【ジャズハーモニー研究】ドミナント・セブンス・コードの機能を3つに分類した

先日一緒に演奏したピアニストに、ブルースのトニック I7 やサブドミナント IV は、メジャー・コードの一種と考えてよいか否か、という見解を求められました。

ドミナント・セブンス・コードは、様々な和声的機能があり、テンションの種類も多く、結果として対応するスケールのバリエーションが多い(私は8つあると考えているけれどもそのうち実用的なものは6つ)ことも特徴です。したがって、場当たり的に解釈するのではなく、ある程度きちんと分類するほうが理解しやすいのではと考えます。

私は、以前からさまざまなドミナント・セブンス・コードの機能を以下の3つに分類整理しています。

分類その1:ドミナント機能をもつドミナント・セブンス・コード

ドミナント・セブンス・コードだからといって、すべてのドミナント・セブンス・コードがドミナント機能を持つとは限りません。

そもそもドミナント機能って何だ? ということですが、ここではざっくりと次のようにまとめました。

  • ドミナントV7と、そのトライトーン代理の♭II7。

  • ダブル・ドミナントII7と、そのトライトーン代理の♭IV7。

  • セカンダリ・ドミナント。それぞれのトライトーン代理も含む。

  • エクステンデッド・ドミナント(いわゆるドミナント・セブンス・コードのチェーン=連鎖)。それぞれのトライトーン代理も含む。

もっとざっくりというならば、完全5度下、または半音下のなにがしかのコードに進行しているもの、と考えたらよいでしょう。

もちろん、メジャー・キーのV7は、トニック・メジャーImaj7代理のIIIm7やVIm7(これはむしろ平行調のトニック・マイナーと解釈したほうが自然な場合もある)に進行するケースもあるし、あるいはサブドミナント・メジャーIVmaj7に進行することもあります。また、メジャー・キーのII7にはサブドミナント・マイナーIVm6に進行する性質もあります。

ダブルドミナントやエクステンデッド・ドミナントも、VIm7-II7-IIm7-V7のように、少なくとも見かけ上は直接完全5度下や半音下に進行しないものもあります。

しかしながら、これらは広義のドミナントとしての性質を備えていると考えることができるでしょう。だって、機能の名前に「ドミナント」って付いていますからね(説明になっていなくてすみません)。いずれにしても、これらは、ドミナント機能を持つドミナント・セブンス・コードということで括ることができるでしょう。

分類その2:代理コードとしてのドミナント・セブンス・コード(ただしトライトーン代理以外)

ドミナント・セブンス・コードが何かほかのコードの代理コードとなるケースがあります。

このうち、ドミナント・セブンス・コードのトライトーン代理は「分類その1」に含まれます。なぜならば、トライトーン代理は「分類その1」のドミナント機能をもつドミナント・セブンス・コードでしかうまく機能しないからです(加えて、すべての「分類その1」をトライトーン代理に置き換えることもできません)。したがって、「分類その2」とはトライトーン代理以外の代理コードの場合です。

有名なのは、トニック・マイナー代理のIV7(例えば、Mas Que NadaやWaveのヴァンプ部分、あるいはChelsea Bridge 冒頭のリハーモナイズ)、サブドミナント・マイナー代理の♭VII7(メジャー・キーもマイナー・キーも)、トニック・ディミニッシュ代理のVII7(主にメジャー・キー)があります。

また、これは人によって解釈が分かれる可能性がありますが、I7 $${^{(♯5)}}$$ 代理のIII7(例えば、On The Sunny Side Of The StreetやSomeday My Prince Will Comeの2小節目)や、V7 $${^{(♯5)}}$$ 代理のVII7(例えば、Foolin’ Myself の2小節目)のように、ドミナント・セブンス・コードの代理コードの場合もあるでしょう(ただしトライトーン代理以外)。

これらのコードは、完全5度上や半音下に進行しようとしない(偶然進行するケースはあるけれども、その場合「分類その1」とのピボットとなっているケースが少なくない)こと、加えて、原理的にトライトーン代理に置き換えることができないという性質があります。

分類その3:ブルージーなメジャー・コードとしてのドミナント・セブンス・コード

たまたまポピュラーのコードブックみたいなものを立ち読みしていたら、コードには、「メジャー系」と「マイナー系」があって、ドミナント・セブンス・コードは「メジャー系」のコードなのだそうです。

もちろん、覚え方としてはその考え方が役に立つことがありますが、ジャズ和声を教える立場からいえば誤解を招くという弊害のほうが大きいと思いました。私の考えでは、すべてのコードは原則として、メジャー・コード、マイナー・コード、ドミナント・セブンス・コード、ハーフ・ディミニッシュ・コード、ディミニッシュ・コードの5種類に分類できる(言い換えればこれらそのものか少し変化したもである)と考えるのが理にかなっていると思います。したがって、メジャー・コードとドミナント・セブンス・コードは厳密に区別するのが原則です。

ただし、多くの原則には例外がつきものでして、確かにメジャー・キーの一種と理解したほうが自然なドミナント・セブンス・コードがあります。それが、ブルージーなトニックI7やブルージーなサブドミナントIV7としてのドミナント・セブンス・コードです。

これは、12小節のブルースはもちろん、ブルージーな楽曲においてしばしば見かけます。

例えば、12小節のブルースの5-6小節目のIV7にはドミナント機能はありませんし、「分類2」のように何か代理コード(例えばトニック・マイナー代理)と考えることは不自然です。

同じくブルースの1小節目I7は確かに2小節目のIV7という完全5度下のコードに進行してはいますけれども、これがドミナント機能を持つかといわれれば、トライトーン代理の♭V7に置き換えるという発想をしないことから「分類その1」とみなすことには無理があると思います。ただし、ブルースの4小節目となれば話は別で、IV7へのセカンダリ・ドミナントという性質を帯びることがあり、実際トライトーン代理に置き換えるという発想も自然に成り立ちます。

このように、ブルースをはじめとしたブルージーな楽曲において、メジャー・コードの一種、すなわちブルー・ノートである短7度の音をもつ「メジャー・コード」としてのドミナント・セブンス・コードという使われ方が存在すると考えてよいと私は思います。

ちなみに、Gee Baby Ain’t Good To Youの冒頭のVI7は、無理矢理感がありますが平行調のトニック・マイナーのブルージーなものと解釈すればマイナー・コードの延長線上の「分類その3」というのも成り立つかもしれません。だって、このコードは「分類その1」でもなければ「分類その2」でもなさそうですから。ただ、ちょっと検討が甘いような気もするので、この結論は保留にさせてください。すみません。

結論

というわけで、冒頭のピアニストへの答えとしては、ドミナント・セブンス・コードがメジャー・コードの一種のようなはたらきをすることはある、というのが結論だと思います。本当はテンションやスケールとメロディラインやソロラインの関係の話も少ししたのですが、また機会があれば。

最後までお読みくださりありがとうございました。

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