱うこと」という記載,これこそプログラミング体験に重要な要素だと思います.「一部」を変数で表現することで,一つのプログラムで様々なものに対応できること,その変数を外部から入力できるようにすることで,いわゆるシミュレータになるというコンピュータのよさを感じるとともに,数学の規則性(定式化)も学ぶことができます.理科の「・・・与えた条件に応じて動作していることを考察し,更に条件を変えることにより,動作が変化することについて考える場面で取り扱うものとする。」も同じですね.

 ただ,「児童の負担に配慮しつつ」という記載,「先生の負担に配慮しつつ」と書きたかったんじゃないでしょうかねw ここを逃げ道にして,多くの小学校で実施がされないことが危惧されます...ねぇ.

総合的な学習の時間と社会科

 先にも書いたとおり,プログラミング教育は教科の中でということが強調されきていましたが,ちまたではやはり「プログラミング教育をやるなら総合的な学習の時間かなぁ」という意見が多かったと思います.私も小学校でのプログラミング教育は「楽しむことが重要」と思っているので,総合的な学習の時間は大きな一つの場だなぁと考えていました.その総合的な学習の時間については「第3 指導計画の作成と内容の取扱い」に次の記載があります.

2 (9) 情報に関する学習を行う際には,探究的な学習に取り組むことを通して,情報を収集・整理・発信したり,情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること。第1章総則の第3の1の(3)のイに掲げるプログラミングを体験しながら論理的思考力を身に付けるための学習活動を行う場合には,プログラミングを体験することが,探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること。(p.163)

 答申にも同じような記載があったのですが,最後の最後に「探究的な学習の過程に適切に位置付くようにすること」とあります.単純にプログラミング体験をするだけではダメということですね.探究的な学習にプログラミングを組み込むのは,教科の中に組み込むのと同じくらい,もしかしたらそれ以上に難しいことかもしれません.さらに,各自治体や学校ごとに総合的な学習にはテーマが設定してあると思うので,そこに合わせるのもけっこう大変でしょうね.

 プログラミングとは直接関係ないのですが,社会科では5学年の「第3 教育課程の実施と学習評価」に,

(4) 我が国の産業と情報との関わりについて,学習の問題を追究・解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
(イ) 大量の情報や情報通信技術の活用は,様々な産業を発展させ,国民生活を向上させていることを理解すること。
イ 次のような思考力,判断力,表現力等を身に付けること。
(イ) 情報の種類,情報の活用の仕方などに着目して,産業における情報活用の現状を捉え,情報を生かかして発展する産業が国民生活に果たす役割を考え,表現すること。(p.38-39)

という記載があります.これは総合的な学習の時間の「情報が日常生活や社会に与える影響を考えたりするなどの学習活動が行われるようにすること」と重なる内容ですよね.また,答申にあったプログラミング教育の目的の一つである「身近なものにコンピュータが内蔵され,プログラミングの働きにより生活の便利さや豊かさがもたらされていることへの理解」に対応するところでもあり,プログラミング教育の要素として重要な点です.そこで,この単元における探究的な学習を総合的な学習と結びつけ,理解を深めるために実際にプログラミングの体験をするというのは,いいんじゃないかなぁと思います.

中学校 技術・家庭技術分野]

 中学校の技術・家庭[技術分野]では,前学習指導要領からプログラミングが入って,現行学習指導要領からは必修項目になっています.今回は「D 情報の技術」として,次のようにぎっしりと内容に盛り込まれました.

(2) 生活や社会における問題を,ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 情報通信ネットワークの構成と,情報を利用するための基本的な仕組みを理解し,安全・適切なプログラムの制作,動作の確認及びデバッグ等ができること。
イ 問題を見いだして課題を設定し,使用するメディアを複合する方法とその効果的な利用方法等を構想して情報処理の手順を具体化するとともに,制作の過程や結果の評価,改善及び修正について考えること。

(3) 生活や社会における問題を,計測・制御のプログラミングによって解決する活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
ア 計測・制御システムの仕組みを理解し,安全・適切なプログラムの制作,動作の確認及びデバッグ等ができること。
イ 問題を見いだして課題を設定し,入出力されるデータの流れを元に計測・制御システムを構想して情報処理の手順を具体化するとともに,制作の過程や結果の評価,改善及び修正について考えること。(p.119-120)

 現行の学習指導要領の

D 情報に関する技術
(3)プログラムによる計測・制御について,次の事項を指導する。
ア コンピュータを利用した計測・制御の基本的な仕組みを知ること。
イ 情報処理の手順を考え,簡単なプログラムが作成できること。

という記載に比べると「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツ」のプログラミングが増えたことがわります.わざわざコンテンツと書いてあるところから考えると,webサービスみたいなものを作るということでしょうかね? 

 また,現行では「簡単なプログラムが作成できること」だったものが「安全・適切なプログラムの制作,動作の確認及びデバッグ等ができること」となりました.小学校でプログラミングを体験することになるので,このステップアップは当然かと思います.ただ,プログラミングに割いた時間が3年間で2〜6時間だった学校が60%という調査結果がある状況([3]にデータを引用した記載あり)で,はたしてこの学習指導要領がきちんと実施されるか心配なところです.

おわりに

 英国などでは5歳からプログラミング教育を行うなど,日本における初等教育の段階からコンピュータサイエンスの教育をすることが活発になってきている中では最低限のレベルとは思いますが,これだけの内容が「日本の」学習指導要領に盛り込まれたのはすごい画期的なことだと思います.感動ですw あとはきちんと実施されるかどうかですね.

(2017/2/16 一部改訂・追記)
(2017/2/23 追記)
(2017/4/11 タイトル改訂・一部修正・追記)

参考資料

[1] 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申),中央教育審議会,平成28年12月21日
[2] 小学校段階におけるプログラミング教育の在り方について(議論の取りまとめ),小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議,平成28年6月16日
[3] 加藤直樹,プログラミング教育の動向と期待,平成29年2月8日公開


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